第104話 世界と理を異にするもの

 シーンと静まり返った部屋。ペルシー、エルザ、クリスタ、そしてパメラがベッドで眠るレイランを見つめていた。もちろんここは、異次元屋敷ミルファクの中だ。

 ペルシーの完全再生パーフェクト・リジェネレーションは成功した。レイランは一命を取り留めただけでなく、傷跡も完全に回復している。だが、体力とマナを回復させるには数日の休養が必要なのだ。


 四人はレイランが重傷を追ったことでかなりのショックを受けていた。彼女は龍人であるだけでなく、賢者の称号を持つ最上級レベルの魔法使いでもある。どんな魔物と遭遇しても、切り抜けることはできるはずなのだ。ところがレイランは重傷を負ってしまった。いったい何がレイランの身に起きたのだろうか?


「お兄ちゃん、レイランさんは防御魔法を限界まで使ったせいでマナを使い果たしたんだと思うの」

「そうだろうな。マナが欠乏したんだから体力の回復には二、三日かかるだろう」

「一人でよく頑張りましたね、レイランさん」クリスタはレイランの手に自分の手を重ねた。かつて自分自身も重傷を負って、このような状態になったことを思い出しているのだろう。

「それにしても、レイランほどの魔法の使い手が敗北するなんてありえませんわ。ただの魔物だと思えませんの」エルザはレイランの頭を優しく撫ぜた。だが表情は険しいままだ。

「そうだな、その通りだよ。誰かを守ろうとしたわけでもなさそうだし、飛んで逃げる隙きくらいあるはずだ」

「みなさん、もう気づいているのでしょう。あの邪悪な気配を」


 エルザはついに全員が気づいている違和感について言及した。彼女にとって、それは邪悪な気配として感じているようだ。


「気づいているさ。あれほど異質な気配を感じたことはない。エルザはあれの正体を知っているのか?」ペルシーはその気配を異質と捉えているようだ。

「いえ、残念ながら知りませんの。先ほど、龍王様に伝令を送りました。返事は早くとも三日はかかると思いますの」


 龍人族は人間の社会に深く溶け込んでいる。エルザが龍王と接触するためのチャネルは複数存在しているので、連絡をとるのは容易い。彼女はペルシーさえも知らない方法で龍王に情報を流しているのだ。


「まあ、そうだろうな……」

「魔物討伐隊はどうするの? まだ、魔物軍団は追い付いていないはずよ」

「レイランが魔物軍団を引き付けてくれたから、二時間は余裕ができたはずだ。一挙に先頭から叩き潰していこう」


 魔物軍団が何者かに統率されて組織だった動きをしていても、中隊や小隊に分かれて距離をとっている訳ではない。やつらは陣形を整えたとしても一塊の軍団なのだ。

 ペルシーにとって、殲滅魔法を使うチャンスだ。


「お兄ちゃん、こっちへ来て……」パメラがペルシーを隅に引っ張っていった。いつになく彼女の表情は堅い。それに彼女にはテレパシー能力があるので、わざわざ内緒話をする必要はないのだが……。

 エルザ達もパメラの意外な行動にただ事ではない何かを感じているようだ。


「どうしたんだパメラ。重要な話みたいだな」

「異質な気配……」

「そうだな。この世界では感じたことのない気配を感じた」

「パメラはもう一つの異質なマナ放射を知っているの」


 マナが生物の体内から外界に放出されると、マナは自然崩壊をはじめてエレルギーを発生させる。パメラはそのことをマナ放射と言っているようだ。


「マナには質の違いがあると聞いている。パメラが言っているのは魔物のマナとも違うということか?」

「私は人間が持つマナやその派生系をアルファ群、魔物のマナはベータ群と定義しているの」

「獣人の持つマナもアルファ群か?」

「そうなの。魔物以外の動物でさえアルファ群に属するの」

「その分類がどうかしたのか?」

「今回の気配はアルファ群でもベータ群でもなくて、ガンマ群に分類したほうがいいほど性質が異なるわ」

「どういうことなんだ? パメラが何を言いたいのか解らない……」

「ガンマ群のマナ……、それは、この世界とは理を異にするもの……」

「もしかするとそれって……」


 ペルシーには心当たりがあった。この世と別の理で生じた存在。

 それはペルシー自身だった――


【後書き】

 しばらく更新が滞ってしまいました。

 週一で再開させて頂きます。

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