第83話 シルバー級と討伐のお願い
きっとアルベルティーは手加減したんだろうけど、随分派手に吹き飛んだな。完璧なカウンターだったし、彼女は大丈夫だろうか?
「ミスティ!」
あっ、マチョマンが行った。俺も行ってみよう。
先に到着したエドとレイチェルがミスティさんの様子を見ているようだけど……。
「エド、彼女は大丈夫か?」
「気絶してるだけだと思う。骨が折れている様子はないし、まあ大丈夫だろう」
「それはよかったな。上位者なんだから奇襲をかける必要はなかったと思うんだが?」
いつものとおり戦えば、怪我をしないで引き分け程度で済んだものを……。おっ、気がついたみたいだ。
「ミスティ、何であんな無茶をしたんだ?」
「ブルガー、ごめんなさい。ちょっと試したかったの……」
試したかった? 何をだろう?
「まあ、それについては後で話し合おう。今は試験中だからな」
マッチョのブルガーさんは他の職員と一緒にミスティさんを医務室へ運ぼうとしている。
「君達、不手際があって悪かったな。会議室で待っていてくれ。すぐに行くから」
「ああ、分かった」
「はい、お待ちしています」
それにしても召喚魔法がうまく行ってよかった。たぶんばれていないと思う。
「アルベルティー、よくやったな。ありがとう」
俺の前にいたのか……。
「どういたしまして、ペルシーちゃん」
「これからは姿を隠してもらうことが多くなると思うけど、いいかな?」
「姿を隠していると、魔力が弱くなっちゃうのよ。それでもいいかしら?」
「もちろんだ。これからもよろしくな!」
「私からもお願いしますね、アルベルティーさん」
精霊アルベルティーがエロかわいい笑顔で消えていく。まったく、憎めない精霊さんだがよな、アルベルティーは……。
「試験はどうだった? レイチェル」
「魔力が抑えられていたので、この試合ではやり易かったです。もう少し試したかったんだけど……」
「今回は仕方ないな。あれは試験官の暴走だから」
いや、暴走ではないか……。何を試そうとしたんだ?
「後遺症がなければいいんですが」
「心配してもしょうがない。ところで、最後の水球弾はアルベルティーが自主的にやったのか?」
「いいえ、私の指示ですよ?」
「あまりにも反応が早かったので、アルベルティーがやったのかと思ったよ。さすがだなレイチェル、見直したぞ」
「へへへ。でも、ギリギリでした」
「魔法の発動が早すぎてばれるということはないよな?」
「この世界の魔法は精霊魔法なので、基本的に詠唱が必要になるのです。ところがですね、無詠唱という技術も存在するのです。無詠唱の利点は、とにかく早く魔法を発動できるところですが、当然欠点があるのです。それは詠唱して魔法を発動したときよりも威力がだいぶ下がってしまうところなのです」
「それならレイチェルが使った〈疑似無詠唱精霊魔法〉は、威力が低いから無詠唱の精霊魔法だと勝手に間違えてくれるかもしれないということか?」
「私はそう思うのです」
「やっぱりクリスタは魔法に詳しいな。お陰で確信が持てたよ。クリスタ、ありがとう」
「どういたしましてでございます」クリスタは貴族のお嬢様のようにスカートを少し持ち上げて腰を落とした。とても様になっていると思う。
それにしても〈疑似無詠唱精霊魔法〉というのは長すぎるから、別に呼称を考えたほうが良さそうだな。
「ペルシー、それなら〈忍者魔法〉がいい」
「忍者魔法?」パメラは何でそんな言葉を知っているんだ?
「もっとカッコイイのは無いか?」
「え~、カッコイイのに、忍者魔法」パメラは不満そうにしている。
「そえじゃあね~、精霊が隠れているから〈精霊ステルス魔法〉はどうかな?」だから、何でそんな言葉を知っているんだ? でも……。
「何だかカッコイイな。それにするか」
この場合、魔法が見えにくいのではなくて精霊が見えないという意味のステルスになるが、意味よりもカッコよさを優先しよう。
「パメラちゃん、ありがとう。ステルスというのは聞いたことのない言葉だけれど、〈精霊ステルス魔法〉は響きがいいわ」レイチェルは気に入ったようだ。
「よし、〈精霊ステルス魔法〉に決定!」
「パチパチパチ――」満場一致で決定した。
マッチョのブルガーさんに言われたとおり会議室で待っていると、割とすぐにブルガーさんはやって来た。ミスティさんは大した怪我はしていないらしい。
「さてと、エドガーとレイチェルはいるな。他の者達は二人の知り合いか?」
「俺はペルセウスと言います。そして、こちらがクリスタ。二人共ブロンズ級の冒険者です。四人とも同じパーティーの仲間なんですが、俺達がいてはだめですか?」
ブルガーさんの目が光った。そして何かを探るように俺とクリスタを交互に見比べた。
「本人の承諾があれば問題ない」
「俺はいいぜ。寧ろいてくれたほうが安心だ」
「私もです。問題ありません」
「そうか、ならばこのまま結果を発表する。まあ、分かっていると思うが、二人共合格だ」
「やったな、エド、レイチェル!」
「ただしだ。条件がある」
無条件で合格ではないということか? いや、合格と言われたしな……。
「二人の能力はここ最近の新米冒険者の中でもずば抜けている。よってだ、ブロンズ級ではなく、シルバー級の冒険者にする」
「いきなりシルバー級とは凄いな。たしか、シルバー級は冒険者ギルドからの強制依頼には応じなくてもいいんですよね?」
「そのとおりだ。公的な義務も発生しない。シルバー級はある意味、冒険者の中では一番気楽で美味しい資格かもしれないな」
「シルバー級に上げることができるということは、ブルガーさんはギルド長ですね」
「君達にはまだ名乗ってなかったな。俺は冒険者ギルド・ギルトン支部のギルド長を務めるブルガーだ。資格はプラチナ級だ」
プラチナ級といえば、シルバー級の二つ上の階級だ。
「ところで、そちらのお嬢様方は?」
パメラ、エリシア、そしてジーナのことを言っているようだ。
「将来の冒険者候補です」
「すぐにでも冒険者になれそうな力を感じる。冗談抜きでだ」
「本当ならばすぐにでも資格を取らせたいんですが、これからロマニア法国方面に出発しなければならないので、時間がありません。残念です」
「そんなに急ぐのか……。それなら今のうちに聞いておこう」
なんでそんなに睨むんだ? マッチョのブルガーさんに睨まれるとマジで怖いな。
「君は本当にペルセウスか? いや、何者なんだ? その怪しい仮面……本当に怪我の跡を隠すためなのか?」
しまった。バレたかも……。
◇ ◇ ◇
「え~と、そういう名前ですが?」
「最近、討伐ランキングで非常識な得点を上げている者がいる。なんと百五十万ポイントに届きそうな高得点だ。もし、その者が魔物の討伐を一切辞めたとしても、すくなくとも三年間はトップに居座り続けるだろう」
魔物を討伐して得られたポイントは、日毎に一定の割合で減算されていく。つまり、継続的に討伐ポイントを取得しなければ、ランキングは下がっていくことになる。ところが、俺が取得した討伐ポイントは非常に高いので、何もしなくても三年間はトップの座から落ちることはない。
「その化物の名前がペルセウスという。そして、ランキング二位がクリスタだ。その二人がここにいるときた。しかも、ブロンズ級だという……。何の冗談だ?」
「人違いですよ。昨日も間違われたし、迷惑しています」
また、ブルガーさんの目が光った。この人、眼力が強いな……。
「運がいいことに、ミスリル級の冒険者がギルトンに滞在している」
「へぇ~、それがどうかしましたか?」
「戦ってみないか? もちろん試合だ」
「やだな~、ブロンズ級とミスリル級が試合をするなんて、冗談は顔だけにして下さい」
「君は何気に酷いことを言うな」
「すいません。ちょっと怖かったので……」
「それに、ブロンズ級というのは冒険者としての資格のことだ。真の強さを表すものではない。そんなこと、君は解っているんだろう?」
「一般的には強さを表すと思っているんですが……。違いますか?」
「いや、強さと資格はそれほど一致せんよ。天下無双武闘会を観戦すれば一目瞭然だ」
二年毎に三ヶ国合同の武闘大会を開くと聞いたことがある。それのことだろう。確か騎士団長のミゲルさんも上位にランキングされていたはずだ。
『ペルシーさん、囲まれています』クリスタの妖精通信だ。
『だいたい三〇人くらいかな?』これはパメラのテレパシー。この二つの通信方式は、原理は違うが相互通信が可能だ。
「ブルガーさん、時間稼ぎはもういいだろう。俺達をどうするつもりだ?」
俺が立ち上がると、みんなも立ち上がる。エドとレイチェルの冒険者カードを受け取って出発しよう。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 時間稼ぎをしてた訳じゃない!」
「俺達は忙しいんだ。早く冒険者カードを発行してくれないか」
「これには訳があってな」
「そりゃ、あるだろうさ。でも、そっちの都合に合わせてやるほど俺達はお人好しではない」
「頼みがあるんだ!!」ブルガーも立ち上がった。
「いや、依頼ではない。お願いなんだ! みんな! 入って来てくれて!」
会議室のドアが開き、三人だけ入って来た」
「紹介しよう。左から、ギルトン伯爵代理のエッケハルト様」
エッケハルトが目線を下げたので、俺も少しだけ頭を下げた。元が日本人なので条件反射的にそうしてしまう自分が悲しい。
「隣が商人ギルドのギルド長アーノルドだ」
アーノルドは商人だけあって丁寧にお辞儀をした。ロマンスグレーのナイスミドルといった印象だ。さすがに俺もちゃんと頭を下げた。
「そして、プラチナ級冒険者のマチルダさんだ」
この人がプラチナ級冒険者か……。
マチルダさんは金髪が美しいお嬢様のような雰囲気をまとった魔法使いだ。彼女は俺を
「ペルシーさん、お願いがあるのです。話だけでも聞いて下さいませんか?」商人のアーノルドさんとは交渉したくないんだけどな。
「ああ、分かったよ。話だけは聞くから、落ち着いてくれ」面倒だがエド達の冒険者カードを受け取るまで我慢しよう。
「ペルシーさん、感謝する」
ブルガーが話してくれたのは、ギルドンの商隊が盗賊達に襲われた事件のことだった。商隊が襲われているときに、神獣フェンリルが現れて、盗賊達を皆殺しにしたそうだ。それはミゲルさんにも聞いた内容と同じだった。
彼らが言うには、その時はたまたま盗賊達がターゲットになったが、いつ自分達が襲われる対象になるか心配だと言うのだ。
神獣は魔物とは格が違う。一流の冒険者が束になってかかっても、簡単に勝てるものではない。心配なのは分からないでもない。だが……。
「その調査をするためにミゲル騎士隊が出動したのではないのか?」
「それはそうですが、神獣がいる事実は変わらない。我々としては討伐して欲しいのです」
俺はジーナを見て、テレパシーを使った。
『気を悪くしないでくれよ』
『ペルシーは勘違いしておるぞ。我はこのようなこと、微塵も気にしていないのじゃ』
『それならよかった』
そこでマチルダが一歩前に出た。
「ブルガーさん、そのような正体の知れない者に、神獣討伐を依頼するのは間違っている。第一、その者は本当に討伐ランキング一位のペルセウスなのか?」
「マチルダ殿。この件は昨晩の話し合いで結論が出ている。今更蒸し返さないで欲しい」
意思統一できていないのか? それなら……。
「ちょっと待ってくれ! 内輪揉めをするならば俺達は退散するぞ」
「今のは聞かなかったことにしてくれ! 君達に神獣討伐して欲しい。これはお願いだ」
「お断りする!」
「何故だ! 報酬ならば通常の倍は用意している」ブルガーはアーノルドとエッケハルトを交互に見た。二人とも頷いている。
「報酬の問題ではないんだ」
「ブルガー殿。だから言っただろう。この者達に神獣は倒せない!」
またマチルダだ。俺達は信用されていないらしい。というよりも俺が信用されていないんだろうな。仮面を被っているし……。いや、それだけじゃないかもな。おそらく彼女は……。
自分で討伐したいんだろう――
「そうだな、条件付きなら頼みを聞いてやってもいいぞ」
「その条件は何でしょうか?」
アーノルドが、目を輝かして訊いてきた。おそらく、条件に応える自信があるのかもしれない。いや、難問に立ち向かうのが楽しいのか? 彼はそのような人間に見える。
「その神獣に罪のない民が一度でも襲われたら、俺はここへ戻って来よう。そして、その時こそ、神獣を倒す」
「嘘を言うな! そのまま逃げるつもりだろう!」マチルダは怒りを抑えきれないようだ。でもな……。
「何で逃げる必要があるんだ?」
「どういう意味だ!」
「神獣フェンリルと俺達は友達だからさ」
あれまっ。みんな黙っちゃったぞ? 刺激が強すぎたかな?
それとは対照的にジーナが
【後書き】
新作を書きました。
この作品は未発表の小説からスピンアウトさせたものなのですが、ラブコメ色が強めになっています。評判が良ければ……、本編を投稿する予定です。いや、投稿します。
「女神様のタブレット ~異世界ゲートはキッスでオープン~」
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