第86話 大爆発・冒険者引退という選択肢
俺達の作戦は単純だ。
マチルダが殲滅魔法を放ったら、それに合わせて転移するだけ。つまり、俺がマチルダの魔法で消し炭になったように見せかける。
俺達が消滅したことになれば、もう粘着されなくなるはずだ。
そして今、マチルダは俺の周りに火の壁を作ろうとしている……。逃げられないための作戦だ。そんなことしても俺達を閉じ込めることはできないさ。
「ゴールド級までの魔法使いならば、閉じ込められてしまう火力なのです」
「逃げられないようにしてから殲滅魔法か……。結構えげつないよな」
「ペルシー、マチルダのマナが急激に活性化してるよ」
次元障壁で遊ぼうと思ったが、マチルダは殲滅魔法が使いたいらしい。彼女はマナを潤沢に保持している魔法使いではなさそうだから、殲滅魔法を行使するのは一回が限度だろう。
「私達の頭上に火の玉が出現したのです」
「まだ小ぶりだな。ここから大きくなるのかな?」
「だんだん大きくなってくるはずよ。その後、急激に縮んでから爆発する」
「そのタイミングか……。結構難しいな。でも、面白いことを思いついたぞ」
「どうするのペルシー?」
「転移して逃げる前に、この辺り一帯の空気を酸素に換えてしまおう」
「面白いわペルシー。範囲は闘技場の外側まででいい?」
「ああ、それでいい。大爆発が起こるぞ!」
間違いなく闘技場は消滅するだろう。その責任は誰が追うことになるのだろうか? もちろん俺達の責任ではない。
「結構大きくなったな。あれだけでも闘技場を消滅させられそうだけど、彼女は自分の魔法をちゃんと制御できるのかな?」
「ペルシー、マチルダの心配は無用。タイミングを間違えないで」
「分かった。集中しよう」
マチルダが作ったミニ太陽が収縮を始めている。
「パメラ! 用意はいいか?」
「シンクロ率一二〇%、いつでも行ける!」
「
「火の玉が近づいてくるのです!」
直径が一〇メートルほどあったミニ太陽が収縮し、今は一メートルほどになっている。そして俺達の頭上まで来た。
「
ペルシー達が転移した直後、大爆発が起こった――
闘技場は跡形もなく吹き飛ばされ、灼熱の風がその周辺を焼き尽くしていく。爆心からはきのこ雲が登り、土砂を周囲に撒き散らしている。
「おお~、凄い爆発だったな!」
「これほどの爆発を見るのは、生まれてはじめてでございます」
「これと比べることができるのは、火山噴火くらいしかないぜ」
俺達は三キロほど上空で高見の見物をしている。
殲滅魔法を跳ね返すために使おうとしていた次元障壁なんだが、これは空中に留まることができることに気がついた。
つまり、俺達は次元障壁を床代わりにして爆発の見物をしている。
それにしても殲滅魔法+酸素供給の威力は凄いものだった。三キロも離れているにもかかわらず、爆音だけでなく熱波までここに到達した。
「殲滅魔法ってスゲーな、兄貴」
「ちょっとイタズラしたんだけど、やり過ぎたかな?」
「そんなことない。この結果は自業自得というもの。後悔すればいい」
「まあ、彼らが生きていたらの話だけどな」
闘技場に潜伏していたマチルダの一味も爆風で吹き飛ばされただろう。ただですむ筈がない。そしてマチルダ本人が生きていられたら凄いことだ。もし生きていたら、さすがミスリル級と称えてもいいくらいである。
「このままボスコニア山に転移するぞ」
「ラジャー!」
打てば響くようなパメラの返事とともに、俺達はボスコニア山の頂上付近に転移した。
そしてその夜のことである。
俺は異次元屋敷ミルファクで、みんなと楽しく食事をした後、いつものように大浴場でふやけていた――
「ペルシーさん……」
「おっ、いつもながら唐突に現れるね、クリスタは」
彼女の場合、光学迷彩が使えるし、気配を消すのも得意だ。よっぽど集中しないと、存在を確認することすらできない。
「ペルシーさん、今日のことですけど、大丈夫ですか?」
「マチルダ達のことかな?」
「そうなのです。結局のところ討伐ランキングのトップになってしまったのが元凶なのです。それは古代魔法文明の魔法道具によって管理されていますから、削除することはできません」
「仮面を被ってやり過ごそうと思ってたけど。ペルセウスの名前で魔法学園に入学するのは無理がありそうだよな。それはクリスタも同じなんだけど……」
「私達はガンダーラ王国出身ということで、身元は保証されているのです。これも一重にエミリア姫のお陰なのですが」
「そうだよな。名前を変えるのは簡単だけれど、身元が保証されないと魔法学園に入学できないんじゃないかな?」
「ペルシーさん」
「なんですか? クリスタさん」
「魔法学園に入学したいですか? 入学しないという選択肢もあると思うのですが」
「以前はどうでも良かったけれど……」
この世界を動かしているのは魔法だ。その秘密の一端に触れることができたら、どんなに面白いだろう。
俺の使う
「賢者レベッカに対する義理は抜きにして、精霊魔法についてもっと知りたくなった。それには魔法学園に入学するのもいいかなと思う。もっとも、クリスタ以上に精霊魔法のことを知っている教諭がいると思えないけどな」
「それはどうでしょうか? 買い被り過ぎかもしれないのです。私は人よりも長く生きているだけですから」
「でも、頼りにしているよ、クリスタ」
「お任せ下さい。もっと頼ってくれてもいいのにと、いつも思っていうるのです、ペルシーさん」
「ペルシー! 話を戻していいかな?」
パメラのことを忘れていた……。
「ようするに魔法学園に入学する方法を議論してたんだよね? なんで見つめ合ってるの?」
「そ、そうでしたね。横道に逸れそうになったのです」
「名前を変えることができないかな~という話だったと思う」
「私は魔法学園に入学しないという選択肢もあると思ったのです。でも、ペルシーさんの意思が判ったので、その選択肢はなくなりました」
「ということは、名前の変更と身元保証の問題よね?」
「ちょっと待って下さいませ。もしそれが上手くいったとしても、魔物と戦ったら元の木阿弥なのです」
「新しい名前にしても討伐ランキングの問題は解決しないのか……」
「新しい名前では冒険者にならなければいいんじゃないの?」
「あれっ? それなら今の名前でも冒険者を引退すればいいということか」
「冒険者を辞めても何の不都合もなさそうな気がしますね」
冒険者を引退して、冒険者カードを返納すれば、討伐ランキングから名前が削除されるはずだ。うまくいきそうな予感がする。なんで今まで思いつかなかったんだろう?
「冒険者の身分が必要な場合は私やエドさんを頼ってくれたらいいのです、お兄様」
話に夢中になっていたせいか、レイチェルが浴場に入って来たことに気づかなかった。
「そうだな……。大量に魔物を討伐する必要がある場合は俺やクリスタがやって、冒険者レベルの討伐はレイチェルとエドにやってもらえば棲み分けができるな。名案だぞレイチェル」
「お兄様……」
レイチェルが頭を出してきたので、撫で撫でしてやった。こんなことでも嬉しいらしい。レイチェルはいい娘だよな。
「妾は? 妾はどうすればいい?」
「ジーナはどっちでもできるぞ。ただし、人前で神獣になるのは禁止な」
「問題ないのじゃ。この姿でも魔物を倒すことなど造作もない。妾は神に近い存在だからな」
「ジーナ、拝んでもいいか?」
「おお、構わんぞ。ペルシーよ、妾の信者になるか?」
「いや、それは遠慮しとくよ」
ジーナは少しむくれているが、尻尾を振っているところを見ると、本当に怒っているわけではなさそうだ。
それにしても今夜はクリスタとイチャイチャしたかったな……。
【後書き】
『異世界ゲートはキッスでオープン ~女神様のタブレット~』も連載中です。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054883996511
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