僕は僕として
純須川スミス
第1話 序章
「ユリア……本当に、本当に済まない。我が、王家のために……」
幼かった僕は父親から言われたそれが何を意味するのか理解できなかった。
今になって思えば物事の理解ができる前にそうなってしまって良かったのだろう。
「王家のために、男を装ってくれ……!」
あの日から僕の進むはずだった道は大きく変わることになっていた。
「まだ移動するのですか?姉上」
「もう少しの辛抱です。ユリウス」
馬車に揺られ、休憩して、また馬車に揺られて、日没が迫れば近くの村で停泊。
そんな移動を三日も続けば流石に飽きる。
ヴェルド王国の王子ユリウスはそろそろ我慢の限界だった。
「これはどんな行事なのですか?父上に聞いても行くことに意味があるとしか説明されず、それで三日も移動してまだ何かあるのですか?」
「落ち着いてユリウス。これは貴方が王位継承権を得るための一歩なのです」
「ならば何をするかぐらい……」
「なりません。それは現地までの秘密になっています」
姉のユラリアから返ってくる答えは一貫してこんな感じだ。
ユリウスは溜まるフラストレーションをなんとか抑え込んで馬車に腰かける。
これまでも父や姉からこれは王子の責務だと言われることだけをこなしていたが、今回ばかりは精神衛生によろしくない。
自分がどこへ向かっているのかも、そこで何をするのかも知らない状態での移動は非常にストレスが溜まるもので、それが何日も続いているとやはり気が滅入ってくるものだ。
先ほど王都保護地区の端に位置するファーノ地区から出て、ここから先は王都のように整備されたこれまでの場所とは異なり王都の目が届かないユリウスにとっては未知の世界になる。
だがそれはユリウスの興味を惹くものではなく馬車の窓から見えるのは広がる平原と森林だけで自然に詳しいわけでもないユリウスからしてみれば、王都の方が整備された美しい平原や森林があるためそれほど感動はできなかった。
何回目か分からないため息を吐いたユリウスは、これまで馬車のなかでは全く動かなかった姉のユラリアが立ち上がったのを見て思わずそちらに目をやる。
「目的地が見えてきましたね」
「本当ですか?姉上」
馬車が止まるのを感じたユリウスは馬車から出ようとする。
だが、ユリウスはユラリアに制止される。
「何を……」
「貴方はここで待っていてください」
「……はい」
ユリウスは渋々馬車の席に戻る。
やっと目的の何かが分かると思ったユリウスは出鼻をくじかれた気分だった。
しかしものは考えようだ。
退屈な長旅、先の見えない移動、分からない目的。
移動が終わればそれらが少しでも解消される。
それなら今までよりはマシ、とユリウスは思うことにした。
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