第75話 姫騎士(16)敵か味方か?
ソフィアさんたちは討伐ランキング3位という強力なネームバリューを最大限に利用して、帝国での地位を確立するつもりのようだ。彼女の実力が急に上がったはずもないのだが、今まで過小評価されていたのだろう。
しかし、その目論見は本当にうまくいくのだろうか? 希望的な観測のような気もするのだが……。
俺たちはというと……、とりあえず出発だ!
くよくよ考えていても仕方がない。俺の顔を知っているやつなんて少ないのだから、黙っていれば誰も気が付かないだろう。
「みんな、出発だ! とりあえず、洞窟の前にいる騎士たちを蹴散らすぞ!」
「おう!」
エドだけが返事してくれた。俺が破れかぶれになっていることを気にしているのかもしれない。
「ペルシー様、その前にはっきりさせたいことがあります」
「えっ、なに?」
「エリシアのことです。約束通り貰い受けていただけますでしょうか?」
「もちろん、俺たちの仲間になってもらうよ。それでいいよね、エリシアさん」
「はい! お願いするのです!」
エリシアさんは顔を赤くしながら俺の方を見つめている。きっと、仲間になったかことが余程嬉しいのだろう。俺も嬉しいよ。
それにエリシアさんは斥候ができるし、身軽で素早いし、なにより獣人だから人間を超越した感覚を持っているはずだ。俺たちの即戦力になってくれそうだ。期待しているよ。
話がまとまったところでミリアムさんが俺のところに来た。結婚式の時は呼んでくださいと悪いと、笑顔で囁いた。
ミリアムさん、まだそれを言うか……。
「パメラ! 魔法を使うよ!」
「シンクロ率75%!」
「
洞窟の中は暗いので、壁面を発光させた。
「全員突撃!」
「ペルシー、ちょっと待って!」
「なんだよ、パメラ?」
「面倒くさいから、あいつらを無視してギルトンヘ行きたい」
「それもそうだけど……。ソフィアさん、あいつらに話はあるかな?」
「あいつらに会ったら叩き切ってしまいそうですが、決着はつけなければならない……。ペルシー様、わたしが暴走しないように抑えてくれませんか?」
「いいよ、もちろん」
手足が元どおりになったといはいえ、ソフィアさんはしばらくリハビリをする必要があるだろう。いきなり戦闘をさせる訳にはいかない。
「それではソフィアさんたちから洞窟を抜けて下さい」
「それでは失礼して。ミリアム、エリシア、ついて来なさい」
「「はい」」
エリシアさんは既に俺たちの仲間だけど、今は貸してやることにしよう。ソフィアさんの立場もあるしな。
「ほう、シュタイナー隊長がこのようなところに居るとはな。このような山の中に何用だ?」
「ソフィア様、お待ちしておりました……。そ、その体は!」
シュタイナーをはじめ、騎士隊の連中がざわめき出した。ソフィアさんたちの惨状は、すでに知っているようだな。
「シュタイナー大隊長、私たちもいますよ」
「ミリアムとエリシアまで……、お前たち死んだのではなかったのか?」
ソフィアさんがもう一歩前に出た。
「今ここで裏切り者の処罰をしたいところだが、我々は先を急ぐので失礼するぞ」
「お、お待ち下さい! ソフィア様! 何か誤解があるようだ」
「シュタイナー、しばらく会わないうちに冗談を言うようになったのか?」
「お、お戯れを……。我々が討伐に間に合わなかったのは邪魔が入ったからなのです。決して、意図的に遅れたわけではございません」
なるほど、シュタイナーは言い訳まで用意していたのか。ソフィアさんたちには証拠があるのだろうか?
「もう一人、ここにいるべき人物がいないな」
「それはベッカー隊長のことでしょうか?」
「そうだ、なぜあいつがここにいない?」
「それは、我々を邪魔した張本人だからです」
「なんだと! 今回の件はベッカー隊長が仕組んだことだと言いたいのか!?」
「そうでございます。我々は現場に向かう途中にベッカー隊と交戦状態になり、半日ほど遅れてしまったのです」
「それで、ベッカーはどうしている」
「スティングレイ、ここにお持ちしろ」
スティングレイというのは、たしか第八小隊の隊長だったな。エリシアさんが言っていた。おっ、もう来たか……。
「これを御覧ください」
「こ、これはベッカーじゃないか!」
「ご納得いただけたでしょうか?」
「納得できるわけがないだろう! 我々はあの時全滅した。我々が生き残れたのは神のご加護があればこそだ! それがお前に判るのか!」
「それは……」
騎士の数は三十名ほどいるようだ。昨日探知した数と一致している。新たに合流した気配はない。
それに……。彼らに殺気はないように思える。ここは戦闘のプロに訊いてみたほうがいいかもしれない。俺は小声でエリシアさんに話しかけた。
「エリシアさん、殺気がないようだけど? 彼らは本当に敵なのか?」
「たしかに殺気は消されていますが、状況的には完全に敵ですし、まだ判断できないのです」
なるほど、ベッカーという騎士の、おそらく隊長格だろう、頭部を持ってきたのをどう見るかだな。俺はシュタイナーたちが敵対してくると考えていたのだが……。どうしてこうなった?
彼らはソフィアさんたちが重症を負っていたということは知っていた――それはギルティックと取引する時に聞いたのだろう。
ベッカー隊と交戦状態になったのは間違いないと思う。応援の騎士の数は二小隊合わせて四十人だったはず。現在三十人なのは、ベッカー隊の生き残りが入っているからだ。
いずれにせよ、彼らの目的はソフィアさんたちの抹殺、あるいは保護……。
「シュタイナー、お前は我々を迎えに来てくれたのだろう?」
「もちろんでございます。大怪我をしているとギルティックに聞いたので、帝国に帰投する前に、ここに参りました」
「それが本当ならばありがたいが、まだお前たちを信用することができない。悪いが、別々に帝国に帰還する」
「そ、そうですか。信用していただけないのは残念ですが、帝国に帰還した後、釈明する機会をお与え下さい」
「いいだろう。それではさらばだ」
帝国の騎士たちは洞窟の入り口から一斉に身を引いた。俺たちは開けられた道をゆっくりと進む。帝国の騎士たちは黙って俺たちを見送った。
「レイチェル、ギルトンまで歩くとどのくらいかかるかな?」
「歩きだと町の入り口まで三時間位で着きます」
結構掛かるな……。どこかで転移したいけど、ソフィアさんとミリアムさんに、転移魔法がバレてしまうな……。
しばらく黙っていたソフィアさんが口を開いた。
「ベッカーは……、わたしの腹心だった……」
「えっ、なんだって!」
「彼はわたしの密偵をしてくれていたのです」
「それでは……」
「ペルシー様、三キロほど先に人の気配がするのです」
「何人くらいいそう?」
「おそらく、十人ほどなのです」
なんということか。シュタイナー隊とベッカー隊は交戦していなかった。
「俺はバカだな……」
「ペルシーはバカなんじゃない。人が良すぎるだけ。疑うことも覚えなければ」
「ペルシー様、おそらく前方の彼らは足止めをするだけでしょう。その隙きにシュタイナーの隊が襲ってきます」
「クリスタ、シュタイナー隊の動きは?」
「はい、こちらを追跡しているのです」
敵認定しよう。さて、どうするか……。
「なんですぐに襲ってこなかったんだろう?」
「兄貴、それはひょっとしたら俺のせいじゃないか?」
「そうだな、お前のせいだぞ、エド!」
「やっぱりそうなのか?」
「いや、エドのせいだけじゃない。おそらくこちらの戦力を計れなかったからだろう。ソフィアさん、召喚魔法のことはどのくらい知られていることなんだ?」
「実際に召喚魔法を見たものはほとんどいません。噂程度しか知らないでしょう」
「ということは、やはり襲ってくるな。戦闘を避ける方法もあるけど、ソフィアさんはどうしたい?」
「ベッカーの仇を討たせて下さい」
反対はできないな……。クリスタとエドがこちらを睨んでいるし……、俺たちにも参戦させろといいたいのか?
「はいはい、判りましたよ」
「さすがペルシー様なのです」
「兄貴、恩に着るぜ!」
「煽てても何も出ないぞ。それでは前方の十人をエドに任せる」
「了解! 任せてくれ!」
は、速い。その速さは人間じゃないことがバレるレベルだぞ!
「エドガー殿は強化魔法が使えるのだな。素晴らしいぞ」
ミリアムさん、エドは龍人だから、俺もだけど……、いずれにせよ誤解してくれてよかった。
「それではソフィアさんたちにシュタイナーを任せます」
「はい、感謝します」
「エリシアも参加するか?」
「はいなのです。最後のご奉公をさせていただくのです」
エリシアは尻尾を振りながら喜びを露わにした。いつの間にかパメラが尻尾に顔を打たれて喜んでいる。羨ましい……。
「え~と、このままだと三人対三十人か……。俺たちも参加したほうがいいかな?」
「手助け無用です。見学して下さい」
「分かったよ」
ソフィアたちは後方の広場でシュタイナーたちに奇襲を掛けることにしたようだ。俺たちは崖を少し登ったところで見学することにした。といっても、クリスタが狙撃する気満々だけどね。
「ペルシー、パメラも何かしたい」
「俺たちが何かしたら一瞬で終わってしまうぞ」
「それなら、クリスタみたいに狙撃しよう」
「狙撃か……。アイスニードルで一人ずつ倒すか?」
「うん、それでいい」
人間相手というのは嫌だけれど、この世界では避けて通れない道なんだよな。
さて、もうすぐ戦闘開始だ!
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