第2話 経緯そして思慮

どうやら着いたのは名もない集落のようで、結局ここに来た目的は聞けずに終わってしまった。

今は日没後で、ユリウスはこの集落一番の規模の家屋に通されているらしい。

もちろん王家である自分達の元の生活と比べればレベルは大分落ちるがそれは当たり前だろう。

2階建ての宿舎は高さの影響か夜風が涼しく通っている。

姉の交渉故か、ここはユリウス一人で使う宿舎となっているようだ。


「……『僕』、か」


王子ユリウスには隠さなければならない秘密がある。

それは実は女であるということ。

そして王位継承権を得ることは実際にはできないということだ。

事の発端は10年前のヴェルド王国にある。

当時のヴェルド王国は隣国とはあまり仲が良くなく、地で隣接する隣国とは常に領土争いをしていた。

そんな中、起きた問題が王家に女児しか生まれず王家が途絶える可能性があるという危機である。

王が男であるというのは象徴的な意味の他に、現実問題でも男でないといけない理由があるのだ。

現在、国を率いる王であると世界的に認められるためにはその国の領土に住み着いた土地神の紋章を体に刻み、その土地神固有の魔法を使いこなすことが条件とされている。

これが出来るのが何故か男性だけなのだ。

理由は不明だが、一説によると土地神は全て女性であり、紋章を刻む行為は土地神にとって伴侶に等しい存在になる行為であるため男である必要があるとも言われている。

そんな状況でヴェルド王国の当代の王であるルシオーノ=ヴェリエッタは男児が生まれず、このままでは王家が途絶え隣国に吸収されてしまう危機に瀕していた。

そこでその場しのぎとして行ったのが王家の次女ユリアを、第一王位継承権を持つ男児ユリウスとして発表、王子は居るとアピールするというものだった。

結果的にはその策略は成功でそれまで交渉を迫ってきていた隣国は口出ししなくなり、それからの外交の努力もあって10年前の険悪な関係は今は嘘のように交易が盛んになっている。

しかし王家がユリウスは女であることを欺いているのは紛れもない事実で、これが露呈したら上手くいってる隣国との外交も破綻しかねないという懸念から、未だに男児として振る舞い続けることをユリウスは強いられているのだ。

そして女であることは王家の中でも一部しか知らない。

その秘密を守るためには無茶をしてでも家屋一件貸しきる必要があったのだろうとユリウスは予想する。


「姉上も、無理をする」


この集落はそんなに大きな集落には見えなかった。

家屋を何件も貸与するのは難しいだろう。

そんな状況でユリウス一人のために一件の家屋を貸しきるなど、ユリウスからしてみるとそこまでする必要があるのかと思う。


「……」


誰も来ないことが分かりきっているユリウスは縛って隠していた髪を下ろし、上着ごと胸のホルダーを脱ぐ。

胸は大きい方ではないがずっと固定し続けるのはやはり窮屈で息苦しい。

それにこの何日間かは周囲の目を気にしてあまり外すことができなかったユリウスは久々の解放感を味わう。


「はぁ……」


ユリウスは用意されていたベッドにそのまま仰向けに脱力するように倒れる。

自分の後ろ髪が顔にかかる感覚は普段結っている時は無い感覚でそれだけのことでも新鮮に思えた。


「一体、いつまで続けるんだろう」


ユリウスは今年で13。

少年的に振る舞うよう心掛けてはいるが、この誤魔化しは流石に限界は来るだろう。

限界がきた時、国は、王家はどうなるのだろうか。


「……どうでもいいか」


そもそもユリウスにとってはこれは苦行であることの方が多い。

この苦行も全て王家の責任だとしたら、隠しきれなくなった以降どうなろうと知ったことではない。

王家の問題を自分という一時金で賄い、その利子が莫大に王家に返ってくるだけの話だ。

このよく分からない行事に参加する必要もなくなると考えれば、自分の性別がバレても自分の状況は悪化するとは言い切れないのかも知れない。

そんな風に考えながらユリウスは眠りに落ちていった。

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