第85話 討伐ランキングの罠
俺達は食後のお茶をするために、また例のオープンカフェに来ていた。
「これから出発するのですか? ボスコニア山脈で野営することになりますよ……」
「問題ないよ。まったくね」
「しかし、そこには神獣が……。あっ、ごめんなさい。あなた達は神獣の友達でしたね……」
「そうだよ。でも信じなくてもいい。もう俺達と関わることはないはずだし」
「神獣が絶対に人を襲わないと確信しているのですね」
「もちろん」
「今更なんですが、言い訳させてくれませんか」
「言い訳?」
「あなたのことを頭から疑っていたことの言い訳です。実はあなたの名を
「なるほどね。そういうことだったのか」
「そいつらは詐欺師まがいのことを平然とするのです。ところが、あなたときたら、まったく金銭の要求をしなかった。そのことはアーノルドさんに指摘されて気が付きました。あたり前かもしれませんが、商人のほうが人を見る目があるようですね」
アーノルドというのは商人ギルドのギルド長だ。人を見る目がなければギルド長には成れないだろう。
「私達がペルセウスさんを解放したのは、信用しないからではなくて、信用したからなんです。神獣は人を襲わないと――」
「それは本当じゃ。本人が言うのだから間違いないのじゃ」
「な、何を言っているのですか? このお嬢さんは?」
「ああ~、気にしないでくれないか。彼女は時々妄言を吐くことがあるんだ」
「そうなのですか?」
「ペルシー、失礼なことを言ったな。覚えておるのじゃぞ」
ちょっと、フォローしておくか……。
『ごめん、ジーナちゃん。後で美味しいものを食べような』
『美味しいもの? ふん、舐めさせてくれたら赦してやらんでもないぞ』
俺は両手を揚げて降参の意を表明した。ジーナに舐められると、パメラが真似をするので止めてほしいんだが……。
「それでお願いがあるのです。出発する前に一度だけでいいですから、私と手合わせしていただけませんか?」
「いいよ」
「そ、そうですか。やはり駄目ですよね。私はさんざんあなたのことを罵倒したんだから……。えっ? 本当にいいのですか?」
「だから、いいよって言ってるだろ。それより、俺達が戦える場所なんてあるのか?」
「大丈夫です。もともと闘技場の予約はしてあったから、場所の心配はありません。それにしても何で承諾してくれたのでしょうか?」
「何の条件もないからかな。俺は試されるのは嫌いだしね。マチルダさんは純粋に俺と戦ってみたい……そう思ったんだろう?」
「そのとおりです。討伐ランキングがダントツで一位の冒険者と戦えるなんて、そうあることではありませんから」
「へぇ~、そういうものなの?」
「討伐ランキングが上位のものは、殆どが王族や貴族のお抱えになってしまうのです。対外試合などは絶対にさせてもらえませんし……」
「なるほどね……。ランキング四位のガーゼスという人には気の毒なことをしたな」
「ガーゼスを知っているのですか? 彼は三人しかいないオリハルコン級の一人なのです」
オリハルコン級は冒険者の中では最高位のランクだから、マチルダさんの一つ上のランクということになる。
「いや、知らないけど、討伐ランキングに載ってるからね」
「そうでしたね。うっかりしてました」
◇ ◇ ◇
俺達はマチルダさんと話しながらギルトンの闘技場まで来た。そこは冒険者ギルドからそれほど離れていない場所だった。
その闘技場、かなり立派だと思ったら、天下無双闘技会の会場になるらしい。三か国での持ち回りなので、ここでは三年に一度開催されるわけだ。因みに、今年はロマニア法国の闘技場が会場になる。
「こんなに立派な闘技場が貸しきれるなんて、冒険者ギルドの権力か?」
「まさか。領主様の力添えがあったからですよ」
「なるほどね。早速だけどルールはどうする? 一対一の試合だと、剣士が有利になることが多いと思うけど」
この世界では、強力な魔法ほど詠唱時間が長くなる傾向にある。弱い魔法を連発するという手もあるが、相手のスピードが速い場合、避けられてしまう。もし剣士が魔法使いと戦い慣れていた場合、魔法使いのほうが不利になるのが常識なのだ。
「私の攻撃を受け切ってほしいの。それじゃダメかしら?」
「攻撃力対防御力の戦いか。面白そうだな。勝利の条件は?」
「私のマナが無くなるまでペルセウスさんが耐えたらペルセウスさんの勝利」
「兄貴! ちょっとこっちに来てくれ」
エドが真剣な顔で俺を引っ張って行く。珍しいこともあるものだ。
「マチルダさん、ちょっと待ってて」
「はい、お待ちしてます」
俺達はマチルダさんを残して闘技場の控え室まで来た。
「どうしたんだエド?」
「はじめに言っておく。これは試合ではない」
「たしかにそうだ。公平な試合とはいえないな」
「いや、公平云々の問題じゃないぞ。兄貴は討伐ランキングの本質が分かっていない」
「本質?」
「そうだ。レイチェルと俺は冒険者ギルドで討伐ランキングについて詳しく訊いたんだ」
「そうなのか、レイチェル?」
「はい、お兄様。討伐ランキングには落とし穴があります」
「落とし穴だと?」
「兄貴、討伐ランキングのトップランカーは大抵どこかの金持ちのお抱えになることはマチルダさんから聞いただろ」
「ああ、聞いたばかりだ」
「金だけが目的じゃないんだ」
「う~ん、判らない……」
「討伐ランキングのポイントは奪うことができるんだ」
「どうやって?」
「相手を殺せばいいんだよ」
「まじか……」
「ポイントを持ったやつは魔物と同じだ。そいつを倒せばポイントを奪える」
「そんなルールなら冒険者同士の殺し合いが助長されるだろ。あり得ない」
「冒険者が消えたら、そのポイントがどこへ行ったのか探られる。つまり、殺して奪ったことがバレるんだよ」
「殺された冒険者のポイント分、増えたやつを捜せばいいということか」
「もちろん、すぐに魔物を大量に倒したりすれば、完全に一致しないからバレにくいが、大抵はバレることになる」
「それなら、俺を殺せばすぐにバレるだろう?」
「兄貴はイレギュラーなんだ。あまりにも討伐ポイントが高すぎて、討伐ランキングの障害が作り出した存在しない冒険者だと思われている」
「人目を忍んでいたのが裏目に出たんだな……」
「すぐに話さないですまない」
「いや、構わないさ。それよりも重要な情報を集めてくれてありがとう」
領主代理や商人ギルド長の顔を思い出した。あいつらもグルだったんだな。
「ペルシーさん!」
「どうしたクリスタ?」
「闘技場に武装した集団が潜んでいます」
「ギルド長に持ちかけられた試合の話も、始めっから仕組まれていたということだな。それならさっさとおさらばしよう」
「転移するのですか?」
「ああ、でもその前に遊んでやる」
その後、クリスタとパメラ以外は異次元屋敷ミルファクに退避してもらった。これは魔法対魔法の闘いになるからだ。
「ペルシー、マチルダが言ってたルールの話だけど、彼女の魔法は次元障壁で跳ね返せばいいよ」
「何となくヤバそうな魔法だな」
「ヤバイよ。物理攻撃も、魔法攻撃も、反射率一〇〇%だから」
「次元の壁をエネルギーは超えることができない……ということだな」
闘技場ではマチルダが大人しく待っていた。誰かが接触してきたということもなさそうだ。
「マチルダさん待たせたね。ルールはマチルダさんの提案通りでいいよ。そちらの準備はいいかな?」
「いつでもいいわよ」
「それじゃあ、始めよう」
パメラとクリスタは、光学迷彩で見えていない。俺は故意にマチルダから五十メートルほど距離をとった。その方が強力な魔法を使いやすいだろう。
「顕現せよ! 斬魔刀!」一応剣士っぽく闘う振りをしよう。
俺が刀を構えると、マチルダは多数のアイスニードルを放ってきた。距離が離れているので、避けることは簡単だ。何かの意図がありそうだが……。
次に来るのは何かなっと……。
【後書き】
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「女神様のタブレット ~異世界ゲートはキッスでオープン~」
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