第26話 服案そして特攻

「……さすが鍛えられてるだけあるね。全然息が上がってない」

「そっちこそ。王家の割にはやるじゃん」


駆け足気味で外柵沿いを移動するユリウスと若年組一行。

走って移動しているため何人かは呼吸が乱れで会話が難しそうな状態だが、ユリウス、リック、コリンの3人は平常時と変わらないような呼吸で会話をしている。


「さて、そろそろ隊を2つに分けて行動しようと思う」


ユリウスが隣で走るリックに提案する。

リックはそれとなくユリウスに聞いた。


「目的は?」

「土地神は僕とコリンが最重要の標的のはず。僕とコリンが一緒に行動していたら土地神もそっちに寄ってくるだろう」

「だからユリウスとコリンが分かれるってことか?」

「いいや。それで向こうから出向いてくる確率が上がるなら話は早い。僕とコリンが主に動く分隊とリックが指揮する分隊に分ける」


ユリウスは肩から掛けている小物入れから集落の地図を取り出す。


「僕らはこのまま住居地区を通過してファーノ地区側の門を目的地として移動する。そこまでたどり着けばコリンも逃がせるし土地神は自分の持ち場より外だと力が大幅に下がるから追撃もしにくい。今回の作戦は成功のようなもの」

「でも住居地区は見張りが多いって踏んでるんだろ?どうやってもバレる前提じゃないか」


リックはさすがに意見せずにはいられなかった。

住居地区は本来なら集落の住人が住まう地域であり、自警団員の見張りもこれまでの穀物庫周辺の貯蔵地区よりも遥かに多いはずである。

リックにはそこを難なく突破できるとは思わなかった。


「だからリックには別経路から動いてもらう。リックは迂回して直接目的の門に向かう。到着したらそこから住居地区をメザシテ移動してもらう。時間差はできるけど住居地区で包囲されても門の方向だけは退路をこじ開けることができる」


ただ、ユリウスもただで突破できるとは考えていない。

ユリウスとコリンのいる分隊を本隊とし、リックが指揮する分隊で自警団員に奇襲をかけるような作戦だった。

リックには考え付かなかった大胆な作戦だ。


「……なるほどね。分隊員の分け方は?」

「あの魔物が襲撃してきたときに僕に協力した人員は僕のとこ、拒否した人員はリックのとこで」

「おいちょっと待てよ!」


ユリウスとリックの話し合いにリスマルが口を挟む。


「何か?」

「何かじゃねぇ!またボクとコリン姉を離そうとしてるだろ!」

「はぁ……君はまだ自分のしたことの重さを感じてないようだね。君はコリンとリックを危険に晒した、というか殺そうとしたんだよ。自分の意思でね。今回の作戦は裏切られる訳にはいかない。特に僕たちの分隊はね」

「そう言ってボクとコリン姉を話そうとしてるだけだ!」

「……面倒な奴だな……一旦全員止まれ!」


ユリウスは若年組一行を止めて地図を全員に見せる。


「作戦変更する。ここから僕だけ分かれて住居地区へ進撃する。僕以外の人員は迂回して目的の門へ到着後、そのままファーノ地区への退避を開始すること」


ユリウスは先程の作戦を変更し住居地区へ行くのは自分だけ、それ以外の人員は迂回して門へ向かうような作戦を話始めた。

その作戦にリックは待ったをかける。


「ユリウス、そんなの……作戦ですらないぞ。それだとお前が囮になって俺らが撤退してるだけじゃねぇか」

「その通りだよリック。これがここにいる全員が生きれる確率が一番高い動きだ」

「ふざけるな。そんなの俺が認めるとでも思ってるのか」


リックが必死の形相でユリウスに詰め寄るが、ユリウスは気に留めない。


「必要以上に周りに気を配って戦えるほど僕は歴戦の戦士じゃない。造反するような人員を抱えてまで住居地区に進軍はしたくない。それに君達はそれほど強力な戦力じゃない。自警団員達と衝突して勝算はあるのかい?」

「い、いや……でもな!それはお前1人でも同じことだろ!」

「ふん、僕1人なら勝算はある」

「……何?」

「人数が増えるのは戦力の増強にはもちろんなるが、それと同時に的が増えることにもなる。今は自警団と王国兵が交戦中だろう。そこに割って入るだけの自信があるかって話だよ」


ユリウスの言葉に若年組の全員が言葉を失う。

その空気のなか一人、ユリウスの前に出てくる影があった。


「ん。私は大丈夫。勝てる。死なない」


コリンは一瞬の迷いも無くユリウスに同行を志願した。

ユリウスは何度目かのため息を吐いてコリンに言う。


「これはコリンを生かすための作戦なんだ。君が来てどうする」

「私は言った。今度は私がユリウスを守る番って。それにこれは私の戦い。自分の自由ぐらい自分で勝ち取りたい」

「戦場は君が思ってるように簡単な場所じゃない」

「ん。足手まといになるって思ったら見捨てて。ここでついていけないならきっと、これから先ユリウスについていけないから」

「……言ったね?」

「ん。言った」


ユリウスは視線を落とす若年組に声を上げた。


「よし、面倒なこと抜きにする。生きたい奴は門に迎え。死んでも勝ちたい奴だけ僕についてこい。でも僕は必要以上に助けたりはしない」


ユリウスはそれ以上言うことなく集落の中央、住居地区へ向けて走り始めた。

そのユリウスに続いた若年組は3人、コリン、リック、そしてリスマルだ。


「ここから先は自分で自分のことをする。戦略的なフォローはするけど、足手まといなら置いていくから」

「ん」

「承知!」

「うん」


ユリウス達は各々の武器を抜き構えて住居地区へ一直線に駆けた。

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