第2話   波乱の学校生活スタート

いつまでも校門に突っ立ってる訳にはいかないと分かってるけど、体が動かないの。だって、今ここに居る私は、男子なんだもの。ああ、もう帰りたい。偽りの自分を演じるなんて、私には、無理よ。制服屋で、神星に学ランを返し、普通の女子制服を買おうとしたら、契約を放棄すると、災いが起こるから覚悟しろって言われたの。それって、幽霊に呪い殺される可能性もあるって事よね。俺は、短い人生だったのに、お前だけが長生きして、良い思いをするのは、許せないから、あの世へ連れて行くとか・・。絶対に、そんな事させないんだから。えーい。もう、やけくそ。やったろうじゃない。男生活。


校門を入ると、すぐの昇降口の所に、人が立っており、新1年は、こちらと案内されると同時に、クラス名簿を貰った。その瞬間、クラス名簿が真っ白になり、再び、文字が現れた。それと同時に、担任とか、クラスメートの記憶も操作されるのかな?これも学ラン効果?私は、A組の49番で、男子の側に表示されていた。教室に入ると、担任が立っており、私の名前を確認。そして、勇飛君だねと言われた。君で呼ばれるなんて、変な感じ。それは、そうよね。男生活の初日なんだもの。


入学式の時間が近付き、体育館に行く為、廊下に並ぶんだけど、当然ながら、今の私は、男子だから、男子だけの列に入らねばならない。抵抗があるし、緊張し過ぎて、その場で、気を失い、倒れてしまった。


暫くし、目覚めると、私は、保健室のベット上だった。

「大丈夫?」

声が聞こえたので、横を見たら、春休みに出会った彼が居た。急な事に驚き、「うわぁー!」と大声で叫びながら起き上がった。

「無理しないで。まだ寝ていた方が良いよ。」

「あ・・あの・・あなたがここに運んで下さったのですか?」

「クラスメートなんだから、丁寧語でなくて良いよ。」

本当?同じクラスなの?凄く嬉しい。

「あの、名前は?」

「真癒輝野。君は?」

「勇飛強。」

「僕は、48番だから、君の一つ前だね。」

同じクラスな上に、出席番号が前後だなんて、幸せ過ぎ。

「突然倒れるから、驚いたよ。」

「いや・・その・・新しい環境に行くと、極度に緊張しちゃって・・。」

すると、真癒君は、笑った。

「やっぱり、おかしいかな?」

「いや、そうでなく、男の割に、随分可愛らしいと思っただけ。俺は、勇飛のそういう所、好きだよ。」

中学初日から、クラスの皆の前で倒れ、恥ずかしい思いをしたけど、真癒君の優しさに救われ、良い思い出に変わりそうです。

「いつから、ここに居たの?」

「君が倒れ、保健室まで背負い、ずっと傍に居たから。」

ちょっと待って。今、私は、男なのよ。その私を背負って?

「恥ずかしくなかった?」

「緊急事態なのに、そんな事、思ってられないよ。それに、君を救えて嬉しい。だから、恥ずかしいなんて感情は、無いよ。」

春休みの時以上に、彼に、ときめいてしまいました。

「そろそろ、戻るよ。」

「焦らなくて、大丈夫だよ。今は、体調を整える事を考えた方が良い。俺も、まだここに居るから、ゆっくりしろよ。」

「有難う。でも、もう平気。教室に戻ろう。」

「分かった。君がそう言うなら。」

私達が教室に戻った時には、担任だけが居た。私の体調の心配と、配布物を1枚渡されて終了した。

「オリエンテーションなんてあるんだ。しかも明後日とし明後日の1泊2日。」

「南護瀞かー。ライン下りで有名な所だな。」


帰りは、校門まで、真癒君と一緒しました。

「じゃあ、俺、こっちだから。」

「今日は、本当に有難う。助かったよ。」

「君が居る中学ライフは、楽しくなりそうな気がする。これから、宜しくな。」

「こちらこそ、宜しく。」

「じゃあ、また明日。」

「うん。」

お互い、手を振り、別れた。そういえば、クラス名簿、まともに見てないんだよね。えーっと、真癒君は・・本当だ!48番。登校時、校門の所で小学時代からの友人に会ったけど、同じクラスなのかな?どれどれ?和村園・・居た!同じクラスで、女子の最後の出席番号。・・ていうか、席が近い筈なのに、気付かなかったなー。まあ、自分の事しか頭に無かったしね。・・は?そういえば、今の段階だと、この学ランを見た人の記憶が操作され、私は、元々男という事になるのよね?せめて、園には、正体が私だと打ち明け、知ってもらいたい。友人にまで、男だという事にされるのは、辛いよ。神星の所へ行き、設定に、付け加えてもらおーっと。


神星の制服屋。

「おう。お安いご用だ。早速、入力しとく。確かに、そうだよな。たった一人でも、本当の自分を知ってくれる人が居ないと、孤独感に押し潰されるもんな。」

「どうせ、他人事じゃない。」

「まあな。俺としては、幽霊の望みが叶えば、それで良いからな。まあ、気長に頑張れや。」

「フザケんなー!」

「他に、追加したい設定は、あるか?」

真癒君にも、今は、男だと思われてるんだよね。でも、いずれ正体を明かして、春休みの時のお礼がしたいな。

「じゃあ、もう一つだけ。」


家に帰宅し、私の部屋の扉を閉め、「マイルーム!」と叫ぶと、光が出現した。念の為、鏡を見てみたら、Tシャツとジーパン姿で、元の姿に戻っていた。学ランはというと、床に、落ちていた。ああ、やっと戻れて一安心。あ、そうだ。クラス名簿は、どうなってるんだろ?見てみたら、私の名は、女子の方に表示されており、園の一つ前の48番になっていた。とりあえず、園に電話しよう。

「もしもし、園。強よ。」

「強?体調は、大丈夫なの?風邪だって聞いたよ。」

記憶操作し過ぎ!

「もう、大丈夫。」

「私達、また、クラス一緒だよ。」

「小1の頃から、ずっと同じクラスだったから、中学でも一緒になれて嬉しい。」

「明日は、自己紹介とか係や委員会決めやるんだって。」

「自己紹介する事なんて、何も無いよ。」

「強はさ、ケーキ食べ放題の店で、苺・チョコ・ブドウケーキを合わせて30個も食したじゃん。その話でもすれば?」

「ヤダー。ハズ過ぎだよ。大食い女だなんて、思われたくない。」

「大食いしてるのに、痩せてるってギャップが良いんじゃん。」

「それよりさ、明日、学校で、園に話したい事があるの。」

「何?もしかして、ケーキ大食い新記録達成とか?」

「もう、園ってば、大食いにばかりこだわるんだから。そんな話じゃないから。」

「それは、残念。楽しみにしてたのに・・なんてね。どんな話でも聞くよ。私達、親友でしょ。」

「有難う。じゃあ、明日学校で。」

「明日ね。」

私が園に、正体を明かした時点で、園の記憶操作は、解除されるという設定を、神星に、追加してもらったの。男姿の私でも、園と友人関係が続きます様に。


翌朝、自分の部屋で学ランを着て、光に包まれ、男子に変身した私。昨日は、この姿で出掛ける事が嫌でたまらなかったんだけど、優しい真癒君が居てくれるし、園に、私の正体を知ってもらえれば、少しは、気が楽になると思うの。


学校の通学路で、園に会った。

「おはよう、園。」

「ゲッ!昨日のキモ男!」

「私達、同じクラスじゃない。」

「アンタ、オネエ系?」

「それは、後で、ゆっくり話すわ。」

「ヤダ!やめてよ。私、苦手なの。そういうの。寒気がする。私、先に行くから。」

園は、走って行った。親友と話してると、今の自分が低音の男声だって事、忘れちゃうんだよね。本当は、私も走って追い掛けたいけど、大切な親友を、あまり困らせたくないから。


校門の所で、真癒君に会った。

「おはよう、勇飛。」

「おはよう。」

「昨夜は、よく眠れた?」

「え?」

「昨日、倒れた事を気にして、落ち着いて眠れなかったんじゃないかって心配だったから。」

ああ・・幸せ。帰宅してからもずっと、私の事を気に掛けてくれてたなんて。

「おかげさまで、熟睡出来たよ。」

「それなら良かった。」

靴箱は、横長。一つの靴箱を、出席番号順で、二人で使用するの。私と真癒君は、隣なの。それもまた、嬉しい。昨日、皆の前でれてしまったから、教室に入るのが、少し気まずかったけど、真癒君が傍に居てくれたから、安心して、教室に入れたわ。着席し、隣を見ると、親友の園が居た。私と園は、同じ49番なの。

「そーの!」

話し掛けると、園は、耳を塞いだ。

「聞きたくない。オネエで馴れ馴れしくしないで。第一、アンタとは、昨日、初めて会ったのよ。」

「また、帰りに話すから。」

学ランを着て男子になったおかげで、友人の記憶から、今迄の私が消えてしまうなんて、辛いよ。


自己紹介の時間になり、あっという間に、真癒君の番。次は、私だー。一人ずつ前に出て話すなんて、緊張するよ。・・ていうか、男声で話すの、まだ、抵抗があるんだよね。真癒君は、どんな事を話すのかな?

「初めまして。真癒輝野です。自己紹介ではなく、皆さんにお願いがあります。昨日、勇飛君が皆さんの前で倒れてしまいましたが、男なのに恥ずかしいとか、冷たい目で見ないで下さい。新しい環境に身を置くと、緊張する人もいるという事を、知ってもらいたいのです。彼は、男の割に、可愛らしく、傍に居ると、癒されます。これから、もっと、彼と仲良くなりたいです。」

私は、嬉しくて、涙ぐんだ。自分の事より、人の事を第一に考える真癒君の優しさに触れる度、幸せになれるの。

次は、私の番。男として、人前に出るのには、まだ、抵抗があるけど、真癒君に、前に進む勇気を貰ったから、もう大丈夫。

「勇飛強です。昨日は、突然倒れ、皆さんを驚かせてしまいました。新しい環境に身を置くと、極度に緊張してしまうのです。皆さんと仲良くしたいです。これから、どうぞ宜しくお願いします。」

自分の座席に戻った後、真癒君が、「よく頑張ったな。」と声を掛けてくれてました。


自己紹介の次は、係や委員会決めです。

「勇飛は、どうする?」

「まだ、決めてない。」

「じゃあ、一緒に、図書委員やらない?」

「皆がどんな本を借りるのか見るの、楽しみ。いいよ。一緒にやろう。」

こうして、私と真癒君は、図書委員になりました。


次は、皆、座席を立ち、動いて、様々な人と仲良くなろうという事になった。そしたら、すぐに、ある男子が声を掛けて来た。

「今日は、元気で良かった。」

「えっと・・名前は・・」

「広優大。マッヒーでいいよ。君は、強で良い?」

「良いよ。」

「僕も、新しい環境は、苦手。・・ていうか、このクラスに、同じ小学校出身が、一人も居ないんだ。」

「・・そっか・・それは、淋しいね。」

「それにしても、緊張に堪えて、人前で話す姿は、カッコ良かった。」

「そう?」

「強は、部活、何にするか決めた?」

・・ていうか、この姿のまま、長時間過ごしたくないんだよね。

「マッヒーは?」

「僕は、陸上部にしようと思ってる。速く走れる様になりたいんだよね。オリンピック選手とか憧れるよ。」

そういえば、この学ランの中に居る幽霊の望みは、走りで1位になる事だっけ。でも、神星は、この学ランに、速く走れる機能を付けてるって言ってたし、幽霊本人の意志レベルが強いから、相当速く走る事になるって言ってたよね。どうせ、あっさり、1位を取るだろうし、部活で陸上部なんて入る意味無いよね。

「ヒーロー部なんてあったら入りたいな。」

「何?それ?」

「テレビでやってる特撮みたいにさ、自分達で何とか戦隊何とかみたいな感じで、お話作って、週に1回、学校のテレビで放送する。撮影は、自分達でやるし、コスチュームも、全て、自分達で作る。小さい頃から、ヒーローに憧れてたんだ。」

「マジで?実は、僕もそう。中学生ともなるとさ、そういうの、人前で話しずらいからさ、強が話してくれて嬉しかったよ。でも、そういう部活無いよね。先生に聞いてみて、同好会という形からでも可能なら、やってみても良いんじゃない?」

休み時間は、あっという間に過ぎた。真癒君の他に、話せる男子が増えて良かった。これで、少しは、このクラスに居やすくなったかも。後は、園に、私の正体をバラすのみ。


帰りの時間になり、真癒君とマッヒーと私は、校門まで一緒に帰る事に。

「あーあ。明日からのオリエンテーション、班は、出席番号順の6人班だから、強達と一緒になれなくて残念だよ。」

「でも、ずっと班行動って訳じゃないし、落ち込む事無いよ。夜もさ、部屋に遊びに来なよ。」

「有難う、強。そうするよ。」

「良かった。勇飛に、新しい仲間が出来て。」

「真癒ってさ、凄い優しいよな。自己紹介なのに、強が、これから、このクラスに馴染める様に、気を遣ってたもんな。」

「俺、勇飛の力になりたかったんだ。もし、今後、勇飛の身に危険が及んだらとか思うと堪えられなくて。だって、勇飛は、大切なクラスメートだろ?」

いつか、元の姿で、真癒君に、大切な恋人だって言われたいな。


真癒君とマッヒーと別れた私は、友人の園の家に向かった。どうしても、今日中には、私の正体を知ってもらいたい。男仲間が二人も出来た事は、確かに喜ばしい事だけど、本当の私をよく知っているのは、小学時代からずっと一緒だった、園なんだから。向かっている最中、園が、私を抜かした。

「ちょっと待って。無視しないでよ。」

「アンタとは、口をききたくないの。いい加減、そのオネエ口調やめてよね。キモ過ぎ。」

私は、園に、小6の遠足で、山の頂上で一緒にお弁当を食べている写真を見せた。

「覚えてる?去年、遠足で、鷲尾山に登った時のだけど・・。」

「・・何で?何でアンタがこの写真を持ってるの?」

「それを、これから説明するから、一緒に、家に来てくれない?」

「そうね。ちゃんと説明してもらわないと、納得いかない。」

こうして、園は、私の家に上がり、一緒に、私の部屋に入りました。

「驚かせると思うけど、園の目で、しっかりと真実を見て。」

部屋の扉を閉めると、私は、光に包まれ、瞬く間に、元の姿に戻った。

「園。もう目を開けて良いよ。」

「あー、眩しかったー。何だったの?今の光。・・え?・・どういう事?強?ちょっと待って・・今し方、ここに、学ランを着た男子が居たのよ。」

「すぐには、信じられないと思うけど、今し方、ここに居た人物の正体は、私なの。訳あって、男子に変身して、学校へ通う事になったの。これから話す事をよく聞いて欲しいの。」

私は、春休みに、制服屋で起こった出来事を、一部始終話した。

「強。まずは、謝らせて。事情を知らなかったとはいえ、オネエ口調キモイなんて言って、ゴメンね。」

「仕方ないよ。今、話した通り、この学ランを着ると、他の人の記憶は、操作され、女としての私は、この世に存在してない事になるんだもの。」

「強の事、傷付けたのに、私の事、許してくれるの?」

「今、言ったでしょ。仕方ないって。それに、私達、親友じゃない。」

「・・強・・有難う。」

私達は、抱き合った。

「園、また、同じクラスになれて、嬉しい。」

「私も。それに、明日からのオリエンテーションの班、一緒だよね。」

「うん。」

「急に、男として生活せねばならなくなって、精神的にショックだよね。だから、昨日、倒れたんでしょ?」

「まだ初日だし、男姿に慣れてなかったから。」

「真癒君だっけ。困った人を放っておけないタイプっていうか、自分より、人の事を優先する人だよね。今朝、彼が、自己紹介で、強の事を庇ってたじゃん。」

「実はね、彼とは、制服屋の帰りに、一度会ってるの。」

その事も、一部始終話した。

「いいなー。お姫様気分になれたでしょ。・・ていうか、心の底から暖かく優しい人よね。それで?ときめいちゃった?」

図星をさされて、赤面した。

「やっぱり。性格の良さだけでなく、見た目もカッコイイもんね。それで、保健室では、何があったの?」

「べ・・別に、何も無いよ。また助けられたなって感じで。」

「でも、春休みの時以上にときめいた。」

「もう、園ってば。」

「さっきより、益々、顔が赤くなってるよ。」

「ねえ。学ランの中に居る幽霊が望む恋愛って何なのかな?具体的な事、教えてもらってないんだよね。女子に対する恋愛?それとも、私が、普通に、男子にする恋愛?」

「うーん・・そうよね。幽霊は、男子なんだもんね。でもさ、具体的に言って来ないって事は、男女関係なく、強が、普通に恋愛して感じるものを共有したいんじゃない?仮にそうだとしたら、このまま、真癒君と良い関係になって、いずれ、正体を明かして、本当の恋人になれば、恋愛経験って望みは、解決するんじゃない?」

「・・だと良いんだけど。後さ、走りが1位になりたいって、何を意味してると思う?単なる授業の中で?運動会?駅伝?オリンピック?」

「強さ、陸上部に入ってみたら?元陸上部の兄から聞いた話だけど、年1回 、連合陸上大会っていうのが催されるらしいの。世戸山区の全ての中学の陸上部が集まるらしいよ。学校内という狭い範囲より、違う学校の見知らぬ人達と対決して1位を取れた方が、喜びが大きくなるんじゃない?」

「そっかー!その手があったかー!私、陸上部に入ろうかな。」

「2つの望みを叶えて、早く、元の生活に戻れる様、祈ってるから、頑張ってね。」

「有難う。」

「強、明日から、一緒に学校へ行こうよ。」

「うん。」

「それから、学校に登校する時から、言葉を男バージョンに変える事。俺とか、語尾を何とかだなにしてみたりとか。私は、正体を知ったけど、何も知らない人達からすれば、学ランを着てる間、強は、男だからね。私が居るからって、つい、オネエ口調を発してしまったら、怪しい人だと思われるから。慣れるまで大変だと思うけど、これからの学校生活を気持ち良く送る為にも、女としての自分を封印し、ぐっとこらえないと。」

「何か、気持ちが、少し軽くなった。園に、正体を知ってもらったから。」

「もし、どうしても辛くなったら、二人で、誰にも見つからない所に行って、そこで、女としての強に戻る時間を取ろうよ。」

「有難う。園、優しいね。」

「当たり前じゃん。親友だもん。」

こうして、私と園は、やっと、本来の親友に戻る事が出来ました。


翌日、いよいよオリエンテーションで、南護瀞に行く事に。園とは、私の家の前で待ち合わせです。

「強、おはよっ。」

「おはよっ。園」

「・・・ゴメン。まだ、慣れない。男声で挨拶されるの・・。その内、慣れるから。」

「私も同じ。この声で話すの、まだ抵抗があるんだよね。」

「当たり前だよ。だって、強は、本当は、女の子なんだから。今の声って、変声期後の男性の声でしょ。合唱だと、バスだよね。小学時代は、ソプラノだったのに、随分極端な変わり様だよね。」

「私の美声を、今すぐ返してもらいたいわ。」


学校に到着したら、既に、真癒君とマッヒーが居ました。

「オッス、勇飛。」

「オッス・・えっと・・」

「輝で良いよ。それにしても、いつの間にか、和村とも仲間になったんだな。」

「それは・・その・・」

「実は、私達、低学年まで同じ小学だったの。中学で、久々に再会したのよ。」

「そうだったんだ。良かったな、勇飛。親しい仲間と再会出来て。」

「ああ。凄く嬉しい。」

セリフ、少しは、男っぽくなれたかな?

「そういえばさ、しおりを見たら、僕と強、バスで隣の席になってた。」

「マジで?めっちゃ嬉しい。」

「私は、強の1つ前。」

「俺だけ、一番後ろで、皆と席が離れて淋しいよ。」


南護瀞の宿前に、バスが到着し、バスを降りました。

「勇飛。広と何の話してたの?」

「特撮の戦隊ソング歌ってた。」

「強は、暴進戦隊イノカイザーが好きなんだって。僕は、吸血戦隊モスキーレンジャーが好き。真癒は、戦隊もの見てた?」

「俺は、天上戦隊ゴッドレンジャーが好きだな。」

「私も。・・ていうか、叶わぬ恋っていうのに、ドキドキしたよ。」

「人間の少女と神の弟子の少年との恋。少年は、戦いが全て終わったら、天上に戻らねばならない。それでも、少女を心の底から愛し続けるんだよな。」

「強、よく覚えてんじゃん。・・ていうか、私と一緒に見てたもんね。」

「和村と?」

「そうそう。毎週、番組開始10分前に、園が俺んちに来てたよな。」

「勇飛と和村は、本当に、仲が良いんだな。」


一旦、部屋に荷物を置いた後、ライン下りへ行った。私は、水上を動く小船に恐怖を感じ、顔が青ざめていた。

「勇飛、大丈夫?」

「・・どこかで、転覆したりしないよな。」

「強は、船とか苦手なの。映画のテイトニック見てから、沈没して死ぬんじゃないかとか恐怖を抱く様になったのよね。」

「勇飛は、心配性だな。もし、何かあったら、俺に掴まれば良いよ。俺、海や川を泳ぐの得意だから。」

「へえ、それは、頼もしいじゃん。強、マジで、真癒に頼ったら?」

「何言ってんだ。そんなんじゃ男が廃るだろ?」

「俺は、勇飛に頼られたら嬉しいけど。」

ああ・・それ、女姿の私に言って欲しかったよー。

「あ、強。顔が真っ赤だよ。もしかして、真癒に気があんの??」

「有り得る訳ないだろ?同姓だぞ。キモい事言うなよ。」

真癒君が、突然笑い出した。

「アハハハ。勇飛ってさ、まるで、女の子みたいに可愛らしいな。俺、そういうギャップ好き。」

それは、プラスにとらえて良いの?私が男として気楽に過ごせる様に接してくれる真癒君の優しさが嬉しい。


いよいよ、ライン下りスタート。私の頭の中は、小船に対する恐怖心で占められており、周りの景色を見る心の余裕など無かった。

「勇飛。本当に恐怖なんだな。顔が青ざめてる。」

「俺、無事に、家に戻れんのかな?ここで命落とすんじゃないかって不安だよ。」

暫くして、船頭さんが、これから急流になるって言い、その矢先、急流に。

「いやー、助けてー!恐いー!」

もう、叫ばずにいられなかった。

「強、落ち着いて。」

「無理ー!もう、生きて戻れないー!」

私は、涙ながら、ただただ叫んでいた。そんな矢先、急に、真癒君が私を抱きしめた。

「大丈夫。俺が付いてる。俺と勇飛の運命は、共にある。何が起ころうと、俺が一緒だから。」

真癒君に包まれていたら、何故か落ち着いて、私は、いつの間にか、眠っていた。他の生徒達に注目されているとは、知らずに。


目覚めた時は、宿の部屋に横になっていて、真癒君・園・マッヒーが居た。

「勇飛。調子は、どう?」

「・・宿に戻ったの?」

「強。和村から話聞いたけど、急流になった時、小船の上で叫んでたんだって?」

「マッヒーの班が別で良かった。大恥かいちまったからな。」

「真癒じゃないけど、僕も、男っぽくない可愛らしい強ってのを、見てみたいんだよ。」

「・・ていうか、暫く、噂されるよ。真癒は、同姓愛者だって・・。」

「和村の心配には、感謝する。でも、構わない。勇飛の窮地を救う事が出来たんだから。」

「大らかだね。真癒は。強、皆、夕飯食べて、後は、私と強だけ。一人で食べるの淋しいでしょ。」

「・・園。有難な。」

私と園は、二人で小声で食事をした。

「私さ、正直、強のこれからが心配。急流になった時、話し方が女子に戻ってたから。」

「・・多分、恐怖ばかりで、頭が回らなかったのかも。」

「とりあえず、今後、誰かがその事について、追求して来たら、窮地に陥ると起こる不思議現象だって、私から伝える。」

「心配かけて、ごめんね。」

「謝らないで。親友なんだから、心配の1つや2つ、させてよ。・・にしても、真癒は、人目を気にせず、同姓を抱きしめるなんて、どれ程の精神の持ち主よ。宿に戻る時も、強を背負ってたし。」

「本当。人を救えるなら、どんな事でもするんだもん。でも、彼に包まれていた時、安心感があったの。それまで抱いてた恐怖心が、一瞬で、どこかに飛んだというか・・。」

「真癒にはさ、人の心を癒す才能があるよね。」

食事後、部屋に戻り、布団に横になった。

「勇飛。入浴しないの?」

「いい。今日は、精神的に疲れた。」

「そっか。じゃあ、俺も横になる。」

だ・・駄目!暫く距離を置かないと、ドキドキし過ぎて、体調が悪くなるー!

「な・・何言ってんだ。行って来いよ。体が気持ち悪くなるぞ。」

「・・それもそうだな。じゃあ、行って来る。止めるなら、今だぞ。後から、淋しいって言っても遅いからな。」

「は?言う訳ないだろ?さっさと行けよ。」

真癒君は、悲しげな表情で、出て行った。それにしても、今のセリフ、何だったんだろう。本当に、私に、淋しいと言ってもらいたかったのかな。益々ドキドキしちゃうよ。


翌日の帰りのバス。

「なあ、強。君達、何かあった?真癒、今朝から、君を避けてるみたいだけど。」

「そうなんだよ。おはよって言っても、無視して、顔を背けんだぜ。」

私、昨夜、真癒君が入浴に行った後、そのまま眠ったんだよね。彼が戻ったら、淋しかったって、私に言われたかったのかな?仮に、そうだとしたら、後で言わないとだよ。真癒君は、何度も窮地を救ってくれた大切な人だもん。このまま避けられたら、私が辛い。


学校に到着。バスを降り、校内に入った所で、「輝!」と呼び止めた。

「輝。昨日、淋しいと言う訳ないだろなんて言って、ごめんな。俺、本当は、凄く淋しかった。一緒に眠りたかった。」

「・・本当?本当に?とても嬉しい。」

真癒君は、振り返り、笑顔になった。

「それに、やっと、輝って呼んでくれた。」

仲間に、淋しいと言われたい真癒君こそ、可愛らしいよ。とにかく、仲直り出来て良かった。


いよいよ、授業スタート。1時間目から、早速、体育。男女共に、校庭で体育です。ちなみに、女子は、更衣室に行き、男子は、教室で着替えます。

「じゃあね、強。また後で。」

「ああ、また後でな。」

何か、変な気分。今の私は、男であり、男だけの教室で、着替えるのよね。抵抗があって、体が動かない。

「強、早くしないと、授業に遅れるぞ。」

「勇飛が着替え終わるの、ここで待ってるよ。」

つい忘れてしまう。今は、二人の男仲間がいるという事を。


男子は、100メートル走のタイム取りをやる。ああ、嫌な日が、遂に、やって来た。腕に書かれた、赤文字のM。今は、この文字の中に、幽霊が居るのよね。そして、私は、操られようとしているのね。ああ、最悪。見学したい気分よ。

まず、マッヒーが走ったんだけど、皆に追い付こうとかなり必死に走り、息切れ状態。

「ヤッバー。たった100メートルだけなのに、疲労感半端ない。鍛えないと。」

「マッヒー、お疲れ。タイムは?」

「12秒30。遅いよな。」

「広、気を落とすなよ。ただの授業なんだから。」

真癒君は、あっという間に、他の走者を抜かし、トップに。

「真癒が羨ましいよ。オリンピック選手を狙えるんじゃない?」

「輝、随分速い走りだったな。」

「一応、10秒4。」

「スゲー。ってかさ、輝、陸上部入るべき。」

いよいよ、私の走る番。恐ろしい出来事が幕を開ける。よーいドン!の掛け声でスタートした瞬間、私の体が、急に、絶叫マシンの様に超速になったのだ。速過ぎて、途中でこけるのではないかと恐ろしく、「うわぁー!」と大声を上げながら、走ってしまった。何という醜態だろう。

走り終えた時には、目が回っていた。

「・・強。君、一体、何者?」

「な・・に・・も?」

「勇飛。驚異的なタイムだよ。2秒ジャスト!」

「ん・・に?・・え?ええ?2秒ー!?」

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