第19話 推測そして疑問

それから数日後、ユリウスはコリンが自警団本部へ向かった後に大きい本を持って集落の外れを目指して宿を出た。

本はユリウスの胴体を覆い隠そうかという大きさで、その本を持ち歩いているユリウスは人通りの多い場所ではかなり目立っていた。

それゆえ視線も集めていたが、ユリウスの通る道は徐々に人通りが減っていき、やがて普段なら自警団の見張り以外は誰も来ないような集落の端へ到着し、ユリウスを見る人間も居なくなった。


「……出てこい。僕はお前にも用件がある」


一人、ユリウスを尾行していた人物を除いて。

ユリウスが少し大きな声で言うと建物の影から一人の人物が姿を現す。


「これでは私がストーカーみたいじゃないですか」

「違うのか?ストーカー」


シンドウは少し不機嫌そうにユリウスの前に出てくる。


「ストーカーではなくて、私は職務の一環としてですね……」

「どうでもいい。用件を済ますぞ」


ユリウスはシンドウの言葉を遮り持っていた本を近くの建物に立て掛け、衣服のポケットから紙切れを取り出した。


「前回、お前が僕にリークした情報は『集落には今ぐらいの時期に少年を生け贄に捧げる儀式があって今回はそれを行わない』で合っているな?」

「はい。その通りです」

「何故かは?」

「聞いてません」

「じゃあ何故姉上がその儀式を気にしていたかは?」

「それも、聞いてません」


シンドウの回答を聞いたユリウスは本を取り出す。

その本は持ってきた本よりもかなり小さい文庫本サイズの本だ。

ユリウスは取り出した本をシンドウに渡した。


「これは?」

「あの襲撃の時に姉上の部屋から拝借した。騒いでないってことはもう読んでないんだろう」

「そ、そんなことを!?」

「いいから見てみろ。別に機密が載ってるわけじゃない」


ユリウスに強請されたシンドウはおどおどと本を開き、中を確認する。


「『特性の移し替えについて』……?」


シンドウは少し拍子抜けする。

もっと儀式やらなんやらと関係する内容が載っていると思っていたからだ。

ユリウスは本を指差して続ける。


「そうだ。それにその本には開き跡がついてるだろ」

「確かについてますね…………『死者の特性を生者に移し替える』、ですか」

「そう。ここまでで何か推測できるか?」


ユリウスから問われたシンドウは少し考えた後に口を開く。


「儀式に使われる生け贄の少年の特性を誰かに移そうとした、ですかね」

「いい推測だ。僕も同じように考えた。その推測が当たっているならそれはもう達成し得ない。その儀式は行われないからな」

「しかし情報がこれだけでそう結論付けてしまうのは……」

「今ここで結論付けるつもりはない」


ユリウスはシンドウに背中を向けると近くのレンガ片まで歩いて腰掛けて、持っていた大きな本を膝に置く。


「その推測が当たっているとしたらもうこの集落には用がない。もうじき姉上が帰ると言い出すはずだ」

「つまりユラリア様が帰ると言い出せば……」

「今回の遠征の目的はそれだったということになる。本質……どの特性をどうしたかったかは不明のままだが」


ユリウスは本を開いて読み始める。


「以上がお前に対する用件だ。何もないなら去れ」

「ユリウス様はここで何を?」

「やることがあるんだ。去れと言っている」

「……承知」


シンドウは渋々ユリウスの前から姿を消す。

一人になったユリウスはその場で持ってきた大きな本を黙々と読み進めていった。





「ねぇ、リック」

「うん?」

「ユリウスと何かした?」


真昼の集落の外。

コリンは一緒に巡察しているリックに質問する。


「まあ、何もしてなくはないけど……どうした?」

「最近ずっと熱心に読んでる本があるんだけど、私はまだその本の言語を教わってないから読めなくて。ユリウスと何かするならリックかなって」

「ふーん。それと関係あるかは知らないけど……」


リックは腰のバッグからあるものを取り出す。


「ちょっと前に集落に来た荷物に紛れてたこれなら見せたよ」

「何、それ?」

「ユリウスが言うには銃、拳銃って言うらしい。使い方も習った」


リックは丁度出てきた魔物を狙ってハンドガンを向ける。

白兵戦の武器が届かない程度には距離があるが、リックが拳銃の引き金を引くとドン!という爆音と同時に、現れた魔物の頭部と思われる部位が弾け飛び魔物はその場に倒れ伏せた。


「え……っ」


コリンはあまりの衝撃に絶句する。


「凄いっしょ?俺もユリウスに使い方聞いて試しに使ってみたときドキドキ止まらなかったもん」

「それは……どういう原理?」

「んー、知らない。ユリウスは知ってるっぽかったけど、俺は使えればいいかなって」

「……そう」


コリンは目の前の新常識をゆっくりと自分に浸透させながら、これでユリウスが何を思ったのかを想像する。

リックがこれをユリウスに見せたことによってユリウスが熱中している本の内容が推測できるかもしれない。


「(この武器を……?対処?……それとも、利用?)」


しかしどれだけ考えてもしっくりくる回答には至らなかった。

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