第9話 身上そして感謝
「!!!」
ユリウスは意識が回復するのと同時に寝ていた体を勢いよく起こす。
場所は自分の宿の自室で、ベッドで眠っていたようだ。
「……起きた」
ユリウスのすぐ横には手を握っているコリンがいた。
「良かった」
コリンは安堵で顔を綻ばせる。
そのコリンの傍らには、昨日一緒に勉強した本が置かれていた。
本の内容は魔力の扱い方が重点的に書かれた内容で、練魔法の駆け出しにちょうど良いと思いユリウスが所蔵本から持ってきたものだ。
その中には魔力の譲渡方法も書いてあり、昨日コリンにも書いてあるやり方を教えた。
恐らくコリンはユリウスの言動や症状から魔力切れであると結論付け、習った知識を生かそうと力を尽くしたのだろう。
手のひらは魔力を集中させやすいため、魔力の譲渡は手を合わせていると効率が良い。手を握っていたのはそのためだろう。
コリンはそれを実践し、そして成功したようだ。
「ごめん。ありがとう」
ユリウスは謝罪と礼を述べた。
今頃コリンが居なければまだ意識が復活せずに床に伏していただりう。
コリンはユリウスを特に咎めることなく質問する。
「朝、何してたの?」
「魔法の練習。僕は魔法を覚えることは得意だけど、継続的に打ち続けることがまだできないみたいだから」
「体調が悪そうだったのは……」
「ギリギリで止めようと思ったんだけど、僕は調整が下手みたいだ」
ユリウスは手を動かして魔力切れの状態から少し良くなっているのを確認する。
視界の揺れや体の怠さをあまり感じないため、それなりには魔力は回復しているようだ。
「ユリウス。なんであんな無茶を?」
「うーん……体調が悪くて頭が回らなかったのもあるけど……」
ユリウスはベッドから足を下ろしベッドに腰掛ける形になり、コリンと目線を合わせて話を続ける。
「小さいときに、僕の母が魔物に襲われて死んだんだよね。あの時、僕の部屋から母の外出先の近くに魔物の集団が迫ってるのが見えてたんだけど、母には分隊が護衛でついてるし王都の中だから大丈夫だろうって思って何もしなかった。何かしてたら母が生きてたかはわからない。でも、あれから僕は見えてるのに何もしないで誰かが死ぬのは嫌だから……」
「だからあんなに?」
「あははっ、今になったら馬鹿みたいだ」
ユリウスはベッドから立ち上がる。
自分の服装は出たときのままで、着衣を取られた形跡はない。
ならば秘密はコリンにはバレていないだろう。
「ところで、襲撃は?」
ユリウスは着衣の乱れを直しながらコリンに聞く。
「ユリウスの言うとおり、魔物が来てた。警戒要員増やしたから問題なく対処できたらしい。怪我人も居ないって」
「そっか。それは良かった」
ユリウスは笑顔を見せて階段へ向かって歩いていく。
「じゃあ、少し遅めの朝ごはんでも食べようか。何をするにも、それからだ」
「うん。ありがとう」
コリンもユリウスに続いて階段へ向かう。
いつもは無心に終わらせる朝食が、今日は特別楽しみで、これが特別じゃなければいいと、コリンは感じた。
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