第76話 姫騎士(17)神獣フェンリルの出現
俺はソフィアさんたちには
ソフィアさんにはショートソード、ミリアムさんには短槍、エリシアちゃんにはレイピアだ。もちろん刃先はミスリス製だ。オリハルコンという選択肢もあったが、そちらは魔法剣を作る時に試してみたい。
「やっと、シュタイナーのおっさんが追いついてきたぞ」
既に剣を抜いている。やる気満々だな。
「あっ、シュタイナーのやつ魔法剣をまだ持っている」
「ペルシー、ソフィアたちの鎧は修理しないと魔法防御の力が発揮できない」
「ちょっとまずいな……」
ところで、あの魔法剣からはどんな仕組みで炎を放出するんだろう? いくら魔法といえども、酸素がなければ炎を維持するどころか、発生扠せられないと思うのだが?
「パメラ、シュタイナーの周囲を窒素で満たしたいんだけど、できるか?」
「元素の操作は幻想魔法の得意分野。もちろんできる」
「面白くなってきたぞ、シュタイナーが魔法剣を使う前に準備しとかなくちゃ」
「ペルシー、シンクロ率は80%。準備はできている」
「了解! クリスタ! 戦闘が始まったら、ソフィアさんたちの後ろに回り込もうとした騎士を狙い撃ちしてくれ」
「はいなのです。久しぶりの射撃なので、わくわくするのでございます」
「そういえば、クリスタは見た目と違って、戦闘好きだったな。今日は存分に打ちまくってくれ」
クリスタは戦闘好きという言葉に不満があったようだが、光ライフルを具現化して、シュタイナーの隊に向けて構えた。
「シュタイナー! 遅いぞ!」
ソフィアさんがシュタイナーを一喝し、剣を構えた。
「素直に逃げればいいものを」
シュタイナーは険しい目で辺りを見渡し、誰かを探しているようだ。
「あいつはエドを探しているようだな」
「エドがいなければ勝てると思っているのかもしれない」
「ひょっとしたら、フェニックスの召喚を見ることができるかもしれないのです」
「フェニックスか、見たいな~」
「是非見たい」
シュタイナーはエドがいないことに安心したようだ。どんだけエドが怖いんだよ。
「エドガーはいないようだな。やつがいれば勝機があったかもしれないのに、本当に運のない姫様だな」
「わたしはな、自分の運の強さを本当に驚いているのだ。私の運が並だったならば、とっくに死んでいただろう。しかし、わたしはあの方にお会い出来た……」
「あの方? それはエドガーのことか?」
「それを貴公に教える筋合いはない。それよりも、わたしたちを見縊るなよ」
シュタイナーは魔法剣を上段に構え、火焔魔法を放とうとしている。
「今だ!
次の瞬間、シュタイナーは剣を振り下ろした。
「んっ?」
シュタイナーの剣から、不完全燃焼の黒い煙が……。
「ぐぅわっはっはっはっ! 不完全燃焼!」
「シュタイナー、かっこ悪い!」
「燃料切れみたいなのです」
だめだ、笑い……が止まらない……。パメラもクリスタも声を上げて笑っている。
「あっ、ソフィアさんとシュタイナーが剣戟をはじめたぞ」
二人の実力は人間としてはかなりのものだった。だだし、シュタイナーは右腕がないぶん、劣勢に回っている。
それでも仲間の騎士は助けに行けない。ミリアムさんとエリシアちゃんがブロックしているからだ。
「あっ、ソフィアさんの後ろに回り込もうとしている騎士がいるのです」
クリスタがいち早く笑いから復帰し、光ライフルを連射した。弾丸は四人の騎士の両肩を貫いた。あれでは剣を持つことはできないだろう。
「クリスタ、今度は片足も撃ち抜いてくれ」
「了解したのです」
剣戟は続いているが騎士たちは一斉に攻めることができない。
それは、広場とはいえ山の中なので、両側に開くことができないからだ。
「おっ、ついにシュタイナーのやつが後退したぞ。後ろから魔法剣を使うかもしれないな」
「味方が前にいても使うの?」
「使うかもしれない。なので、左肩をアイスニードルで撃ち抜いておくか」
「ペルシーは全然練習してないから、当たらない方にモフを一つ賭ける」
「なんだ? モフって?」
「エリシアの尻尾にモフること」
「その賭け、受けようじゃないか」
俺はいつになく真剣に、アイスニードルのターゲットを凝視した。この距離ならば外さない自信はある。
「パメラ、魔法の準備」
「問題ない。いつでもいける」
「
アイスニードルが領域圧縮された空気に押し出されて、シュタイナーの肩を目掛けて飛んでいった。
そして、シュタイナーの左肩に命中した。
「よっしゃ~!!!」
「変な喜び方なのです、ペルシー様」
久しぶりに、幸福な気分になれた。待っていてくれ、エリシアちゃんの尻尾よ。
「ペルシーはついに変態になった」
「何を言っているんだ。散々モフモフしておいて」
「わたしは小さな女の子だから問題ない。ペルシーは精神年齢がおっさんだからキモい」
「あっ、パメラ! 言っちゃいけないことを言ったな」
「ごめんなさい、ペルシー。本当のことを言ってはいけないときもある。人間に合わせるのは難しい」
ぐぬぬぬぬ……、パメラのやつ……。おっさんだって、モフりたいんだよ!
「ペルシー様、パメラちゃん、戦闘は続いているのです。集中してくださいませ!」
「「ごめんなさい」」
くだらない話をしている間に、ソフィアさんたちは二十人ほど無力化していた。さすがに、首を刎ねたりはしていないようだが、手や足がいくつも地面に転がっている。
「さすがに、人間相手じゃフェニックスを召喚したりしないか。残念だな……」
ソフィアさんたちは、剣技でも帝国騎士たちの実力を遥かに上回っている。召喚魔法を使う必要はない。
「それならば、一緒に旅をすれば、見る機会があるかもしれないのです」
「無理言うなよ、クリスタ。魔法学園に行かなければならないのに」
「それもそうでございますね」
そこへエドが帰ってきた。待ち伏せしていた十人の騎士を片付けてきたらしい。
「兄貴、こんなところで高みの見物か?」
「そうだよ。ソフィアさんたちだけでシュタイナーを倒したいって」
「まあ、そうだろうな。俺も見物しよう」
その時である。騎士たちの後方から悲鳴が聞こえてきた。
「んっ? なんだろう?」
「ペルシー様、大型の魔物が集団で来たのです」
「大きいな狼だな……。あれって、ウォーウルフか?」
狼を大型化したような魔物が三頭、騎士たちの後ろに出現した。先頭のウォーウルフは一際大きい。オーガよりも一回り大きそうだ。
帝国騎士たちが三人ほど餌食になったようだが、彼らを食い散らかしているのは後ろの小さいウォーウルフだ。
「ソフィアさん! こっちに上がってきてくれ!」
三人は急いで俺たちのところまで崖を登ってきた。この崖の上ならば、身を隠すことができる。
帝国騎士たちは挙って逃げはじめた。しかし、それがウォーウルフたちを刺激してしまった。小型の二頭が残りの騎士たちを追いかけ回している。
「ペルシー様、あの白くて大きいやつですが……。あれは、ウォーウルフではありません」
ソフィアさんが変なことをいい出した。といっても俺の知識では変だという事しか分からない。
「群れをなすのは同じ種族同士だろう。先日、それを覆すような魔物大戦があったけど……」
「あれがフェンリルだとしてもですか?」
「フェンリルは魔物ではなくて神獣なのでございます、ペルシー様」
「えっ、そうなの?」
フェンリルらしき神獣は、先ほどから帝国騎士には見向きもせず、俺たちの方を見ている。おろらく、匂いで判るのだろう。
「ど、どうしようか……、フェンリルのやつこっちを見てるぞ。それで、神獣とはどうやって接したらいいんだ?」
「時と場合によります」
「もっと、詳しく教えて」
「神獣は気まぐれなので、人を殺すことも、助けることもあるのです。ペルシー様」
と、ソフィアさんは言っている。今回はどっちなんだろう?
「ひょっとして、逃げたほうがいいのか?」
俺たち、結構ピンチかもしれない。
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