本棚がある部屋
あなたはドアを開けた。そこは五畳ほどの空間で、灯りをつけると天井から仄かに明るい黄色が差し込み、あなたが開けたドアと奥に備え付けられたもう一枚のドア、残る二枚の壁には巨大な本棚がもたれかかっていた。
本棚は高さ二メーター、横はその三分の二ほどで、オイルステインが擦り込まれたSPFから真新しい芳香を感じた。あなたは向かって左側の本棚を眺め、「Detective Comics Vol.881」、「Batman The Dark Knight Returns」、「Batman Archives, Vol. 1」から同「Vol. 8」を発見する。そのほかには「Wonder Woman: The Blue Amazon」、「Weird War Tales」などが確認できたが、どれもあなたの知らない国の言葉に向けて翻訳されている。本棚の中ほどあたり、表紙が見えるように並べられた前述のコミックス以外に取り立てて珍しいものはなかった。
もう一方の本棚にも、DCコミックスと思しき漫画作品がぎっしりと詰め込まれていて、やはりあなたの知らない国の言葉に向けて翻訳されていた。この本棚は全体の三分の一ほどしか本が並べられておらず、あなたは本棚の空いた空間をまじまじと見ることが出来た。SPFは深い色に染まっていて、部屋が暗かったこともあり、裏板は特に暗黒のように深かった。
あなたは本棚上段の最も端(つまり、そこまでは本が並べられているということで、それは持ち主にとって最新の所有物であることが予想された)にある「New York World's Fair Comics」を見つめる。そうしていた矢先のことだが、一冊の本が暗黒からあなたのほうにめがけ、十秒ほどかけて生えてきた。「New York World's Fair Comics」の隣に生を受け、泣き声も出さずに世に現れた産まれたての背表紙は、あなたを親と勘違いしたかもしれない。しかし、よくよくその背表紙を見れば、本が逆さまに生えてきたことがすぐに分かった。本棚はすぐにそれに気付いたのか、暗黒空間に「████████」を二十秒ほどかけて吸い込む。その際、裏板から咳き込む音が聞こえてきたことに驚いたあなたは、急いで次のドアノブに手をかけてしまった。
Zork Tekkamaki MANUF Ltd. @osushi_user
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。Zorkの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます