リビング

 トイレや風呂、居住者のうちの誰かの部屋などを想像しながら廊下を進んだあなたは、《白い家》のリビングらしき部屋に辿り着きました。リビングは十五帖ほどで、きれいなフローリングの上には、ダイニングテーブルと四人分のイス(そして新品のベビーチェア)、テレビ台、ソファー、コーヒーテーブル、食器棚、キッチンカウンターがあり、近くには数個のクッションが落ちていました。


 あなたはリビングをぐるりと見回しましたが、玄関の廊下から続くドアと前述の家具、もう一枚のドアのほかに何も見当たらず、意外にも窓が無いことに気付きました。あなたが《白い家》の周りで見ていた窓の内容は、この部屋とは関係がなかったようでした。


 あなたはコーヒーテーブルに置かれた数冊の本に目を向けました。「愛のためならば」著者不明。「香髪姫」著者不明。「鷹とカラス」著者不明。どれもタイで書かれた童話を翻訳したもののようです。ところで、コーヒーテーブルの下に落ちていたクッションのひとつはひどく汚れていて、花柄がすっかりみすぼらしくなっています。穴が空いていたのか、縫われた形跡もありました。


 あなたはキッチンに目をくれることなく、もう一枚のドアを開けようとノブに手をかけました。必要があればここに戻ってくればいいだけの話であり、重要で、見逃したものがあっても、いつでも再訪できると考えたからです。


 

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