第93話 ロマニア法国の魔物暴走
ロマニア法国の特務機関に所属するというオランジュとの戦闘で、ペルシーの心に変化があった。それはこの世界ではごく当たり前の行動原理なので、この世界に生を受けたものには判らないほど微妙な変化である。
それでもクリスタとパメラは気がついた――
ペルシーと彼女達との付き合いはまだ数ヵ月しかない。それでも、心で結び付いているからこそ彼女達は気がつくことができたのだろう。
ペルシーは他者の命を奪う行為のハードルが下がっている――
もし、オランジュ小隊が時空振動波の餌食になろうとも、二人は歯牙にも掛けないだろう。彼女達にとって、オランジュ達などペルシーと比べればどうでもいい存在なのだ。だが、ペルシーは違う。全力で庇護しなければならない存在なのだ。
もしあの時ペルシーが時空振動波を放ったら、大勢の命を奪った罪悪感で潰れてしまっただろう――
だからこそ二人はペルシーを止めようとした。
――クリスタ、パメラ、そしてみんな……ありがとう。
ペルシーは自分でもそれに気がついている。自分の心が次第に変質していくことに気がづいている。だが、それが己の生き方にどのような影響を与えることになるのか、想像もつかなかった。
「さてレビィー、話しを聞こうか」
レベッカは涙目になりながらも、しっかりとした口調で話し始めた。
「ちょうど私がロマニア法国に帰還した時よ。この国でも
「はじまりの森調査隊が解散した直後のことか?」
「そうよ。シーラシア魔物大戦の直後だったからタイミングが良すぎるような気がするけど、それが事実よ」
「じつはここに来る途中で、
「そう……。ロマニアでの
「規模はどのくらいなんだ?」
「一〇〇から五〇〇頭ほどね。今回の
「どうして違いがあるのかな?」
「
「なるほどね、
「それ以外に違いがあるとしたら
「原因が一つではない可能性もあるということかもな」
「
「オランジュもその任務を受けているわけか」
「そうよ。彼は目的のためなら手段を選ばない人間で有名なの。その彼がペルシーさんに目を付けていることを知って、私の権限でついてきたの」
「へぇ~、さすが賢者様だな。俺はてっきりレビィーも彼奴の仲間かと思ったよ」
「冗談言わないで! 心配して来たのに、酷い……」
「あっ、ごめん。言い過ぎたよ」
「もう二度とオランジュと一緒にしないでね」
「分った……」
「でも……。私も酷いよね。
「ペルシーよ、レビィーとやらは人間にしてはなかなかの
「か、体ですか? 私の体で良ければ……。えっ、私、何を言ってるんだろう」
レベッカの顔が火を吹いたように真っ赤になった。
クリスタはジーナを睨んでいる。
「ジーナ、俺にはクリスタという婚約者がいるんだ。冗談にならないぞ」
「冗談で言った訳ではないのじゃが、今の発言は撤回しよう。クリスタが怖いしの」
ジーナは潔く引き下がった。彼女は自分が人間の倫理観に詳しくないことを自覚しているようだ。むしろ、学びたいと考えているからこそ、ペルシー達についてきたのだろう。
「因みに、俺は魔物大戦には殆ど関わっていないからな」
「嘘つき。あの隕石が落ちた後、残りの魔物を狩ってたじゃない」
「あっ、バレてたか……」
「それに、あの隕石を落としたのもペルシーさんなんでしょ」
「あんなことできる人はいないだろ。きっと、神様の仕業だよ」
「すくなくとも、エミリー姫とミゲルさんと私はあの殲滅魔法を使ったのがペルシーさんだと信じているわ」
「証拠でもあるのか?」
「いえ、ないけど……」
――見られたかと思った。
「何か言いましたか?」
「……」
ペルシーは〈ペルセウス座流星群〉を放ったところをリディアと彼女の執事のジョルダンに目撃されている。だが、あの二人は誰にも話さないだろう。
ペルシーは再び馬車酔が酷くなり、話は一旦中断した。
その間に、レベッカは面識のないパメラ、エド、レイチェル、エリシア、そしてジーナと、お互いに自己紹介した。
ペルシーとしては意外なことだが、パメラはレベッカを知っているのにレベッカはパメラを知らなかった。パメラが人間形態になった時にはレベッカ達と別れた後だったからだ。
これまた意外なことだが、ジーナは自分が神獣であることをレベッカに言わなかった。おそらく、レベッカはジーナのことをエリシアと同じ獣人だと思っているだろう。実際、ジーナは獣人にしか見えない。
「レイチェルさんはクロノフィールド家には帰らないの?」
「はい、辛い思いでしかないし、私はお兄様の家族でいたいのです」
「そうなの……。あっ、ひょっとしたら皆さんレイチェルさんと同じなのでは?」
全員が肯定の意を表した。
傍目から見ると、ペルシーは仲間というより、大きな家族を作っているように思える。それがレベッカにはどのように映っているのだろうか?
「羨ましい……。でも、私はペルシーさんのライバルでありたい」
「兄貴のライバルか~。俺もそのつもりなんだけどな」
ペルシーが少し復活して、会話に加わった。
「エドは俺の剣技の先生だろ」
「でも、魔法を使われたら勝てないからな」
「そうか、それならライバルということにしておこうか」
「ああ、そうしてくれ」
誰からでもなく、笑いが起こった。
「やっぱり、羨ましいわ」
この先、レベッカがペルシー達にどのように関わっていくのか、現在のところ分からない。しかし、魔法学園のことがあるので、ペルシー達の運命に何かしらの影響を与えることになるだろう。
それが良きにつけ悪しきにつけ――
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