第107話 空が燃え落ちる

 魔物軍団は三つの大隊に別れてペルシーの一〇キロほど近くまで来ていた。

 ウォーウルフが先行することもなく、一致乱れぬ様は、人間の軍隊を見ているようだ。ただ、それが魔物により組織された軍隊ということを除けばだが……。


「ちょうどいい距離だ。いっちょう派手にぶっ放すか」


「今日はやる気満々ですのね……」


ペルシーはいつになくやる気満々である。

 エルザ達が引き気味だが、本人は余り気にしていないようだ。


「お兄ちゃん。シンクロ率は一二〇%よ。いつでも行けるわ!」


 パメラが枕詞のようにシンクロ率を報告してくる。

 ペルシーとパメラのシンクロ率が一〇〇%を超えるのはペルシーのやる気と関係があるのかもしれない。

 そして、ペルシーは殲滅魔法を発動した――


幻想魔法イメージリアライザペルセウス座流星群!」


「ペルシー様、何回かに分けて発動するのですか?」


「いや、このまま行くよ。だって、『極大期』だから!」


 ペルシーが発動したのは『ペルセウス座流星群 極大期』だった。

 発動と同時に、成層圏よりも更に上空で、多くの金属塊が生成された。その金属塊は引力で加速し、流星となって魔物達の上空に達した。


 音速を遥かに超えた流星は大気との衝突で高熱を発し、衝撃波を伴って魔物軍団を飲み込んで行く。


 空が燃えている――


 ペルシーの魔法により、魔物軍団が全滅してこの戦いは終わりを告げるのだと、ペルシーをはじめ、エルザ、クリスタ、パメラは思っていた。ところが、自体はあらぬ方向へと転がり始めるのだった。




    ◇ ◆ ◇




 その頃、エド達は討伐隊の生き残りが隠れている山について、魔物たちを待ち受けていた。


「あっ、空を見て下さい!」


 エリシアが大声を上げて空を指差した。

 その方向の空が真っ赤に燃え上がっているのだ。


「空が燃えて落ちてくるみたいだぜ」


「妾は千年以上生きているが、あのような空を見たことがないのじゃ。あれがペルシーの魔法だというのか?」


「間違いない。あれは兄貴の魔法だ。見るのははじめてだけど、あれがペルセウス座流星群だと思う」


「ガルルルルゥ~」


 その時、ジーナが獣のような唸り声を上げた。

 何を警戒しているのだろうか? エドとエリシアには判らない……。


「どうしたんだジーナ? 何か問題でもあるのか?」


「嫌な感じがする。大気の様子が変なのじゃ」


 エドとエリシアには膨大な魔力を感じて入るが、それはペルシーが発動した魔法のせいであって、それ以上の何かを感じることはできない。


「神獣だから感じることができるのか?」


「エドも龍人なのだから感じることができるはず。あの空をよく見てみるのじゃ」


「「あっ!」」


 エドだけでなく、エリシアも同時に感じ取ることができた。

 二人はそれを説明するだけの知識と語彙を持ち合わせていなかったが、彼らにも異変は分った。

 というか、すでに明白である。


 空が歪んでいるのだ――


「兄貴……大丈夫なのかよ……」


「ペルシーさんは人知を超えた能力者です。だから、大丈夫!」


「それは希望的観測というやつじゃ。あれが大丈夫なはずなかろう」


 空の歪みは刻々と増大し、エリシアの希望的観測は当たらず、ジーナの心配が現実のものになろうとしていた――




    ◇ ◆ ◇




 流星群が魔物達の上空から容赦なく落ちてきた。

 凄まじい轟音、燃え盛る炎、激しく吹き出る煙――

 地上はまさに地獄そのものだ。

 既に魔物軍団の半数が壊滅しているようだが、視界が悪く確認できない。


「あれっ? なんか変だぞ」


 流星が自分の思ったように落ちてこない。狙いを外していることにペルシーは異変を感じた。


『ペルシー様……。空が歪んでませんか?』


 エルザが妖精通信で脳内に直接話しかける。

 流星による衝撃波が次から次へと到達し、音声での会話が困難だからだ。


『あっ! ペルシーさん。あそこに人間がいるのです!』


 中央付近の煙が一瞬だけ晴れて、人の姿をクリスタが発見した。


「少女……?」


 魔物の死体の中に佇む一人の少女。それはシュールとしか言い様が無い地獄絵図だ。


『た、助けよう』


『ペルシー様、冷静に! あれが魔物を操っている者の正体ですわ!』


『お兄ちゃん、エルザさんの言うとおりなの!』


 多くの流星が降り注ぐ中、普通の人間が生きていられるはずはない。

 たとえ魔法障壁を使ったとしても無傷ではいられないだろう。

 冷静に考えればすぐに判ることだ。

 ペルシーは直ぐに頭を切り替えた。あれは、敵の可能性が高い、人間以外の何かだ。


『みんな! 俺の体に触れてくれ!』


 パメラは素早く反応し、ペルシーの背中にしがみついた。

 そして、エルザは右腕、クリスタは左腕にそれぞれ抱きつく。


幻想魔法イメージリアライザ、転移!」


 ペルシーは少女の前に転移することを選んだ。

 この魔物軍団の暴走の原因が、その少女ならば話を聞かなければならない。

 もし、彼女が敵であったとしても真実を知りたい。

 それがペルシーの判断だった。

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