第81話 ピラミッド神殿、そしてソフィアの告白

 ソフィアさんたちの護衛について、ミゲル隊長にダメもとで話してみることにした

 ミゲル隊長は俺からの依頼を聞いて頭を抱えている。

 彼の本分は騎士であり、今までは魔物や敵と戦うことを優先的に訓練してきたはずだ。だから、政治的な問題を扱うことが得意ではないのだろう。


「やはり難しいかな?」

「帝国の姫さまだぞ。完全に国家間の問題だ。少なくとも俺の上司に報告するべき案件だ」


 因みに、騎士団は王国直下に置かなければならないので、騎士団を仕切るのは宰相の役目らしい。現在の宰相はバッハシュタイン伯という人物なのだが、切れ者で有名だそうだ。


「それだと大ごとになるよね」

「ソフィア姫は我が国に拘束されるだろうな」

「討伐ランキングが三位の実力者を拘束するのは難しいだろうな。俺の見積もりだと、大隊規模を全滅させる覚悟が必要になると思う。討伐ランキング一位の俺が言うのだから、信ぴょう性があるでしょ?」

「まあな。因みにだが……、本人に聞くことではないけれど、ペルセウス殿を拘束しようとしたら?」

「できないでしょ。戦いにもならないと思う。もし、戦ったら王国が壊滅するかも」

「それもそうだな。ペルセウス殿に本気で逃げられたら捕捉できないし、あの魔法をビュッセル城に落とされたらと思うとぞっとする」

「分かってもらえてよかった」


 話は決別かな。でも、あと一押ししてみるか……。


「ミゲルさん、剣の調子はどう?」

「おお、そうだった。大切に使っているぞ」


 ミゲル隊長は腰にいていた剣を抜いて俺に手渡した。まるで宝物でも扱うように……。

 ミスリルで作られた剣は、普通は金持ちの貴族くらいしか所有していないということを聞いたことがある。ミゲルさんの剣は俺が刃の部分だけミスリルに付け替えた。それでも、市場価格は相当高価になるだろう。もっとも、ミゲルさんの場合は騎士として剣を大切にしているのだろうと思う。


「ちょっと拝見。う~ん、あまり痛んでないみたいだな」

「固い物を切るときは魔法剣として使っているからな。それでも傷んでしまうので、最近ではあまり使ってない」


 アムール王国にはミスリルの剣をメンテナンスできる鍛冶師がいないらしい。かといって、使わないのは宝の持ち腐れだよな。


「この剣は刃の部分だけがミスリルだから、傷みやすいのはそれが原因かもしれない」

「ドワーフの鍛冶屋がガンダーラ王国にいるらしいのだが、気軽に行ける距離ではないし、困っているのは確かだ。ペルセウス殿……、なんとかならないだろうか?」

「全部ミスリルにしようか?」

「で、できるのか?」

「もちろんできるよ。俺の願いを聞いてくれたらね」

「ソフィア姫のことは無理だぞ……」

「彼女のことは諦めたよ。その代わり、町娘と冒険者の二人を帝国領の近くに送ってもらえないかな?」





    ◇ ◆ ◇





 そのあと、郊外の人目の付かない廃屋を見つけ出し、一晩だけミルファクへの入り口として使わせてもらうことにした。不動産屋と契約すると、身元がばれてしまう可能性があるので直接持ち主と交渉する羽目になったが。


 夕食の時間になって、ようやく俺たちは全員集まった。ここはもちろん、ミルファクのラウンジだ。

 エドとレイチェルは当然ながら筆記試験をパスし、ご機嫌なようすだ。


「レイチェル、よくやったな。筆記試験は初めてか?」

「試験は初めてですが、魔法の勉強は小さいころからしていたので、思ったよりも簡単でした。でも、冒険者の知識は難しかったです」

「冒険者の知識か……。俺もあまり知らないけどな」


 なぜか、全員から笑われた。仕方ないだろ!


「エドはどうだったんだ?」

「自慢じゃないが、全然分からなかった。でも、俺だって頑張ったんだぜ」

「クリスタのお陰だな」

「そりゃあそうだけどよ……。クリスタ姉さん、恩に着るぜ」

「本番はこれからなのです。明日も頑張ってくださいませ」

「おお、明日こそ大丈夫だ!」

「剣技をとったらエドからは何も残らないからな」

「そりゃあ言いすぎだろ、兄貴」


 再び全員が爆笑した。


「ソフィアさんたちの準備は整ったのかな?」

「はい、準備万端です」

「明日からソフィアさんたちには騎士団の護衛が付くことになったよ」

「騎士団? アムール王国のですか?」

「知り合いに騎士隊長がいるんだけど、頼み込んだら快く引き受けてれた」

「私たちの身分を知ってのことですか? もし、知っているのなら何故?」

「知っているような……、知らないような……。まあ、いいじゃないか。彼らが帝国領の近くまで行く名目は白い狼の調査なんだp」

「それは妾のことじゃな」


 ジーナは自慢そうに胸を張っている。自慢することでもない気がするけどな。


「彼らは、ジーナが盗賊を全滅させたので、その調査をしに行くというのが目的なんだよね。そのついでに町娘と冒険者を帝国領まで連れて行ってくれることになったんだ」

「話が見えてきました。私たちが変装すればいいのですね」

「ソフィアさんのばあい、服装はすでに町娘だから、大きな荷物をできるだけ小さくしたほうがいいね。それと、難しいかもしれないけれど、ソフィアさんの高貴な雰囲気は……、隠せないかなぁ」

「化粧で胡麻化せるのでございます」

「そうだね。それじゃあソフィアさんの化粧はクリスタに頼もう」

「クリスタさん、明日はお願いしますね」

「任せてくださいませ」

「ペルセウス殿。わ、私はどうだろうか?」ミリアムさんがおどおどしている。

「ミリアムさんは冒険者がぴったりだから、皮の防具を身に着ければ大丈夫だと思うよ」

「そ、そうですか」しょんぼりして耳が垂れているミリアムさんをかわいく思ってしまうのって、変だろうか?

 でも、ミリアムさんは何を期待していたのだろう? よく分からないなぁ。

その後、俺たちはソフィアさんたちと最後の夕食を済ませて、眠りについた。





「ペルセウス様、起きてください」


 誰だろう? 今は深夜のはずだけど……。


「ソフィアさん?」

「そうです。夜分遅くに申し訳ございません」

「急ぎの用かな?」

「はい、ペルセウス様に話しておいたほうがいい情報があります。ただ、信ぴょう性がないので、話すことに躊躇していました」

「分かった。そこのソファで待ってくれるかな」

「はい、お待ちします」


 俺は上着を羽織り、飲み物をカウンターに行って用意した。これくらいのことなら、クリスタがいなくてもできるのだ。


「お茶でも飲みながら話をしよう」

「ありがとうございます。ペルセウス様」

「それで、その情報とは何だろう?」

「ピラミッド神殿のことです」

「えっ! ピラミッド神殿のことを知っているのか?」


 最近忘れ気味だったので驚いた。ソフィアさんに話したことあったっけ?


「はい、帝国の東に小さな島があります。そこにピラミッド神殿があるという噂を聞いたことがあるのです」

「大陸の東の島ということだよね。そこはガンダーラ王国の東側でもあると思うけど。どちらの領土になるのかな?」

「それが、どちらの領土でもないのです」

「未開の土地ということ?」

「ある意味、そうといえます」


 ソフィアさんにしては歯切れが悪い気がする。言い難いことなのだろうか?


「実は、帝国は何度もその島の制圧を試みましたが、強力な魔物が多くて断念した経緯があるのです」


 強力な魔物か。はじまりの森みたいな場所が他にもあるんだな……。


「何度も試みたということは、何かの資源があるということだよね」

「はい、帝国の調査隊が希少金属の鉱脈を発見しました。その時にピラミッド神殿も見つけたらしいのです」

「それは妙だな。ピラミッド神殿には結界が張られているので、普通は見つけることができないはずだよね」


 エルザでさえ長年探しても所在が明らかにならなかったピラミッド神殿が、人間に見つけられるのだろうか?


「結界については初耳です。それに、その調査隊が怪しいのです。あれだけ強力な魔物がいる地域で、どうやって希少金属の調査ができたのか……。信ぴょう性がないというのはその疑念があるからです」

「でも、ピラミッド神殿の存在は一般には知られていないことだから、ちょっと気になるな」


 言葉がたまたま一致した可能性もある。俺自身が調査しなければならないだろう。


「お話ししておきたい情報というのはこれだけなのですが、お役に立てたでしょうか?」

「ああ、とても貴重な情報だよ。話してくれてありがとう」

「もし、帝国に立ち寄ることがあれば、私が案内いたします」

「そのときはお願いするよ。でも、帝国って簡単には入国できないだろう?」

「おっしゃる通りです。事前に連絡してください。私が責任を持って対処します」

「それは心強いな」

「それからお願いがあるのですが……」

「俺にできるきとなら何でもするよ」


 ソフィアさんが急にモジモジしはじめた。もしかしたら帝国までついて来てくれと言うことかもしれないぞ。それは無理だな。


「私と結婚していただけないでしょうか?」

「えっ! 何だって!?」

「私が生かされているのはペルセウス様のお陰です。それに、一目惚れというか……好きです」

「で、でも、ソフィアさんは帝国の皇女様だし、俺とは身分が違いすぎると思うんだ」

「私がお嫌いでしょうか?」


 女性は何ですぐに話を感情論に持っていくのだろう。


「そんなことないよ。ただ、現実的じゃないと……」

「ペルセウス様の身分が高くなればいいのですね」


 あるいはソフィアさんがすべてを捨てて野に下るか……。彼女にその覚悟があるのか?

 あっ、ソフィアさんの目が輝きだした。何か策でもあるのだろうか?


「それはどうかな? 俺はこんな性格だし、風来坊のほうが性にあってるんだけど」

「まだ、その時が来ていないようですね。私は待つことにします」

「何を言ってるのかよく分からない。待っても無駄だと思うけど」


 ソフィアさんが徐に立ち上がり、俺を抱き締めた。それがごく自然なことのように思えてくるから不思議だ。きっと俺もソフィアさんのことが好きなのだろう。それを否定することができない。


 ――何で今夜は邪魔が入らないんだろう。


 そして俺たちは見つめあい、唇を重ねようとした。


「ペルシー、喉が渇いたの」


 何故か俺のベッドからパメラが起き上がってきた。

 パメラ、ありがとう。またしても情に流されるところだったぞ。


「パメラ、レイチェルのところにいたんじゃないのか?」

「私ならばここにいますよ、お兄様」

「えっ、レイチェル……」

「パメラちゃん、お水を持ってきましたよ」

「ありがと」

「クリスタさん……」

「ペルシーさん、刺激が強かったのです」


 エリシアもいたのかよ。


「ミリアムさん、いるんでしょ」

「も、申し訳ない、ペルシー殿」

「まさかジーナはいないよな」

「ジーナちゃんとエドさんは爆睡しているのです」

「それはよかった」


 これって、どうやって収拾したらいいんだ?


【後書き】

今日は大型書店に行き、ノベルゼロ捜しをやってきました。

ノベルゼロの作品って、結構あるんですね。

「大人が読みたいエンタメ小説」自分もそんな小説を目指しています。

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