──はぁい。少々お待ちくださいね。

 ごめんなさい。お待たせしました。……あら、どちら様かしら。

 ええ、ええ。わたくし達をお迎えに?

 まぁ。どうしましょう。困ったわ。まだ、お兄様がお帰りにならないの。ええ。わたくし達、お兄様を待っているの。お帰りになられた時にお一人では悲しいでしょうって、お父様がおっしゃったから。

 お母様? お母様は、お兄様が出立なされた後しばらくしてからお手紙が届いて、それで、そのお手紙をご覧になった後、気が触れてしまったの。

 毎日、毎日、何処かへお出掛けになられて──ああ、そう。そうだわ。そんなお母様をお迎えに行ったきり、お父様もいなくなってしまったの。

 町のほうへ赤い赤いお星さまがたくさん落ちた夜からずっと、わたくしお留守番をしているのよ。

 ええ。お姉様とふたりで。……あら、お姉様を御存知なのね。そうね。お姉様はとてもお綺麗だもの。遠くの方のお耳にまで届いているのでしょうね。

 けれど、お姉様はいらっしゃらないわ。何処にもいらっしゃらないの。ええ、わたくしが食べてしまったから、お骨もないの。

 お父様とお母様がいなくなってしまってから、ふたりでお留守番をしていたのだけれど、ある時からお姉様は眠ったままお目覚めにならなくて。

 それでもわたくし、ひとりでずっとお留守番をしていたのだけれど、どうしてもお腹が空いてしまって。それで、お姉様の指を齧ってしまったの。

 怒られてしまうのではと思ったけれど、お姉様はお許しになってくださって。だから、わたくし、それから少しずつお姉様を食べてしまったの。

 だって、とっても、とっても、ひもじかったの。

 それで、そう。わたくしが骨まで食べてしまったから、お姉様はもう何処にもいらっしゃらないの。お姉様がいないから、わたくしはひとりで待たなければいけないの。そうでないと、お兄様が悲しんでしまうから。

 ええ。ええ。ずっとお待ちしているの。きっと帰ってきてくださるわ。だって約束したのだから。本当よ。指切りだってしたもの。必ず戻ってくると、おっしゃっていたの。

 だから──……あら。どうなさったの。そんな悲しいお顔をなさらないで。もう、ひもじいこともないの。苦しくもないの。寒くも、暑くもないの。きっと、お姉様が守ってくださるのよ。だから、わたくしは平気。

 ここで、ずっと、ずっと、お兄様を──


「あら? わたくし、いつから角が生えたのかしら」

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