第23話 危機そして判明

ユリウスが地下神殿の壁に追い詰められ、武器を構えた自警団員が少しずつユリウスとの距離を詰めていく。


「卑怯な……」

「どうとでも、儀式を邪魔されなければこちら側としては問題ないのでね」


そして全ての自警団員がユリウスへの距離を詰め、長老の指示を待つだけの状態になったその時に、ユリウスは背中で練っていた白い魔力をコリンとリックを目標に放出した。

二人は魔力が触れた瞬間に地下神殿から文字通り姿を消した。

ユリウスにとっては『転送魔法を使い、二人を別の場所へ移動させた』という普通の出来事だが、魔法に疎い自警団員は騒然となる。


「な、なんだ!?今のは!?」

「消えた?二人が消えた!?」


ユリウスは周囲が動揺しているうちに自分も転送魔法で逃げようとする。

しかし転移魔法を行使するために練っていた魔力がいきなり打ち消された。


「ん……?」

「随分な事をしてくれたね。少年」


ユリウスが声の主を探しに部屋を見渡す。

ユリウスが見渡すのと同時に周囲の人間は部屋に設置された石像に向かって両膝をついて頭を下げだした。

やがて石像が一瞬光り、部屋の中央にその声の主が姿を現す。


「……やっぱり、貴女か」


ユリウスは見覚えがあるその人物が出てくるのを予想していた。

姿を現したのは襲撃の際にコリンの蔵を燃やしたあの女性だ。

あの時と変わらない服装、あの時と比べて元に戻っている右手、そしてこの登場の仕方でユリウスは自分の仮定が合っていることを確信した。


「貴女だろう?この集落の土地神は」


ユリウスがその女性に聞くと女性は即座に答える。


「ハハハ、御名答。そう思った理由を聞いておこうか」

「まあいろいろと理由はある。けど確信するに至ったのは今貴女がここの場所に出てきたからだ」

「ほう?」

「移動する魔法が使われた形跡が無い。それに僕の魔法も貴女が出てくると同時に打ち消された。貴女は移動してきた訳じゃなくてこの場所に顕現しただけ。魔法はその時に貴女が打ち消した。違うか?」


ユリウスが言い切ると女性は含みのある笑みを浮かべる。


「流石だ。私が危険因子と認識したのは間違ってなかったようだ。君は察しが良すぎる。そういう人間は長生きできないぞ。私のようなのが殺すからな」

「だからなんだ。殺しに来ようと生きてやるさ」


ユリウスは片手剣を握り直す。


「僕は貴女の駒じゃない。僕は僕だ」

「ふん。人間ごときが生意気な」


土地神の女性が言い終わりと同時に振り払うように手を振った。

すると頭を下げていた周囲の自警団員が全員青いオーラをに包まれ、全員がまるで操られているかのように同じ動作でユリウスに武器を構える。

ユリウスも剣を構えるがこのまま戦えば戦力差は圧倒的だ。

魔法が使えれば勝機はあるが、あの土地神がそれを許すとは思えない。


「魔法が使えると思うなよ?君はこの人数を相手に自分の剣技だけで戦うんだよ。出来るのかなぁ?アハハハ」


土地神の女性が高らかに笑い、それに対するユリウスの頬には冷や汗が伝う。


「信者を手駒にするのか……!」

「それが何か?君らは神をも恐れぬ所業とでも言うか?だが神は私なのでね」


余裕千万の土地神の女性の視界を一瞬飛来物が横切る。


「……ん?」


土地神はその飛来物を思わず目で追った。

その飛来物は部屋の入り口方向から飛んできて、部屋奥の石像にゴンという重厚な音をたててぶつかる。

石像にぶつかった飛来物はやがて土地神の足元に転がってくる。

その飛来物はスプレー缶のような見た目をしていた。


「なんだ……?」


土地神が不審そうに眺めてたそれは一秒程度経った後、部屋全体を白く染める程の激しい光と部屋中に響き渡るほどの甲高い音をたてて破裂する。

投げ込まれたのは軍用の閃光手榴弾、フラッシュバンだ。


「うっ……!?」

「っ……!」


部屋にいた全員が、投げ込まれたフラッシュバンで視覚と聴覚を失う。

視覚を失うと出来る行動が極端に制限されるものだ。

それに加えて聴覚まで失ったことで周囲の状況を確認する手段がなくなってしまった。

無力化した自警団員や土地神は棒立ちする以外できる行動がない。

もちろん道具の効果は一時的なもので数秒経過すると周囲の音は聞こえるようになり、視界も元に戻っていく。

そうして視覚が回復した土地神は部屋を見回して叫ぶ。


「どこだ!あの危険因子はどこへいった!」


自警団員が囲っていたはずのユリウスの姿は無く、部屋には自警団員と土地神だけが立っていた。


「くそ……逃げたか……!探し出せ!」


土地神が自警団員に声を張り上げると自警団員は機械的に動きながら部屋から出ていく。

その様子を見ながら土地神はイラついた表情で奥歯を噛み締める。


「土地神を出し抜こうとしたこと……後悔するからな」





「……よくやった。シンドウ」

「いえ、当然の責務ですので」


ユリウスは自分を抱えて走るシンドウに礼を言う。

シンドウは人一人抱えてると思わせない速度で長老の家の一本道の廊下を駆ける。


「上の状況は?」

「少年にはひとっ走りしてもらいました。住民を退避させてます。私も上に上がり次第、ユラリア様を退避させます」


ユリウスは土地神が顕現した時に、最悪この集落を巻き込むことになるかもしれないと予測していた。

だがそれをシンドウが知るはずがない。


「準備が良いな?」

「はは。今更ですか?」


ユリウスの探りを爽やかにはぐらかしたシンドウを見てユリウスはため息を吐く。

やがて階段を抜ければ地上階、出口が見えてくる頃だ。


「……このストーカーが」

「酷いですねぇ」


やはりこの男は気に食わないとユリウスは再確認した。

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