第84話 突然の開放とギルトン名物槍鹿料理

 神獣と友達だと言ってはみたものの、それを真に受ける人がいないのは判っている。できれば、彼らに頭のおかしい人と思われるとありがたいのだが……。しかし、そんなことはこの際どうでもいい。とにかく早くこの場を離れたい。


「あの~、ペルセウス殿。余り出来のいい嘘ではありませんな」


 ブルガーのテンションが下がり気味なのは妄言だと思われたからだろう。


「呆れた……。この人壊れてるよ。おかしな仮面を被っている時点で、気がつくべきだったのよ」

「いや、仮面は関係ないだろう。俺の都合だし」


 おかしな仮面? ただの白い仮面だけどな。まさか……。


「いずれにせよ、考えを改めたらどう? ブルガーさん」

「し、しかし……。そうだな」


 ブルガーはエッケハルト、アーノルド、そしてマチルダに目配せをしている。もちろん、この話はご破算だろう。


 〈疑わしい討伐ランキング〉×〈神獣の友人〉=〈控えめに言って変人〉


 彼らをうまくミスリードできたかもしれない。


『ミスリードできたとしてもかっこ悪いわ、ペルシー』

『まあそうだけど……他に方法があったと思うのか?』

『神獣を倒しちゃえばよかったのに」

『ジーナが可哀想だろう』

『もちろんお芝居よ。お・し・ば・い』

『そんなに念を押さなくてもいいだろう。ところでパメラには後で話があるからな』

『えっ、な、何かな?』

『心当たりがあるんだな。覚悟しとけ』

『ペルシー、怒っちゃやだ……』


 その後彼らは、他の部屋へ行って喧喧囂囂けんけんごうごうと議論しているようだ。俺達は待ってやる義理はないのだが、エドとレイチェルの冒険者カードをまだ受け取っていないので、引き上げるわけにもいかない。


「もう帰りたいな~」

「冒険者カードを早く渡して欲しいです」レイチェルさえも辟易している。

「あっ、議論が終わったようだぜ、兄貴」


 あれだけ大騒ぎをしておきながら、彼らは俺たちをあっさりと解放してくれた。もちろん、気の毒な人を見る目線で見送ってくれたのは言うまでもない。


 ただし、マチルダだけは冷徹な目線を浴びせてきた。

 討伐ランキング一位といわれている狂人の試合相手をさせられそうになったのだ。彼女としても思うところがあるのだろう。

 だからといって、俺は彼女の事情を斟酌しんしゃくしてやるつもりなど毛頭ないのだが。





 俺達は冒険者ギルドのロビーで、エドとレイチェルが冒険者カードを受け取るのを待っていた。

 ここで仮面を外すのはよくないので、俺は自分の仮面を鏡で見ているところだ。


「パメラ、いつのまに俺の仮面に落書きしたんだ」

「ペルシーが受付のお姉さんに見とれている隙きに描いたの」

「ペルシー様、婚約者の前で他の女に見とれているとはいい度胸でございますね」


 婚約してからというもの、クリスタは俺のことを「さん」付けで呼ぶようになったのだが、怒ると「様」付けに変わる。つまり、今は怒っている……。


「クリスタ、それはパメラの嘘だぞ。第一、朝からそんな機会はなかったはずだ」

「それも、そうでございますね。パメラちゃん、どういうこと?」

「イメージを思い浮かべて、それを仮面に転写したの。幻想魔法イメージ・リアライザなら簡単にできるわ」

「あ~なるほどね。面白い使い方をしたな。さすがパメラだ。でも、このデザインはちょっとな……」


 歌舞伎の隈取くまどりっぽいんだよな。でも現代的なアレンジが施してあるし、パメラには芸術的なセンスがあるのかもしれない。


「兄貴! 待たせたな。ようやく冒険者カードを受け取ったぜ」

「お兄様、御覧ください。シルバー級の冒険者カードですよ」


 なるほど、これがシルバー級の冒険者カードか。質感からすると銀で造られているみたいだけど、これは古代魔法文明のアーティファクトが創り出したものだ。実際はどんな材料で造られているのか分からない。その内、解析してみるか。


「なかなか高級感があっていいな。俺の冒険者カードもそれなりに美しいんだけどな」

「兄貴もランクを上げるか?」

「そうしましょうよ、お兄様。私はお兄様よりも上のランクなんていやです」

「レイチェルは優しいな。でも、そんなこと気にしなくていいぞ。ランクを上げるには冒険者としての実績を上げる必要があるし、今は時間がない」


 本当に時間がなくなってきたので、午後にはロマニア法国に転移したほうがよさそうだ。いまボスコニア山脈を超えるとミゲルさん達と鉢合わせしそうだしな。


「それじゃあ、これから昼飯を喰ったあと、一挙にロマニア法国まで行こう!」

「きゃーっ!」

「おう!」


 誰だ!、黄色い歓声を上げている食いしん坊は……。


「ペルセウス殿、ちょっと話がある。少し付き合ってもらえないか?」


 声をかけてきたのは俺をディスっていたマチルダさんだった。


「俺達はこれから食事に行くんだ。悪いけど後にしてくれ」

「お、お前はなんてこと言うんだ! マチルダさんの申し入れを断るのか!」


 マチルダさんの後ろから若い男がしゃしゃり出てきた。おそらくマチルダさんの仲間だろう。そこそこ強そうな感じだ。


「お前は誰だよ? 気安く話しかけないでくれないか。みんな行くぞ!」

「ちょ、ちょっと待ってくれないか。こいつの無礼は謝る。そ、それに先ほどの私の態度も謝りたい」

「謝らなければならないことをしたという自覚があるんだな」

「も、申し訳ない」


 後ろで、先ほどの男が俺を睨んでいるが気にしない。いや、気にならない。ひょっとしたら仮面を被っている副作用か?


「いいだろう。マチルダさん一人となら話をしよう」

「ありがとう。それで構わない」


 マチルダさんの後ろには、魔法使いが二人に、剣士が一人、槍使いが二人の計五人が控えている。マチルダさんは彼らにそこで待つように指示している。


「それじゃあ行くか」


 俺達はみんな腹が減っていたので、軽く食事をすることにした。もちろん、マチルダさんも一緒だが、深い話をするつもりはないので、問題ないだろう。

 大人数になってしまったので、大きめの食堂を選んで入った。この町のほとんどの食堂には個室が用意されているようだ。商人が商談に使うのだと思う。さすが、商業都市だと思う。


 この食堂は槍鹿の料理で有名らしい。そこで俺達はおまかせランチの大盛りを注文した。俺とエドだけがランチの大盛りかと思ったが、他のみんなも大盛りだった。女性といえども魔法使いはお腹が空きやすいのかもしれない。


「これは唐揚げに似ていて美味しい。何の肉なのか聞かないほうがいいか?」

「これはギルトン名物の槍鹿揚げという。他には串焼きが有名だ」

 マチルダさんは結構食通らしい。プラチナ級の冒険者ならば食事会に招かれることも多いのだろう。

「串焼きの方はみんな食べたよ。槍鹿はこの地域に多く生息しているのかな?」

「いや、ギルトン周辺ではなくて、もう少し東にある草原と山岳地帯の周辺に多いようだ」

「角が槍のようになっている獣など、近くに生息していたら危ないよな」

「まったくだ」


 槍鹿は鹿の一種なんだが、魔物に対抗するために角が槍のように変化したらしい。種族間で争うための進化とは違う。


「この濃厚スープもなかなかいける。とろみがあって俺好みだ」


 因みに俺は、仮面の下側を取り外して食事をしている。少々食べ辛いが仕方がない。


「それは岩猪の骨を煮込んだスープをベースに味付けしているらしい。それはギルトンだけでなく、アムール王国では人気のあるスープだ」

「この国には美味しいものがたくさんあっていいね」

「ロマニア法国にも美味しいものはたくさんあるぞ。機会があれば白鹿亭という店に寄ってみるといい」

「これからロマニア法国に出発するつもりなんだ。向こうに着いたら早速行ってみることにするよ」


 ロマニア法国でも食べ歩きをしよう。なんだか楽しくなってきたぞ。でも、その前に魔法学園に入学試験があるし、時間があるか心配だ。



【後書き】

またまた宣伝です。

こちらもよろしくお願いします


「女神様のタブレット ~異世界ゲートはキッスでオープン~」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054883996511

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