第87話 スリーマンセル

 ここはギルトンの西側にあるボスコニア山の頂上付近だ。

 昨日は嫌な経験をしてしまったので、ギルトンから離れたかったからここまで転移して休むことにした。

 久しぶりに皆と風呂に入ってのんびりできたせいか、今朝はとても気分がいい。


「パメラとジーナ、そろそろ退いてくれないか?」

「ペルシーよ。美少女を二人も侍らせて、何が不服というのじゃ?」

「不服なんじゃないけど重いんだよ」

「そうか、それなら詫びねばならんのう」


 またジーナに舐められた……。


「ペルシー、ジーナにばかり舐めさせている。依怙贔屓はいけない」


 今度はパメラにも舐められた。


「パメラ、ジーナは神獣なんだから真似をしちゃだめだぞ」

「そうじゃぞ、パメラ。妾は神獣だからの。真似をするものではない」

「ジーナさん、自慢することじゃないと思うのだが……」

「ペルシーよ、妾に舐められたからといって照れることはないのじゃ」

「いや、照れてはいないけどな」


 二人と話していると、いつもの様にレイチェルがもぞもぞと動き出した。


「おはようございます、お兄様」

「おはようレイチェル。自分の部屋で寝たほうが休めるんじゃないのか?」

「お兄様と一緒じゃないと、不安になるんです」

「そうか……、それじゃあ仕方ないか」


 ちょっと過保護かもしれないけれど、まあいいだろう。


 それから四人で食堂に行くと、クリスタが食事の容易をしてくれていた。


「おはよう、クリスタ」

「おはようなのです、ペルシーさん」

「ごめんなさい、お姉様。遅くなってしまいました」

「おはよう、レイチェルさん。皆にお茶を出してほしいのです」

「はい、直ぐに」


 いつものように二人はテキパキと働いてくれる。

 パメラとジーナは俺の横でじゃれている。

 こんな穏やかな日常も悪くないな――


「おはよう、兄貴……」

「どうしたんだ、エド。何だかテンションが低いな」

「昨日の戦いを見て、ちょっと悩んでるんだ」


 マチルダとの戦いと言っても、あれは戦いと言えるものではなかった。

 プラチナ級冒険者の彼女が、一方的に魔法を仕掛けて俺がそれを受け切る――

 おそらくマチルダは、俺を抹殺する自身があったのだろう。初めから殲滅魔法を放つ気満々だった。

 そして俺は「火に油を注ぐ」ではないけれど、油の代わりに酸素を注いでやった。その結果として大爆発を起こし、闘技場もろともその周辺は吹き飛んだ。マチルダやその仲間達が生きていたら、奇跡かもしれない。


「あの魔法……、何ていう名前の魔法なんだろうな?」

「魔法のことはクリスタさんに聞いた方がいいと思うぜ」

「そうだな。それで、悩みというのはなんだ?」

「マチルダが使ったような殲滅魔法で攻撃されたら、どうやって対処したらいいか分からないんだ」

「殲滅魔法は詠唱に時間がかかるから、エドの速さなら問題なく回避できる。というか、詠唱させる暇を与えないだろう?」

「もちろん、普通に考えれば問題ない。でも、もしもということがあるだろ」

「それもそうか。一対一で戦うとも限っていないしな」

「そうなんだ。剣士というのは団体戦の時に範囲魔法を放たれると、何もできない。味方を助けることさえも……」


 範囲魔法とは、攻撃範囲が広い魔法のことだ。一箇所に集まった敵を攻撃目標にする時に使う。


「エドには魔法剣を用意したかったんだが、もし強力な剣が入手できたとしても、団体戦だと不利だな」

「兄貴の場合、一人で何でもできるからいいよな。表向きは剣士だけど」

「一人で……か。それなら二人で戦えばいいだろ? 例えばレイチェルと二人ならお互いをカバーできる」

「お兄様、私もそれを考えていました。お兄様とクリスタ姉様が二人で戦っているように、エドさんと私が二人で戦えばいいのです」

「俺もそう思うぞ。エドは何でも一人でやり過ぎるんだ」

「でも、俺はあの時、クリスタ姉さんを……」


 エドはこの山で紅蜘蛛達と戦った時、自分の判断ミスからクリスタを負傷させてしまった。あの状況は仕方がないと思うし、俺自身の判断ミスもあった。


「三人か……。最少人数は三人だな」

「それがいいと思う」

「賛成です、お兄様」


 スリーマンセルというやつだ。俺は戦闘に関しては素人だが、その言葉は知っている。三人一組には理由があるんだ。


「三人一組のことをスリーマンセルというんだ。これからはスリーマンセルで戦おう」

「ジーナ、聞いていたか?」

「もちろんじゃペルシー。妾が加わればいいのじゃな?」

「そうだよジーナ。あの時、ジーナのように気配感知する能力が高くて速く動ける仲間がいたら、クリスタはあのようなことにはならなかった」

「妾はその時のことを知らないが、スリーマンセルとは興味深い。協力させてもらうぞ、エドよ」

「ああ、頼むぜジーナ」

「よろしくお願いします、ジーナさん。私、頑張ります!」

「具体的には、エドが前衛、レイチェルが後衛、ジーナが遊撃。完璧な布陣だろ」

「三人の場合は三角形を作るんだよな。ウエスティアに着いたら練習するぞ」

「はい」「うむ」

「そろそろお喋りは止めて、朝食にするのです」


 朝食の後はロマニア法国のウエスティアまで一挙に転移するぞ。

 エルザとレイランが首を長くして待っているはずだ。


【後書き】


不規則な投稿が続いていますが、これからは月曜日の朝を基本にしようと思います。


それから、次の小説もよろしくお願いします。


○ 連載中

『怪異が棲む学園と銀の首輪』

  https://kakuyomu.jp/works/1177354054884083014

『異世界ゲートはキッスでオープン ~女神様のタブレット~ 』   

  https://kakuyomu.jp/works/1177354054883996511

● 完結済み、削除予定(本編にマージしました)

『異世界ゲートはキッスでオープン2 ~女神様のタブレット~ 』   

  https://kakuyomu.jp/works/1177354054884112579



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