第91話 数奇な再会

 謎の武装集団のリーダーらしき男がペルシーの前に歩み出た。その出で立ちは、兵隊や騎兵のものとは違っている。強いて言えばペルシー自身の服装に似ている。


「あなたはペルセウスさんでしょうか?」

「俺達のことを知っているようだけど、平和的に交渉する態度じゃないよね?」

「無礼は承知の上です。それでも我々はペルセウスさんを出迎える必要がありました」

「それで、あんたは誰?」

「私はロマニア法国特務機関のジェラルド・オランジュと申します」

「特務機関だって? 俺達に何のようだ?」

「ペルセウスさんの実力を確かめる必要があって参上しました。是非私と手合わせをしていただけないでしょうか?」

「もしかしたら討伐ランキングの件で誤解してないか?」

「誤解も何もあなたがダントツでトップなのは紛れもない事実ですが?」

「おそらく討伐ランキングの仕組みに問題があるのだと思う。それについては心当たりがあるよ」


 ペルシーはシーラシアの魔物大戦で誰かが尋常ではない大魔法を放ち、その影響で討伐ランキング・システムに問題が生じたのだと説明した。だが、その説明をオランジュは受け入れなかった。


「討伐ランキング・システムは絶対です。問題があったことは歴史上ありません」

「変だな~。電子機器なら強力な電磁波で誤動作することもあり得るんだけど……。誤動作したことないのか?」

「デンシキキとは何でしょうか? 寡聞にして存じませんが?」

「あっ、ごめんごめん。独り言だから気にしないでくれ」

「はぁ……」


 古代魔法文明の残した討伐ランキング・システムが問題を起こしたことは一度もない。それは紛れもない事実なのだろう。おそらく数え切れないほどの検証が今までに実施されているはずだ。だが、ペルシーはそこに縋るしか現在の状況を回避することはできない。


「俺が討伐ランキングのトップに躍り出た時、俺は絞首刑台で縛られていたし、シーラシア魔物大戦には参加していない。調べてもらえば分かることだ」

「もちろんシーラシア魔物大戦については詳細に調査しました。その上での結論です」


 オランジュは、あの時殲滅された魔物の種類と数を調べ上げ、討伐ポイントを算出したらしい。そして、シーラシア防衛隊が獲得した討伐ポイントを除くすべての討伐ポイントがペルセウスとクリスタの討伐ポイントに加算されていたのを確認したと言う。

 しかし、それは状況証拠であって、目撃証言が無ければ否認できるはずだ。もしここが日本ならば……。


 ペルシーはクリスタとパメラに相談することにした。


『これは参ったな。噂だけで来た輩とは違うみたいだ』

『討伐ランキング・システムに問題があるという説明には無理がありそうね。いっそのこと勝負して、お兄ちゃんが負けちゃえばいいんじゃないの?』

『パメラちゃんの意見に賛成なのでございます』

『でも、クリスタも当事者だからな。ひょっとしたらクリスタも戦うハメになるかもしれないぞ』

『私は負けることに抵抗はありませんから、問題ないのです。ペルシーさんはオランジュさんに負けることができますか?』


 ――クリスタは痛いところを突くな。さすが俺の嫁だ。


『たぶん、大丈夫じゃないかな……』

『お兄ちゃん、怪しい~』

『あのなぁ……』


「オランジュさん、それでは勝負しよう。そのほうが納得してもらえるはずだ」

「それでは公平を喫するために審判を呼ぶことにします。ペルシーさんも納得してくれる人物です」

「はい?」


 オランジュの横に、一人の女性が歩み出た。


「レビィー?」

「ペルシーさん、お久しぶりです。なかなか魔法学園都市に来ないので心配していました」


 大賢者セルダンの子孫にして賢者のレベッカ・セルダンだった。彼女はロマニア法国に所属する賢者である。

 数ヶ月前、レベッカを含む〈はじまりの森〉調査隊が魔物に包囲されている時、通りがかったペルシーが彼女達を助けた。それがペルシーとレベッカとの出会いである。

 彼女はシーラシア魔物大戦に中心人物の一人として参加しているので、討伐ランキングの件でも関わっているのかもしれない。もし、そうだとしたら、討伐ランキング・システムの問題だと主張するのがますます困難になる。何故ならば、あの時の殲滅魔法はペルシーが放ったものだと、彼女は信じているからである。


「それにしても、こんなところで再会するとはまったく想像してなかったよ」

「ごめんなさい。危機的な状況が迫っているの。ペルシーさんを巻き込むしか方法が見つからなくて……」

「積もる話もあると思いますが、ここでは試合ができない。場所を移しましょう」


 意外なことに森の南側には草原が広がっていた。

 オランジュはそれを知っていたからこの場所で待ち伏せしたのだろう。


「お兄ちゃんのことを試すならば殲滅魔法を使わせるはずよね。剣の試合ではその機会がないわ」

「一人を相手に殲滅魔法のような範囲魔法を使うことはない。もしかしたらここにいる全員を相手にしろということか?」


 彼らは全員で五〇人ほどいるので、広範囲魔法を使う理由にはなるが、ペルシーならば別の戦い方もできる。


 先導していたオランジュがこちらに向き直った。


「この試合のルールを決めましょう。と言っても、私は魔法剣しか使えませんが」

「俺も魔法剣しか使えない。ということは、一対一の試合でいいんだよな?」

「魔法剣しか使えない? まあいいでしょう。因みに我々が大勢いるのは、ウエスティアの北で頻発している魔物暴走スタンピードの調査をするためなんです。決してペルシーさんを拿捕だほするためではありませんよ」

「なるほど。俺との対決は調査のついでということか」

「それは違います。決してついでという訳ではありませんよ。ペルセウスさんの実力を調べるのも我々の任務です」


 特務機関に属するのはオランジュだけで、それ以外の騎士は法国の小隊らしい。

 その小隊はペルシーとオランジュから五〇メルほど距離を取った。魔法剣といえども、近くにいては巻き込まれる可能性がある。それに魔導士が五人ほどいるようだし、魔法防御は問題ないだろう。


「それでは始めたいと思いますが、その前に……」


 オランジュはペルシーの方を向いたまま、右手の指を鳴らした。


「なんだ?」


 オランジュの後ろには、二人の騎士に抱えられたエリシアがいた。


「ペルシーさん、ごめんなさい……」


 エリシアが涙目でペルシーを見つめている。

 彼女はペルシーの指示でオランジュ達の後方に隠れていたのだが……。


「いえ、勘違いしないで下さい。危害を加えるつもりはありませんよ。ペルシーさんが本気を出してくれるならね」

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