明日へ向かってGO

ファイヤー★アップル

第1話   私は、誰?

おはよう。私、勇飛強。男っぽい名前だけど、女子です。今日は、中学の入学式なの。ところが、今の私は、見た目も声も全て、男子。顔も全く別人でショック過ぎて、学校に入れずにいるの。こうなってしまった原因は、春休みに遡るわ。


小学校卒業後の春休み、私は、中学の制服を買いに、出掛けたの。実は、男っぽさに憧れを抱いていて、小学校時代から、スカートでなく、長ズボンか半ズボンを履き、上は、Tシャツという生活をしているの。あくまで、服装の話で、ヘアースタイルは、いつも、ポニーテールよ。中学の制服がスカートとズボンの選択制ならいいのにとか、学ラン希望の女子には、学ラン登校も可なんてあれば良いのにと考えてる。こんな変な事を考えるのは、私だけかもだけど。小学時代、通学路で、学ランを着て歩く中学生を見て、カッコイイと一目惚れしたの。学校で学ランが着られないなら、せめて、家の中で男装したいなと思い、学ランも一緒に購入する予定なの。

制服屋に入ると、若い男性の店員さんが迎えてくれた。

「いらっしゃい。それにしても、カッコイイね。」

服装の事を褒めてくれてるのかな?

「私、好きなんです。こういう格好。」

「制服だよね。女子用は、こっち。」

「いや・・その・・」

「どうした?」

「が・・学ランも欲しいんですけど。」

「え?でも、君、女の子だよね?」

「えっと・・趣味というか・・。」

「何?男装趣味?面白いね!それ!」

「馬鹿にしてます?」

「いや、制服買いに来る女の子でそういうの初めてだから、新鮮なんだよ。」

「試着して良いですか?」

「良いよ。じゃあ、これを着てみて。」

その時の私は、これから何が起ころうとしているのか、全く分からなかった。

試着室で学ランを着た瞬間、眩い光に包まれた後、目を開けると、ショートカットで、別人の男顔になっていたの。さすがにショックで、「ちょっとー!これ、どういう事!?」って叫んだら、声も変声期後の低い男性声に。早く脱がなくちゃ。ところが、脱げない。

「何?何なの?この気味の悪い学ラン。」

私は、試着室を出て、店員を呼んだ。

「すみません。この学ラン、どうなってるんです?脱げないんですが。」

すると、店員が、拍手しながら笑顔で現れた。

「おめでとう。君は、今日から、救世主だ。男姿、凛々しいな。声もカッコイイじゃないか。良かったな。男になってみたかったんだろ?」

「は?・・ていうか、フザケないで下さい。元の姿に戻りたいんですけど。」

「時、既に遅し。君には、ある幽霊の生前に叶えられなかった望みを叶える使命がある。」

「勝手な事言わないで下さい。大体、あなた、何者なんです?」

「紹介が遅れた。俺は、神星。制服屋であり、幽霊お悩み相談室長でもある。」

「幽霊お悩み相談室長?」

「幽霊の為のボランティア活動といったところだ。小2の頃、突然の病で亡くなった親友がいた。俺は、小さい頃から霊の姿が見えてな、死の直後、幽霊になった親友が、プロのサッカー選手になりたかったと泣きながら語っていた。それを機に、悔いを残して死んだ幽霊が悔いを残さずに成仏出来る様に手助けしようと心に誓った。」

一見、感動話の様に思えるけど、きっと、罠よ。

「私、幽霊に興味ないんで。」

「君が、男装趣味で好都合だ。実は、その学ランには、ある男子中学生の魂を組み込んである。彼は、走りで1位になる事に憧れていたそうだが、生前は、ずっと、最下位だったそうだ。それから、恋を経験してみたかったそうだ。」

「亡くなったものは、どうしようもないでしょ。」

「そう、冷たい事言うなよ。」

「他の人をあたって下さい。」

「残念だが、それは、無理だ。」

「どういう事?二度と元に戻れないの?」

「まずは、俺の話を聞け。今、君が着ている制服を、スピリッツ制服と呼んでいる。スピリッツ制服には、それぞれ、番号がふってある。君の着用したのは、3番の制服だ。1つの番号毎に、俺のパソコンでデータ管理している。スピリッツ制服を着用した瞬間、光が現れたろ?あれには、2段階ある。第1段階は、カメラのフラッシュ機能で、制服着用者の写真を撮る。そうする事で、制服と着用者が紐付けられ、何番の制服を誰が着用したのかというデータが、自動で、俺のパソコンに送られる。先程、学ランが脱げなかったのは、俺の手入力で設定せねばならない部分があるからだ。それは、元の姿に戻れるのかという疑問に、関わってくる。第2段階は、変身機能だ。」

「今すぐ元の姿に戻れる様、設定してよ。」

「それは、無理だ。君と学ランが紐付いた時点で、君と男子中学生の魂との間に、契約が結ばれた。君が、本当に、女子に戻れる時は、彼の魂が、成仏する時だ。その時は、学ランを着用していても、元の姿に戻れる。」

「じゃあ、いつ、元に戻れるか分からないじゃない。」

「契約中とはいえ、ずっと、男姿のままという訳じゃない。元に戻れる時もある。君と契約した魂の望みは、あくまで、学校生活の範囲内のものだから、家に居る時や休日は、元の姿で居られるぞ。」

「家って・・場所知らないでしょ?」

「家とはいえ、あくまで、君が自分の部屋の中に入ったら、元の姿に戻れる。君の学ランには、魂の他、音感知機能付きGPSも組み込まれている。初日だけ面倒だが、帰宅の際、自分の部屋に入り、扉を閉めたら、マイルームと叫べ。それで、君の部屋の位置情報がGPS画面に登録される。2回目からは、君が扉を閉めた音だけで、自動で元に戻れる様になる。」

「疑問その1。男姿になれば、両親に、不審者と思われるじゃない?」

「この学ランを見るだけで、両親の記憶は操作され、君が元々男であるという事になるから、心配無い。」

「疑問その2。学ランを脱げば、学校でも、元の姿に戻れるんじゃない?」

「君の腕を見てみろ。」

腕まくりをしてみると、腕に、赤文字でMと書かれていた。

「ヤダ!コレ!ハズイじゃない!」

「この文字が記されている間は、男姿のままだ。体操着に着替えようともな。ちなみに、文字は、君にしか見えないから、安心しろ。元の姿に戻れば、Mは、消える。ちなみに、言い忘れたが、この学ランには、速く走れる機能も付いている。学ランに組み込まれた魂の意志レベルにより、速さが変わる。まあ、彼の意志の強さなら、相当速く走る事になるだろうがな。体操着に着替えた時は、Mの文字が学ランの代わりになる。つまり、学ランを脱ぐと同時に、魂も、Mの文字の中に、移行する。学ランを着る時には、魂も、学ランの中に戻る。」

ああ、もう嫌。今まで、普通の女子として生活していた私が、突然、男子として、学校に通わねばならないなんて・・。あくまで、趣味として男装を楽しむ筈だったのにー。これじゃあ、普通に恋とか出来ないじゃない。神様、どうか私を助けて下さい。

「よし。設定完了。月曜から金曜は、帰宅し、自分の部屋の扉を閉めた時点で、元に戻る。ただし、祝日となった場合は、元の姿での生活。土日も、元の姿での生活。」

「本当に、その通りになるの?心配でならないわ。」

「学ランには、カレンダー機能も組み込んである。」

きっと、男装したいなんて、考えていたから、罰が当たったのかもしれない。

一通りの説明が終わり、学ランも脱げ、元の姿に戻れた私だけど、もう、このまま時間が止まって欲しい。私、本物の男子になる事を望んでた訳じゃないし、幽霊の生前の望みを私が代わりに叶えねばならないだなんて、真っ平よ。

「毎度ありー。早く、普通の女子中生になれると良いなー。」

他人事だからって、フザケんなー!これから、男子生活せねばならないのは、私なんだからね。


制服屋を出て、家に帰る途中、急に、頭がフラッとして、倒れそうになったところ、誰かが私の体を支えてくれた。

「大丈夫ですか?」

見たところ、私と同い年位の男子だった。

「大丈夫です。ご迷惑をお掛けし、すみませんでした。」

きっと、学ランに悩まされているせいよ。

「あの、もし、宜しければ、自宅まで、送りますよ。」

「本当に大丈夫です。失礼します。」

その矢先、今度は、小石に躓き、転びそうになった。

「どこが大丈夫なんです?全然大丈夫じゃないです。あなたの自宅まで送りますから、僕の背中に乗って下さい。」

「いえ、結構です。」

すると、彼は、しゃがんだ。

「さあ、乗って下さい。調子が悪いのに、無理歩きは、良くないですよ。」

優しいなー。見ず知らずの私の体調を気遣い、わざわざ、背負って送ろうとしてくれてるんだもん。

「あの・・私の自宅までは、歩いて、30分かかりますけど・・。」

「距離の問題ではありません。あなたが帰宅途中に、再び倒れるのではないかと心配なのです。」

どうしよう。初対面なのに、ときめいちゃたよー。

「・・あ・・あの・・本当に、送って頂けるのですか?」

「勿論。」

「・・じゃあ、お言葉に甘えて。」

彼は、私を背負いながら歩いた。彼の背中は、心地良く、ずっと、このまま背負われていたいと思った。

家に着き、降ろしてもらった。

「本当に、どうも有難うございました。おかげで、大分、調子が良くなりました。」

「お役に立てて良かった。じゃあ、僕は、これで。」

「お気を付けて。」

私は、幸せな気持ちで溢れており、学ランの事なんて、忘れていた。


さて、現実に戻り、私は、今、学ランを着て、男子姿で中学の校門の前に立っています。ああ、帰りたい。・・ていうか、こんなんじゃ、友人にも会えないよ。そんな事を考えていた矢先、本当に、友人がやって来た。

「園、私よ。強よ。」

「アンタ、誰?キモ!」

ガーン・・。かなりショック。でも、仕方ないよね。今は、外見も声も全く違うんだもん。そう思っていた矢先、春休みに、体調不良の私を背負い、自宅に送ってくれた彼を発見。彼も同じ中学だなんて、凄い嬉しい。でも、女子として、再会したかったなー。これから、どんな日常になるのか、不安です。

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