Battle of the Daemon's Fortress

@ArAone

Battle of the Daemon's Fortress

【プロローグ】

[1958年 8月15日 6:37

中央アフリカ フェリニア共和国南部 ワキア村]


 夜明けを告げるニワトリの鳴き声で始まる貧しくも平穏な日常は崩れ去った。日の出を告げたのは耳をつんざく銃声と悲鳴、そして怒鳴り声だった。

 夜明けとともに村を襲撃したのは、小国のフェリニア共和国で恐怖政治を強行し、「鬼」の異名で恐れられている独裁者ディブロの私兵だった。若き日の彼はイギリスによる植民地支配からの解放を掲げてクーデターを起こし政権を奪取。しかしその崇高な理念も時間の経過とともに薄れ、疑心暗鬼に陥った彼は次々と粛清を行うと同時に、再編して私兵と化した軍隊を用いて略奪と虐殺を実行。数十にものぼる村が焼き払われ、何十万人とも言われる国民が殺されたのだ。

 夜明けとともに村を襲撃した兵士たちはドアを蹴破って室内に突入すると寝ていた老人を射殺し、女と子供を半ば引きずるような形で村の中心の広場へと集めた。

「武器を捨て、両手を高く掲げて広場まで出てこい!」

「女、子供はさっさと集まれ!」

「抵抗するものは構わず撃ち殺せ!」

村に響き渡る悲鳴の合間に兵士たちの怒鳴った指示が飛び、手を頭の上で組んだ状態で村人がぞろぞろと出てきた。

 若い男の中には銃や刃物などを持って反撃を試みようとする者もいたが、数と武器で圧倒的に上回る敵を相手になすすべなく銃弾に倒れていった。十数分後には村の広場に全ての村人が集められ、老人、男、女と子供の三つに分けられた。泣き叫ぶ子供、恐怖に震える若い妻、絶望の色を浮かべた老婆、憎しみに燃える男――。村は一瞬のうちに悲劇のるつぼと化した。

 隠れた村人の捜索と、もぬけの殻になった家屋からの略奪を終えた兵士らが担いだ火炎放射器を点火し、竜の舌のような真っ赤な炎が家々を燃やし、それを合図にしたかのように銃を構えていた兵士らが老人と男たちに向かって集中砲火を浴びせた。悲鳴も鳴き声も銃声にかき消され、聞こえるのはただ、鳴り止まない銃声と炎の燃え盛る音だけだった。そこに広がっていたのはまさに地獄絵図以外の何物でもなかった。


 病で夫を亡くしたエレナは日課である夜明け前の墓参りを終えて村への帰路を辿っていた時に銃声によって襲撃を知り、急いで村外れにある家に戻った。村の中心からかなり離れているので、まだ敵の手は届いていなかった。急いで家の奥に寝かしていた生後間もない赤ん坊を抱きかかえ、夫の形見である象牙をくり抜いて作られた箱を持って逃げ出した。しかし二人組の兵士に見つかってしまい、逃れるために背中の赤ん坊をぎゅっと抱きかかえて必死に走った。だが逃れられないと悟った彼女は抱えていた赤ん坊を象牙の箱に入れ、自身の上着とスカートで箱を包んで目の前の小川へと流した。

〈せめて、この子だけでも助かってくれれば……〉

川の流れに乗って小さくなっていく我が子を最後まで見送れぬまま、エレナは背中に銃弾を受けて息を引き取った。





【 1 】

[1958年 8月15日9:13 フェリニア共和国南部]

 

 数十年も前から喧騒を避けて周辺の村から離れた場所に住んでいるメアリーとジェイコブは長年寄り添いあった老夫婦で、今はジェイコブが薪を拾ったり動物を狩ることで生計を立て、メアリーはその間に家事や畑の手入れをして過ごしていた。


 今日もメアリーがいつものように家の前を流れる小川で洗濯をしていると川上から何やら大きな果実のようなものが流れてくるのが見えた。それが近づくとボロ布で包まれた物体だと分かり、布をそっとめくってみると繊細な模様の施された立派な象牙の工芸品が現れた。

「あれ、まあ! なんて綺麗な物だこと。持って帰っておじいさんに見せましょう」

流れてきた象牙を拾うとメアリーはそれを抱えて家に帰った。





【 2 】

[17:40 フェリニア共和国南部]


 日が傾き始めた頃、街に薪や獲物を売りに行っていたジェイコブが帰ってきた。

「ただいま」

「おかえりなさい。それよりあなた、これを見てちょうだいな!」

そういって出してきたのは今朝川で拾った美しい象牙の工芸品だった。

「なんとこりゃ! たまげた。こんなに美しい物を見るのは初めてじゃ。どれ、ちょっと貸してくれ」

そういって受け取ったジェイコブは上下左右隅々まで細かい彫刻を見回した。

「おい、ここに線が入っているぞ。もしかして中に何か入っているんじゃないのか?」

「あれ、本当に。ちょっと待っててくださいな」

そういって家の奥へと姿を消したメアリーが戻ってきたときに手に持っていたのは大きな包丁だった。

「この刃を隙間にさしてあげれば、きっと開きますよ」

包丁を象牙に走っている切れ目のような細い線に当て、グッと力を入れたその時、まるで仕掛けてあったかのように象牙の工芸品がパカッと割れた。そして更に驚いたことに、中には生後間もない男の子が入っていたのだ。

「オンギャー! オンギャー!」

まるで開けられるのを待っていたかのように大きな声で泣くその子を見て二人は顔を見合わせた。

「象牙から子供が産まれるとは、こりゃ、まぁ、びっくらこいた!」

「これはきっと、子供が欲しいという私達の願いを神様が叶えてくださったんですよ」

男の子が出てきた象牙の中をよく見ると一枚の紙切れとダイヤモンドの原石が数個入っていた。


_______________

 この国の独裁者ディブロによって私の村は焼き払われ、村人は虐虐殺か誘拐という目に会いました。せめてこの子だけでも助かるようにと泣く泣く川に流した次第です。どうか、この子をよろしくお願いします。一緒に入れてあるダイヤはその子を育てるのにお使いください。

_______________


 紙切れに書いてあった手紙を読んで涙を流し、二人は象牙から産まれた男の子に『アイヴォル』と名付けた。





【 3 】

[1974年10月20日 15:02 フェリニア共和国南部]


 象牙から出てきたアイヴォルはご飯をしっかりと食べ、元気にすくすくと育ち、十六歳になる頃には美しくたくましい青年へと育っていた。

  メアリーとジェイコブは十分に成長したアイヴォルに真実を告げる時が来たと彼を呼び話し始めた。

「アイヴォル、実はわしらはお前に隠していた事がある」

「なんでしょう? お父さん」

「わしらはお前の本当の両親ではない。本当の母はお前が産まれてすぐに殺されたのじゃ。お前の母さんがなんとか生き延びさせようとお前を川に流したのじゃよ」

アイヴォルが驚きと衝撃を隠せないながらも、質問をした。

「こ、殺された? 誰になんですか?」

「ディブロじゃ。この小国を恐怖と武力で支配する独裁者じゃよ」

自身の由来とこの国の現状を詳しく知ったアイヴォルはある決意を固めた。

「父さん、母さん、僕はディブロを倒してきます。母の敵を打ち、この国を変えてみせます!」


 決意を固めてから数日、出発の準備を万端に済ませた。第一次世界大戦におけるアフリカ戦線でジェイコブが英国軍から支給された軍服とボルトアクション式のリー・エンフィールド小銃、そしてメアリーからは箱を手渡された。

「これは私が軍に看護婦として従軍している時に司令部からこっそり盗んで大切に取っておいたものよ」

アイヴォルが箱を開けると50粒の丸薬が入っていた。

「これは『KIBIDANGO』という薬よ。食べると筋肉増強、アドレナリン大量放出、麻酔作用とかがあって、一粒食べると十人力、二粒食べると百人力、三粒食べると千人力がつくわ。ただし、それ以上食べると体への負担が大きすぎて、死んでしまうから気をつけてね」

「わかりました。お父さん、お母さん、色々とありがとうございます。それでは、行ってまいります」

そしてアイヴォルは勇ましくドアを開け、出発した。





【 4 】

[10月21日 11:48 フェリニア共和国南部]

 

 ディブロを倒すにも一人ではさすがに太刀打ちできまいと街で傭兵を雇う事にしたアイヴォルは兵士の斡旋を兼ねる酒場へと向かった。店主に尋ねると店の奥で酒を飲む一人の男、入り口近くで騒ぐ一団、端でサイコロを振るグループを教えてくれた。


 最初に声を掛けたのは奥で酒を飲んでいた髪を切らずに伸ばすままに任せた細めの男だった。

「僕に雇われてくれないか?」

唐突に話しかけてきた若者に驚いたような表情を浮かべて、値踏みするように全身を眺めた。

「お前、俺を誰だか知っているのか?」

男の問いかけに隣で酒を飲んでいた酔っぱらいの老人がろれつの回らない口で答えた。

「坊っちゃん、そいつはアフリカ戦線でドイツ兵を二百人以上射殺した伝説の狙撃手、フェズントだよ」

「そういう事だ、坊主。気安く雇おうなんて考えなさんな」

「ちょっと待ってくれ、ならこれでどうだ?」

そういってアイヴォルが取り出したのはダイヤの原石だった。埃の漂う店内でキラキラと光を反射するそれを見るとフェズントは手を差し出した。

「よし、雇われてやろうじゃねぇか。契約成立だ」

アイヴォルは差し出された手を握り返した。

〈まずは一人だ〉


 次に向かったのは入り口で酒を飲んでいる一団だった。がっちりとした筋肉が服の上からでもわかるほどに盛り上がっている。

「リーダーは誰だ? お前たちを雇わせてもらいたい」

気分のいい酒盛りを邪魔された何人かがギョロリと目玉を向けるも、真ん中でコップを握っていた一人が口を開いた。

「どうした、坊主? そんなおチビちゃんがなんで俺らを雇いたがるんだ、え?」

「僕はこれからこの国の独裁者ディブロを倒しに行く。力を貸してくれないだろうか?」

そう宣言すると一瞬にして場の空気が変わった。酒を飲んで愉快そうになっていた彼らの顔つきが真剣そのものになり、互いに顔を見合わせて言葉を交わし始めた。

 しばらくしてリーダーが立ち上がり、アイヴォルと向かい合うように正面に移動し、片膝をついてひざまずいた。

「あの独裁者を倒すとなりぁ、喜んで力を貸してやる。あいつには何人もの仲間が殺されてきたんだ。俺らイヌ人は忠義心なら誰にも負けねぇ。俺はこいつらのリーダー、ドグだ。死ぬまでお供してやっよ!」

そうリーダーが言い終わったところで席に座っていた残り七人も一斉にひざまずいた。

〈これで仲間は九人だ〉


 最後には奥でサイコロを使って賭け事をしていたグループだ。ボサロサの髪に無精髭を生やした輪の中に割り込んでいくと大きな声で言い放った。

「仲間に入れてくれ。僕はこれを賭けよう!」

そう言って取り出したのはメアリーから貰ったKIBIDANGOだった。一粒取り出して盤上に載せ、周りの文句を無視してゲームに挑み、そしてわざと負けて相手に言った。

「僕の負けだ。その薬は君のものだ」

「何だこれは? 薬? こんな怪しいものを飲めるかってんだ!」

「そうかい? なら返してもらおう。それは一粒飲めば十人力の秘薬なんだ」

その言葉を聞いて疑いながらも丸薬を口に運び、飲み込んだ。

「こいつはすげぇや! 身体の底から力が溢れてくらぁ!」

そう言うと木でてきたサイコロを握りつぶした。それを見て驚いた周りの奴らが寄ってくるが、野太い声に静止された。

「小僧、そんな薬を持って何をするつもりだ?」

「僕は母の敵を打つために独裁者ディブロを倒しに行くところで、強い仲間を探しています。この薬を飲めば十人力、百人力、千人力の力を出すことができるんです。どうか、力を貸してもらえないでしょうか?」

「なるほど……。いいだろう、手伝ってやろう。ただし全てが終わったあとでその薬を報酬として貰えるか?」

「わかりました。お願いします」

「こいつらの頭のモンクだ」

「僕はアイヴォルです」

「俺らは暗殺や斥候任務を専門にしてきた隠密部隊の成れの果てだ。拳を使った戦いにも慣れている。その薬がきっと役に立つはずだ」

そう言って周りの五人を指差した。


 〈これで十五人の仲間が雇えた。彼らはきっと強い助けになるはずだ〉

そう思いながら、雇った兵たちを引き連れてアイヴォルは酒場を出た。





【 5 】

[15:06 フェリニア共和国中央部 ディブロ邸付近]


 酒場を出たアイヴォルらは一時間ほどで装備や必要物資を揃え、荷台に機関銃をとりつけた四台の改造車テクニカルで移動し、ようやくフェリニア中央の湖に浮かぶ小島に建てられたディブロ邸の見える位置に到着した。「鬼砦」呼ばれているディブロの邸宅は周囲を湖で囲まれ、背後は山で守られており、周回する歩兵と見張り塔などで完璧なガードを保っている。

 先に放っておいた二名の斥候が帰ってきて状況を報告した。

「邸宅の警備は万全です。周囲を少なくとも十人が見回り、入り口も二重のゲートで固められています。左右に高い見張り塔が建っていて重機関銃と狙撃手が配置されているのを視認しました」

報告を聞き、襲撃の流れを確認したタイミングでアイヴォルは箱の中に残った四十九個のKIBIDANGOを十五人に三粒ずつ配った。

「これを一粒食べれば十人力、二粒食べれば百人力、三粒食べれば千人力が出る丸薬KIBIDANGOです。皆さん、よろしくお願いします」

そう言って口に丸薬を放り込んだ。食べて数秒後には身体の芯が熱くなり、力のみなぎるような感覚が全身を駆け巡った。


 〈母さんの敵を絶対にとる〉

心の中で決心を改めて確認し、作戦開始の合図を出した。

〈まず最初に活躍してもらうのは伝説の狙撃手、フェズントだ〉





【 6 】

[15:57 フェリニア共和国中央部 ディブロ邸周辺]


 邸宅のちょうど真向かいにある丘に登ったフェズントは地面にしっかりと固定した狙撃銃のスプリングフィールドM1903のスコープを覗いた。標的まではおよそ七百メートル。銃の最大射程は五百メートルが限度であったが改造を施した銃と彼の腕にかかれば大した問題ではない。正面向かって右側の見張り塔にいる兵士に照準を合わせた。アイヴォルからの指示を確認してから大きく息を吐いて銃のブレを抑え、引き金を引いた。パーンという銃声が響き、スコープの中に映る兵士の頭が飛び散って倒れるのが見えた。ボルトを起こして次の弾丸を装填し、間髪入れずに左側の見張り塔にいる兵士に照準を合わせて引き金を引いた。銃弾が胸に命中し兵士は崩れるようにその場に倒れた。

 

 双眼鏡で見張り番が倒れたのをしっかりと確認すると同時に、銃声を合図に五艘のモーターボートに乗り込んだアイヴォルらが邸宅に向けて発進した。車から外して船の船首に取り付けた四台のヴィッカース重機関銃を連射しながら岸に乗り上げた。大口径の銃弾に晒されて身体がバラバラになった兵士数人の飛び散った肉片を踏まないように避けながら上陸し、残りの兵士と銃撃を交えながらゆっくりと前進してそれぞれ建物の影に身を隠した。遮蔽物に隠れながら応戦していたが、フェズントの狙撃で次々と敵が倒れ建物周囲と入り口の制圧は時間をかけることなく完了した。





【 7 】

[16:21 ディブロ邸宅内部]


 邸宅の入り口を制圧したアイヴォルらはロックされた入り口を爆薬で破壊して内部に突入した。入り口の向こうはそこそこの広さの中庭が広がっており、周りを囲うバルコニーから敵が一斉射撃を仕掛けて来た。最初に突入した三人が撃たれて倒れるも、KIBIDANGOの効果なのか完全に息絶えるまで雄叫びをあげながら手に持った銃を撃ち続けた。足が吹き飛び、脇から内臓が飛び出してもなお銃を撃つ光景を見て硬直した敵が銃弾に当たって五人落ちてきた。投げた手榴弾が爆発して敵が隠れたすきにバルコニーに向かって銃を乱射しながら中庭に入ると飾ってある像の裏などに身を潜めた。

「俺らでここを何とかする! 掩護するからお前は先にいけ!」

味方の一人がアイヴォルに向かって叫んだ。

「すまない! ドグ、モンク着いてきてくれ!」

仲間が援護射撃をしてくれている間に三人は中庭の奥の扉を抜けて邸宅の奥へと向かっていった。





【 8 】

[16:30 ディブロ邸内部]


 長い廊下を走り、唐突に襲撃をしてくる敵を避け、倒しながら進んで一番奥の部屋の前に辿り着いた。扉の前に立っていた衛兵を倒して中に転がり込むように入ると、そこには男が周りに複数の部下を従えて座っていた。遠くからでもはっきりと分かる狂気の色を浮かべた目、短く刈り込んだ黒い髪、昔の戦闘で引きちぎれた右耳の跡が彼の威圧的な雰囲気を醸し出していた。

「我が家を襲い、勇敢なる部下を殺したのは誰だ?」

部下の静止を無視して椅子から立ち上がった彼は入り口に立つアイヴォルを指差しなが淡々と放った。

「その勇敢なお前の手下によって十六年前に虐殺された村の生き残りだよ! 母さんの敵だ! お前を殺してやる!」

「ほほぉ、面白い。お前みたいな小童が俺を殺せるとでも?」

周りにいたディブロの部下が銃を構えてアイヴォルたちを狙った。

「待て、撃つな。面白そうじゃないか。俺と一対一で勝負しろ。もちろん素手でだ。どうだ、やるか?」

「あぁ、もちろん。受けて立つさ!」

「そうでなくちゃな。まずは後ろの二人が持っている武器を捨てさせろ」

アイヴォルが二人に武器を捨てるように指示し、二人は持っていた銃をディブロの手下に向かって投げた。ディブロが上着を脱いで腕をまくり、部屋の中央に出てきた一方で、アイヴォルは後ろに立つ二人に耳打ちをしたあとで前進をして腕を構え、攻撃の姿勢を取った。

 部屋の中央で互いに見合った二人の気迫で室内には重い静寂が漂っていた。沈黙を最初に破ったのはアイヴォルの一撃だった。KIBIDANGOの筋肉増強効果によって何倍にも強化されたパンチがディブロの右脇腹を捉えた。肺から空気を絞り出されて息が詰まったディブロが数本後ずさって新鮮な空気を求めて喘いだ。

 その一瞬を突いてアイヴォルが合図を出した。すると部屋の隅で待機していたドグとモンクが腰に隠した拳銃を抜いてディブロの手下を目にも止まらぬ速さで次々と撃ち抜いていった。正確な狙いと見事な射撃の腕前で並んでいた手下の眉間に次々と風穴を開けていった。

「おい! ふざけるな、どういうことだ!」

一部始終を見ていたディブロが怒りに声を荒げて叫んだ。

「約束が違うぞ! 決闘の公正さを破る気か? それで敵討ちなんて言えるのか?」

「はぁ? 国民を虐殺しておいてなにが『公正さ』だ」

そう言うとアイヴォルは更に拳を繰り出してディブロを床に叩きつけると馬乗りになって両手を縛り上げた。ドグに縛ったディブロを担ぎ上げさせるとモンクと二人で中庭の加勢に戻った。





【 エピローグ 】

[10月23日 10:17 フェリニア共和国議事堂前広場]

 

 フェリニア共和国は歓喜に満ち溢れていた。長きに渡って独裁を敷いていたディブロが倒された知らせは瞬く間に国中に広まった。そして今日、十時半に国の中心である共和国議事堂の広場でディブロの処刑が行われるということで続々と人が集まっていた。

 広場はディブロの処刑を叫ぶ声、自由を喜ぶ声、そして独裁者を倒して英雄となったアイヴォルの名前を呼び続ける歓声で溢れかえっていた。

 広場の中心にして据えられている噴水にはアイヴォルたちがディブロ邸から持ち帰った金銀財宝が積み上げられ、濡れた表面が太陽を反射してキラキラと美しく輝いている。




[10:27 フェリニア共和国議事堂前広場]

 

 ドグによって絞首台に連れられたディブロはモンクの手で首に縄を掛けられた後で遺言を述べる機会を与えられた。

「イギリスからの植民支配から解放してやったのは誰だ? 国を治めるために何人かは殺してきたかもしれないが、それは奴らがクズ同然の人間だからだ! こんな事をして許されると思うなよ!」

「時間だ」

群衆に向かってわめき散らすディブロの言葉をドグが遮り、脇につけられたレバーをモンクが引いた。バタンという音を立ててディブロの足元の床が開き、首に繋がれた縄が張って彼の身体が宙吊りになった。


 午前十時三十分、定刻通りに独裁者の処刑は実行された。


 少年は敵討ちを果たし、「鬼」と呼ばれた独裁者は象牙から産まれた勇敢なる少年によって倒され、国には平和が訪れたのだった。


 めでたし、めでたし。

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