第17話 窮地そして希望
ユリウスの魔力は消火のために放った水魔法で底をついていた。
コリンたちと別れるまで地面に触れることで魔力を回復させようと試みたが、数時間では尽きた魔力を回復させるには至らなかったようだ。
消費した魔力の影響で重くなった体を無理矢理自分の宿に向かわせたユリウスは判断を誤った。
「(迂闊だった……僕はバカか……)」
集落も自分も、こんな状態の時に一人で行動するものではない。
少しでも『敵の襲撃は止んだからもう来ない』と楽観したユリウスは、それが一生分のミスであることを身をもって知った。
「くっ……かはっ……」
「愉快な眺めだなぁ?少年」
不安定な足取りで宿へ向かう途中、コリンの蔵を燃やした魔法を使った女性がユリウスの前に現れ、女性が使った魔法に操られた動くロープにユリウスは首を締め上げられた。
両手の指を挟み込んでなんとか呼吸は出来るが、魔力の枯渇により体に力が入らない今ではどれぐらい耐えられるかわからないうえに、それによって手を封じられたユリウスには反撃できる武器がない。
反撃のできないユリウスに対してロープの締め付けは強くなる一方だ。
「不安要素は取り除くべきだからな。あの少女の次は君だ」
「何……ぁ……」
首を締め付けるロープの音がミチミチと聞こえる。
呼吸のために首とロープの間に挟んだ指が引きちぎれそうな程に強く締め上げられる。
「さっき君を見たときは一筋縄じゃいかないと思ったが……見込み違いだったか?……どうでもいいか」
「ッ……カッ……」
女性がロープへ魔力を送っている右手を前に突き出す。
溢れ出る魔力が女性の右手からユリウスの首を締めるロープへと送られる。
ユリウスは苦悶の表情で天を見上げた。
徐々に血液が頭に回らなくなりユリウスの意識は寸断直前だ。
「じゃあサヨナラ」
女性はユリウスを絞殺するために、右手に膨大な魔力を集積する。
その魔力量はユリウスが蔵の出火を消すために練った練魔法よりも遥かに多い。
そしてその魔力がロープへ送られようとする。
その直前。
女性の頭上から目の前に着地する一つの影が女性の視界を遮る。
目の前に降りてきたその影の正体を確認するより先に女性は違和感を感じた。
「ユリウスが言ってた。魔法を使うときは特段、集中力が必要になるって。ロープに魔力を供給しながら、ユリウスに話しかけてた貴女は、それ以外に気を配る余裕はなかったはず」
その違和感の正体はすぐに明らかになった。
「ユリウスは私が守る」
コリンが女性へ突きつけたコンバットナイフは血が滴っており、その瞬間女性は自分の右手が切断されていることに気付く。
「ぐぅっ!」
気付いた途端、激痛が走り女性は思わず右手を押さえて飛び退く。
すると魔力の供給が途絶えたロープは力無く落下し、ユリウスも地面へ落下した。
女性は困惑した表情でコリンを睨む。
「何故だ……あの蔵は君の全てのはず……何ですぐ立ち直れる!?」
「少し前の私なら、そうだったかもしれない」
コリンは気絶したユリウスの盾になるように立ち、女性と相対した。
「でも今は本よりも魔法を教えてくれるユリウスがいる。仲間だって言ってくれたリックもいる。こんな私でも価値があるって言ってくれる人がいるなら、私は何度でも立つ!もう諦めに逃げたりなんてしない!」
「あり得ない……こんなこと……」
女性は自分の周囲に魔法を展開すると魔力の渦が女性を包み込んだ。
「次は……次は徹底的に潰す!」
声が響き、魔力の渦が消え去ると女性の姿も無くなっていた。
敵性が確認できないことを確認したコリンはナイフを収めユリウスを抱き上げる。
ユリウスの首にはロープの跡がくっきり残っている。
「ユリウス……私、やるよ」
コリンは何かを決意した表情で転移の即時魔法を起動して、その場を後にした。
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