第13話 心配そして指揮
一時間後、集落は魔物の襲撃を聞き付けて騒然としていた。
自警団本部では魔物の群れの情報が入った瞬間から部隊を編成し、迎撃の姿勢を整えている。
「総員戦闘配置。各分隊長はそれぞれの分隊員の指揮を執れ。魔物との交戦は数的有利を絶対の条件とし、同等もしくは不利ならば閃光弾を打ち上げた後、後退せよ。非戦闘員の団員は避難民を誘導せよ」
「了解!」
自警団員は男の指揮を聞くとそれぞれの持ち場へ散開していった。
ユリウスは自警団本部へ入り、その自警団の指揮を執っている男性のところへ向かう。
「失礼します。自警団長とお見受けしますが」
「ん?……ああ、王子殿でしたか。如何されました?」
「僕が王国兵の前線指揮官となりましたので、よろしくお願いします」
ユリウスが深々と頭を下げると、自警団長も頭を下げた。
「自警団を総括しております、ゴルネットと申します」
両者握手をすると、ユリウスは近くに設置されていた集落の地図を使いながらゴルネットに王国兵の配置を説明する。
「王国兵の配置は、山脈側から軍勢が来ているため反対のファーノ地区側は一応配置していますが手薄です。それらの戦力を山脈側に回して集落への侵入を防ぐためです。両サイドから迂回される可能性もありますが、山脈側を前方と見て左右の端に警護兵とは別に監視員をつけていますので見通し内を迂回する魔物は見つけ次第報告が上がってきます」
「なるほど。我々自警団はどのように動けば都合がよろしいですか?」
「敵側の伏兵や迂回する勢力がいなければ正面以外は必要ありませんので正面を固めてください。もし正面以外にも援護が必要に感じたら都度そちらへ要請します」
ユリウスはそれを言い終わると自警団本部を後にし、王国兵の指揮所へ向かった。
指揮所を開設したユラリアの宿では、ユラリアの配下の人員が忙しそうに行ったり来たりを繰り返していた。
ユリウスが指揮所へ足を踏み入れると一人の侍女が足を止める。
「あっ……ユリウス様……」
「礼はいい。業務に徹しろ」
「はい!」
立ち止まった侍女にユリウスは欠礼を許可し再び慌ただしくなった指揮所を歩いてユラリアの元へ向かう。
到着するとユラリアは突然の忙しさパニックになりかけていた。
「姉上」
「ゆ、ユリウス!」
「報告します。自警団本部と面会し、互いに配置を確認しました。集落規模の四周警戒は王国兵が担当し、自警団は正面の魔物を迎え撃つ戦力に回ってもらいます」
「そ、それぐらいなら魔声機でも事足りるでしょう!」
ユラリアはパニックのストレスをユリウスにぶつけるが、ユリウスは全く動じずに答える。
「何度も発信しましたよ。反応がありませんでしたが」
「あ、あれ?」
「姉上、落ち着いてください。わからないことは部下にでも聞いてください」
「わっ……わかってるわよ。それぐらい」
「そうですか。では、僕は指揮へ戻りますので」
ユリウスはユラリアに一礼して指揮所から出ていくと、山脈側の集落の門へ向かった。
道中、非戦闘員である子供や老人、女性が避難の準備を慌ただしくしている様子が見られる。
避難するとしても、場所は集落から出ないのなら限られてくるだろう。
有力なのは集会所としても使われてるという長老の家、もしくは元々収容できる人数が多い自警団本部といったところか。
「ユリウス!」
歩いていたユリウスは呼び声を聞き足を止めて声がした方向へ振り返る。
そこには息を切らしたリックが膝に手をついて立っていた。
「リック?ここはもうじき戦場になる。避難した方が……」
「コリン……コリンを知らないか?」
「コリンなら僕の宿で寝てる。体調が悪いみたいだし、僕の宿の周辺には特別に兵士を何人か配置させた。コリンには危害は及ばないよ」
「そ、そうか。よかった」
「それを聞きにここまで来たのには感心しないな。まず優先すべきは自分の避難だろ?聞きに行ってもし死んだら本末転倒だ」
「……それでも俺は、俺が危険な場所にいくよりもコリンが危険な目に遭う方が嫌だから。もしコリンが魔物に襲われてるなら俺は誰が止めても剣を持って助けに行く」
「……そう。今がその時じゃなくて良かったね」
ユリウスはそれだけ言うと、また門を目指して歩き出す。
「ユリウス!死ぬなよ!俺は帰ってくるの待ってるからな!」
「当然。僕は死なないよ」
リックはユリウスの返答を聞くと門とは逆方向へ駆け出す。
ユリウスが門へ到着すると、大勢の王国兵と自警団の連合軍が臨戦態勢となっていた。
近くにいた王国兵は一斉にユリウスへ敬礼する。
「お疲れ様です。ユリウス殿下」
「お疲れ。衝突はまだか」
「はい。依然として接近中、進軍しているものと見られます」
「指揮官らしき存在は見えるか?」
「いえ、そのような情報はまだ上がってきていません」
「了解。衝突が起こる前に展開する。この中から先任者を3人出せ」
「了解しました」
ユリウスの指示を聞いていた王国兵が散り、数分で先任者が3人選出されてユリウスの前に並ぶ。
王国兵二人と自警団員が一人が選出されたようだ。
「よし。ネリス軍曹とフォロッド曹長は兵士を二分して左右に展開」
「はい」
「正面は……」
ユリウスが自警団員を見ると、自警団員は自己紹介をして頭を下げた。
「自警団員、リスリッドと申します」
「ありがとうございます。正面はリスリッドさん率いる自警団で迎え撃ちます。自警団と魔物軍の交戦が始まったらネリス軍曹とフォロッド曹長の部隊が魔物軍を挟撃。そこで敵全軍を分断します。後退する敵は深追いしなくていいです」
「了解」
「では各々、そのように」
ユリウスの指示により王国兵が展開していく。
魔物の軍勢はもう眼前まで迫っている。
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