第10話 誤解そして苛立
昼、コリンの蔵でユリウスが本を読んでいると蔵に客人が訪れる。
突然蔵の扉が開き、ユリウスが本から蔵の入口へ目を移すとそこには明朝に会った少年がいた。
「ん、君は……」
「自警団若年組、リスマル」
リスマルと名乗った少年はユリウスに鋭い目線を向けながら声を張る。
「コリン姉になにをした!」
「……何を?」
質問の意図はわからないがユリウスはコリンに何をしたか思い返す。
しかし目立ってやったことと言えば魔法を教えることと食事を提供したことしかない。
少なくとも誰かに怒鳴られるようなことはしてない。
「何かあったのか?僕は何もしてないが」
「自警団の命令に反抗的になった!家にも帰らなくなった!提供された食事もとらなくなった!全部お前のせいだろう!」
リスマルの言葉を聞いたユリウスはそれらの原因を考える。
自警団の命令に反抗的になったのは多分に自分の給与がそれに対する責務に見合わないことがわかったからだろう。それは昨日教えたことだ。
ユリウスがいる限り生活には困らないから強気に出られるようになったのかもしれない。
家に帰らなくなったのは魔法の勉強をするためだし、そもそもまだ一日しか経ってない。帰っていないことを騒ぐのは大袈裟な気もする。
提供された食事をとらなくなったのはユリウスが朝、出発前に弁当を持たせたからだ。
食事が提供されているとは知らなかったが、まとめて作られる食事よりも、持たせた弁当の方が味が良い自信はある。
「……確かに僕のせいだなぁ」
ユリウスはリスマルに聞こえない声で呟く。
ユリウスのせいといえばそうなのだがニュアンスが少し異なる。
「それで、僕のせいだとしたらどうするんだ」
ユリウスは自分の責任の有無を認めるかどうかは保留して、仮に責任がある場合のリスマルの方針を聞くことにした。
「コリン姉と関わるのをやめろ」
「……それはコリンの意思で?」
「コリン姉の意思?お前が魔法でコリン姉を操ってるんだろ!」
「はい?」
リスマルに言い放たれたユリウスは思わず面食らう。
かなり話が飛躍してるとユリウスは感じた。
人を操る魔法はあることはあるが、そんなものを常時発動していたらすぐに魔力切れで動けなくなる。
操る魔法を使いっぱなしで普段の生活も出来るような魔力の源泉のような人間が居れば、それは人間国宝として崇められてもおかしくない。
ユリウスには到底無理な話だ。
「誰からそんなの聞いた?どうせ魔法の駆け出しも知らない人間だろう」
「何ぃ!」
「そんなんだから魔法を知りたいコリンは君らに愛想を尽かしたんだろ?魔法に理解も興味も示さないで、先入観だけで魔法を語ろうとする。勉強してる方からしたらこの上ない迷惑だ」
「うるさい!論点を逸らすな!」
「論点を戻しても一緒だよ。僕はコリンになにもしてないと言って、君はそれを嘘だと言う。僕が人を操る魔法を使えるなら、ここで君と口論する前に操って追い出すと思わないか?」
言葉に詰まるリスマルを見たユリウスは目線を本に戻す。
「僕とコリンの関係は教える側と教わる側。それは変わらないしそれ以外にはなり得ない。そこら辺を勘繰ってるなら、それは要らない心配だよ。学ぶつもりもないのに魔法を語らないで。僕はそういう輩が一番嫌いだから」
「ぐっ……」
リスマルは何か言おうとするが、ユリウスにはどんな反論も受け付けない雰囲気があり、折れたリスマルは蔵から自警団本部へ戻る道へ向かった。
蔵の扉が閉まる音を聞き、本を開きながらユリウスの口から誰に言ったわけでもない言葉がこぼれる。
「面倒なことになってきたなぁ」
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