第24話 困惑そして決起

「何で……守り神はこんなことを……」

「?」


ユリウスとリスマルは穀物庫の中から集落の状況を見渡していた。

ユリウスは地上に逃がしたコリンとリックを自警団の目から隠そうとしたものの、自分の宿やユラリアの宿では居場所を特定される。

それ以外の場所の心当たりなど散歩程度に歩いただけのユリウスには思い浮かぶわけがなく潜伏場所に苦慮していたユリウスだったが、そんなユリウスに自警団若年組の面々が声をかけてきた。

穀物などの保管区域は人通りが少ないことを理由に隠れ場所として推奨し、ユリウスはそれを了承して今に至る。

ユリウスやリスマルの視界には土地神に操られている青いオーラに包まれた自警団員が集落を巡回しユリウス達を探していた。

ユリウスでさえその生気の無さや不気味さに悪寒を覚えるのだから、普段の自警団員と接していた若年組の精神的ショックは相当なものだろう。

先程のリスマルの呟きはそういったところからきているのかもしれない。


「ボクは……どうしたら……」

「……好きにしたら良い」


動揺しているリスマルにユリウスは言った。


「今は君に指示をする大人も君が従うべき指揮官もいない。何を考えてどう動くかは君の自由だ。別にここで僕を捕縛してあれの前に差し出すことを目論んでも良い。無論僕は容赦しないけど。それぐらい君は今、自由で重大な岐路に居るんだよ。誰につく?どう動く?それで君の人生は分かれる」

「そんなこと言われても……」

「確固たる決定はしなくていい。ただ自分の希望、欲求に従って動けば良い」


ユリウスは見張りの意識を保ったままリスマルを見る。


「僕はコリンとリックを助ける。僕に害のない住民も助ける。そのためならどんな手段でも使うつもりだ。君もそのぐらいの気持ちでいい」

「ボクがしたいこと……」


リスマルが考えを巡らせていると倒れていたコリンが目を覚ました。


「ん……」

「おはよう、コリン。目覚めはどうかな」

「んー……ユリウス……?ここは……」


寝ぼけ眼で周囲を見渡していたコリンだったが、リスマルを見るとユリウスの方向へ飛び退く。


「リスマル……なんでここに?」

「コリン姉。ボクは……!」

「近寄らないで」


リスマルは弁明しようとするが、コリンはユリウスの後ろに隠れる。


「私はユリウスと集落を出るの。それを貴方は邪魔しようとした」

「それは自警団から報告しろって……」

「だから何。自警団が言ったから?あの時何人もの大人に押さえ付けられた私の気持ちは?浅い意識の中で祭壇に寝かされてた私の気持ちは汲み取ってくれないの?」

「コリン」


捕縛され祭壇に捧げられた怒りを露にするコリンだったが、ユリウスがそれを止める。


「リックが起きるまでここがバレるわけにはいかない。静かにして、お互いに」

「ん……ごめん」

「……何でボクが」


コリンは素直に、リスマルは不服そうに黙り混む。

ユリウスは扉の隙間から周囲の穀物庫を見回す。

周囲の各穀物庫から若年組の面々の目が確認できる。

コリンとリックが起きたら若年組の協力を得ながら若年組ごと集落から退却する計画だ。


「…………」

「ユリウス?どうしたの?」


扉の隙間から様子をうかがっていたユリウスの表情が幾分か険しくなっていることに気付いたコリンはユリウスに問いかける。


「……少し疑問がある」

「疑問?」

「土地神は自警団員みたいに人を操り人形にできる。なのになんで自警団員以外の住民や若年組の面々はそうしないんだ」

「んー……確かに」

「やらないのは理由があるはず。それがわかれば優位に立てるかも知れない……けど」


ユリウスは歯切れが悪そうに言葉を切り、ため息を吐く。


「その条件を探してる時間はない。知らなくても集落から退去する目的は果たせるからね」

「ん。頑張る」


ユリウスの言葉にコリンが頷くのとほぼ同時にリックが少し動き出した。

リックはゆっくりと起き上がると薄目で周囲を見渡し始める。


「ぅん……あ?」

「起きたね。リック」


当初はユラユラとしていたリックだったがユリウスがそう言うと徐々に覚醒してきたように立ち上がる。


「ああ……助けてくれたのはお前か」

「そうなるね。まだ助かったとは言いきれないけど」

「……うん?そりゃあ、どういうことだよ」

「外、見てみて」


リックはユリウスと場所を入れ替わるようにして扉の隙間から外の様子を見る。


「……なんだよ、これ」


リックが覗いた扉から見える外の景色では不定期に青いオーラを纏った自警団員が何かを探すような仕草でフラフラと歩いている。

その光景にリックは思わず絶句した。


「嘘だろ……こんな……」

「土地神、君たちが言う守り神の力だよ。自警団員は若年組以外あんな感じさ」

「そんなに……コリンを生け贄にしたいのか。守り神は」

「コリンが狙われてて、それを邪魔してる僕たちもまとめて狙われてる状態だね。……思い通りにはさせないけど」


ユリウスは周囲には敵が大勢いるような状態にも関わらず笑顔で自信のある顔でそう言った。

コリンもユリウスに賛同するように頷く。


「ん。私も集落の思い通りにはさせない」


コリンに続いて二人も決意を口にする。


「俺もやってやる。ユリウスとコリンが戦うなら俺だってやるさ」

「ぼ、ボクだってコリン姉のためなら!」


ユリウスは扉の隙間から外を監視しながら3人の意思を確認した。


「よし、じゃあここから僕の指揮で自警団若年組には動いてもらうよ」


ユリウスは服のポケットから集落の見取り図を取り出し、床に広げる。

それを見た3人の視線は見取り図に集まった。


「言うなれば、集落脱出退却戦かな」

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