第2話 感情の「表」と「裏」
会社に到着するなり、ある人物の笑い声が聞こえる。
「ぎゃははっ!ありえないっしょ!」
連日、徹夜明けで、とりあえず仮眠と風呂だけ済ませて会社に掛けつけている私にとって、最大のイライラポイント。
「…おはようごさいます…」
「おっ!きた!今日も遅刻だねぇ」
「…すみませんでした」
不愛想に返事を返し、自分の席に着く。
「なぁに?冷たくなぁい?俺にも優しくしてよ~」
…マジでうっとおしい。
ネコナデ声出しても可愛さの欠片もない。
彼は、同じ部署の上司にあたる人物。
神田祐司(40) 未婚。
今年の4月に中途で入社してきた業界経験者である。
私は、直感で、この人物はヤバい。と感じて、距離を置くことにしている。
彼が入社してきてから、話をしていて感じたこと。
それは、とにかく、ネガティブ思考。そして、愚痴っぽい。
挙句の果てに、めちゃくちゃおしゃべり。
以前にも社内にネガティブで愚痴っぽい女性がいた。その方は一年前に退職しているけど。
ネガティブな負の感情は、瞬く間に社内に広がり、悪影響を及ぼす。
愚痴っぽい人が増えたり、今まで平和だった他部署間でのトラブルも続出した。
彼が入ったことにより、それが再来する恐れがある。と私は感じていた。
案の定、彼は悪影響を及ぼしている。
経験者故の、意識高い系の独自論を展開し、新人に押し付けている。
それが出来ない新人は、もれなく説教されて「お前は、この仕事に向いてない」と言われ…
彼の言葉に納得できない者は辞めていった。
それだけではなく、彼は無類の女好き。
とにかく女性社員に声をかけまくる。
「有名人と知り合いだ。飲みに行くから一緒にいこう」
「かわいい子紹介してよ。彼氏いない子ね」
「終電逃したら、うちに泊まりなよ。家近いから大歓迎」
などなど…
言い出したらキリがない。
とにかく、私は、彼が大嫌いだ。同じ空間にいるのも耐えられない。
まだ、直接の上司ではないだけ、幸いである。
うるさくて、干渉してきて、本当に嫌だけど。
良い面もある。
うるさくてプライド高くて扱いにくいけど、仕事は真面目に取り組んでいるよう見える。
それが、たとえ、上層部へのアピールだとしても…。
それだけは、認めようと思う今日この頃。
…出来るだけ、話かけてほしくないけど。
「安田ちゃん!メイク変えた?彼氏に言われたの?」
早速、彼が、お気に入りの女性社員の変化について本人に何かは無しをしている。
企画部・女性社員の安田さん、とてもかわいらしいけど、性格がキツイ。
「…」
彼の言葉を完全に無視した。
「あれ?冷たいなぁ~反応してよ~」
…お前はいい加減に女性社員に嫌われる事実を受け止めた方がいいと思う。うん。
企画部の女性たちは、制作部の私と違い、定時に帰れて、土日も休み。
いつもおしゃれでかわいくて、彼氏もいて…本当にキラキラしていてうらやましい…。
私も、土日は休みたいし、彼氏欲しいし、キラキラしたいよ。
けど、忙しい毎日の中でも、時間を合わせて遊んでくれる友人たちがいるし。
それだけでも恵まれていて幸せだなぁと思う。
彼氏はいないけど、取引先に好きな人がいる。
CGクリエイターの浅野圭介さん。
イケメンで優しくて、ちょっとSっぽいところも魅力的。
そんな彼と、今日は打ち合わせを組んでいる。それだけで心が躍る。
強いていうなら、企画部の女性たちと、制作部の私とでは、仕事量が大幅に違う。
そこは、少し考慮して、お給料を上げて頂きたいところだなぁ。と毎日思う。
仕事量に対して、お給料は少ないとは思うけど、毎月きちんと同じ額がもらえているし、生活に困ったことはないから、まぁいいか。と思ってしまっている。
なんだかんだで、この会社、この仕事を楽しんでいる自分がいる。
けど、物足りなさを感じるのも事実。
このまま続けても、スキルは身につかないし、勤務年数が長くなるだけ、増えていく負担。けど、給料は上がらない。
どうにかしたいという思いだけ、悶々と考えながら、私は大好きな彼との打ち合わせに向けて準備を進めるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます