第103話 今は治療が先ですわ
ペルシーたちはガラフ大草原に転移した。
その場所は広範囲に渡り地面が黒焦げになっていた。焼畑農業をしているわけでもあるまい。ここは未開の土地、ガラフ大草原なのだから……。
「レイラン! レイラン!」
レイランを狙って転移したはずなのにレイランの姿が見えない。
「クリスタ! レイランを呼び出してくれ! お願いだ! 早く!」
戦闘があったのは明らかだ。魔物の燃え滓らしきものが円を描くように転がっている。
「まさか、いやそんなはずない……」ペルシーは顔を青くして独り言を呟いている。
そしてエドはは呆然として立ち尽くしている。
こんなとき男は復帰するのに時間がかかるのだろうか? 女性陣はすぐに周囲を探し始めた。
「ペルシー様、円の中心辺りを探しましょう」逸早く冷静になったエルザが提案した。
「お兄ちゃん! 見つけたわ!」
パメラは自分の探知能力でレイランを探し出した。命があるからこそ捜し出すことができた。エルザの予想も当たった。
「姉貴! 姉貴!」エドが円の中心に走り出す。
レイランは黒ずくめの服を着ているし、焼け滓に覆われていて全員気が付かなかった。
そして、彼女の姿を見て全員息を呑んだ。
彼女の体を何かが通り過ぎたように一本の黒い溝跡があった。その黒い溝はレイランの右肩から右足まで突き抜けている。その殆どが黒く焦げて、腹部は内臓が見えている。おそらく人間だったらショック死するのではないだろうか。
だが、人間でさえ雷の直撃を受けて生きながらえた例がある。諦めてはいけない。
「レイラン、レイラン……。ごめん、赦してくれ」
「ペルシー様! 今は治療が先ですわ!」エルザが叱責した。
「そ、そうだ。その通りだ。クリスタ! 治療魔法!」
「はい! 治療中です」
クリスタはペルシーに言われるまでもなく、治療魔法を開始していた。
「レイチェル! アルベルティーを呼び出してくれ」
「了解です、お兄様!」
ペルシーはレイランの命を確保してから、自分でレイランの体を元に戻すつもりだ。だが、彼は動揺するとパメラとのシンクロ率が下がり、治癒魔法を発動できない。それはクリスタの時に経験済みだ。それに、焼け焦げた体を完全に治癒させることはエリシアのときに経験済みだ。要は落ち着けば大丈夫。
レイチェルはすぐにアルベルティーを呼び出してくれた。
「静謐なる湖の底に眠る水の精霊よ、清らかなる水の支配者よ、我が命じる。顕現せよ! アルベルティー!」
前回のように鏡のような水面が現れて、その上に精霊アルベルティーが降り立った。
アルベルティーはレイチェルとペルシーを見つけると嬉しそうに微笑む。
相変わらずアルベルティーは、淑女のようで、色っぽいお姉さんだ。
「あら、ペルシー。あなたが呼び出してくれると思ったんだけど」
「すまん、アルベルティー。これでも動揺しているんだ。助けてくれ」
「この人は……龍人ね。ペルシーのお友達かしら?」
「俺の大切な人だ」
「ふふふ、任せて。でも、私の力では完全に治癒することはできないわよ」
「解ってる。少し時間がほしい」
アルベルティーはクリスタを治癒したときのように【生命の水球】を出現させた。そしてレイランを水球の中央に固定した。
ペルシーはクリスタが瀕死の状態のときとは違い、泣き叫んだりしていない。エルザに叱責されて、多少は経験を積んだからだ。だが、人の心というものは簡単に変わるものではない。
ペルシーは、レイランの命を現世に繋ぎ止めることができてホッとしたのか、膝を地面について座り込んでしまった。
「ペルシー様。レイランは大丈夫ですわ。落ち着いて下さい」
「ペルシーさん、私たちもついているのです」
ペルシーはエルザとクリスタに抱きしめられて、少しずつ精神状態を安定させていった。
好きな人にハグされるというのは、精神的に侮れない効果をもたらす。それが、最愛の人たちなら尚更のことだ。
その甲斐あってペルシーは半時間でパメラとのシンクロ率を上げることに成功した。
「エルザ、クリスタ、ありがとう。もう大丈夫だ」
ペルシーはすくっと立ち上がり、水球内に横たわるレイランの横に移動した。
「ペルシー様、私はもっと酷い状態だったと聞いています。それが今ではこの通り、ピンピンしてます」エリシアはその場で飛び跳ねてみせた。
「ペルシー様なら絶対に成功します」
「ありがとう、エリシア。確かに君は……」
それ以上は言えなかった。赤竜のブレスで焼かれたエリシアは、殆ど死んでいるような状態だったからだ。だが、ペルシーはエリシアを救うことができた。
「パメラ、治療魔法を使うぞ!」
「シンクロ率八〇パーセント。いつでもいけるわ、お兄ちゃん!」
「よし、
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