第77話 姫騎士(18)フェンリルをテイムした?

 二頭のウォーウルフたちはその場で動く騎士がいなくなると、エドが倒した騎士たちの方向に走り出した。崖の下は死屍累々、まるで地獄絵図である。


「シュタイナーもやられたか……」


 彼だけでなくスティングレイ小隊長も動かなくなっている。


「あっという間でしたね。わたしたちも早く崖を登っていなければ危なかったかもしれないです」

「ソフィアさんは召喚魔法があるから大丈夫だと思うよ。でも、なぜ神獣が現れたんだろう」


 ウォーウルフたちが行った後も、フェンリルは俺の方を見ている。このままでは済まなそうだな……。


「エド、ちょっと神獣と話をしてくる。後のことは頼んだぞ」

「ああ、それはいいが……。もしもの時は加勢するからな」

「その時が来たら頼む」


 だが、神獣とやりあう気はないさ。ひょっとしたら話が通じる相手かもしれないしな。


「パメラ、ちょっと付き合ってくれ」

「了解した」


 ソフィアさんたちの前なので、パメラをヘッドギア形態には戻さなかった。パメラも最近は嫌がるので、人間形態のままで暮らしている。

 仕方がないので、俺はパメラを背負って五階建てのビルの高さから飛び降りた。


 ドスン、という鈍い音がして、岩が少しはじけ飛んだ。

 崖を見上げると、ソフィアさんたちが目を丸くしてこちらを見ている。彼女たちには少し刺激が強かったかな? でも、神獣にたいして牽制になる可能性を考えての行動だ。


 早速、話しかけてみよう。


『パメラ! テレパシーでいけるかな?』

『最初は普通に話しかけたほうがいいと思う』

『了解だ』


「はじめまして、神獣さん。俺の名前はペルセウス。みんなはペルシーと呼んでいる。君の名前は?」

『我の名前はジーナじゃ。やはりお主は人間ではないのだな』


 会話方法はテレパシーだった。やはり言葉が話せるような声帯を持ち合わせていないらしい。


『ああ、俺は龍人だよ。崖の上には二人ばかり人間がいるけどね』

『ペルシー、お主は騎士たちと戦っていたようだな。理由を話す気はあるか?』

『崖の上にいる三人の仲間が罠にはめられてね。簡単に言うと讐戦なんだ』

『そうだったのか……』


 ジーナと名乗ったフェンリルは、再び崖を見上げてからこちらに向き直った。


『先ほどのウォーウルフの夫婦……』

『あのウォーウルフたちは夫婦だったのか』

『こどもたちを、こいつらに殺されてしまっての。我に泣きついてきたのじゃ』

『そちらも復讐だったんだね』

『そうじゃ、ペルシーたちが敵でなくてよかったのじゃ』

『おれたちは争いを好まない。できればこのまま俺たちを無視してくれないか』


 神獣フェンリルの戦闘力がどのくらいか判らないまま戦闘に突入するのは危険だし、そもそも戦う理由がない。

 ジーナの尻尾が緊張しているところが気になるが、このまま行けば何事もなく別れることができそうだ。


『無視するわけにはいかないのじゃ』


 そ、想定外じゃ……、じゃなくて想定外だ。でも、不思議なくらい戦闘になる感じはしないぞ。


『どうして?』

『お主も我と同じ神に近い存在ではないか。親交を深めたいのじゃ』


 神に近い存在? よく考えてみたことはないけれど、そうかもしれないが。でも、親交って、何だよ?


『それは嬉しい提案だけど、先を急がなければならなくてね』

『そうか、それは残念じゃ……』


 ジーナの尻尾が緊張した状態から垂れ下がった。本当にがっかりしたように見えるけど?


『ペルシー、深入りしないほうがいい』

『そうだな』


『それならば、我もお主たちについていくのはどうじゃ? な~に、邪魔にはならんよ』

『いや、これからギルトンの町へ行くんだ。その体ではとても行けない』

『それならば心配はいらない』


 ジーナは空を見上げて唸りはじめている。ひょっとしたら、詠唱しているのか?


 その答えはすぐに分った。

 ジーナが居た場所に、いつの間にか白髪の少女が立っていたからだ。


「ペルシー、これならば大丈夫であろう?」

「人間になれるのか?」

「もちろんだ。神獣だからな。龍神族もそうであろう?」


 龍神族といっても、俺は龍の体を持っていないけどね。それはともかく、獣人ではなくて、完全に人間に化けている。


「まあ、それもそうか」


 俺が崖の上にいるエドに手招きすると、エドは飛び降りてきた。


「どうした、兄貴?」

「エドは驚いていないのか?」

「フェンリルが人間に化けたことか?」

「ああ、そうだ」

「神獣の中には人間に化けることができるものが、稀にいるから不思議ではないぞ」

「そちらも龍人のようだな」

「俺の名前はエドガー。エドと呼んでくれ」

「我のことはジーナと呼ぶのじゃ。これからお主たちに同行することになった。よろしく頼むのじゃ」

「そうなのか? 兄貴?」

「まあ、断る理由はあまりないか……」


 パメラがこちらを睨んでいる。


「ペルシーは優柔不断。頼まれたら断れないタイプ」

「まあ、そう言うなよ。大所帯になってしまったけど、俺にはミルファクがあるから住むところには困らないしな」

「でも、そろそろ食費や衣料費を稼ぐ必要がでてきたから、対策を練らないと」

「そうだな、ははは……」

「ペルシー、懐が寂しいのならば我も働くのじゃ。心配はご無用なのじゃ」

「人間社会で働いたことあるのか?」

「あるわけなかろう!」


 とほほ……。


 その後、ジーナは先行したウォーウルフの夫婦と別れを告げて、本格的に俺たちと合流した。


 こうして、ソフィアさんたちの復讐の初期段階は終了した。その後は帝国内に戻ってからの話だ。つまり、俺たちは彼女たちの幸運を祈るしかないのじゃ。


【後書き】

 お陰様で「幻想の魔法使い 魔法AIパメラドールとシンクロ120%」は30万文字を超えることができました。文庫本で三冊に相当する分量です。

 ここまでお付き合い下さった読者の皆様、ありがとうございます。

 もう少し続けてもいいでしょうか?

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