第67話 姫騎士(8)赤竜討伐の真相

 彼女たちの話は少し込み入っていたが、端的に言うと政争に巻き込まれたらしいことが分った。

 実際、一週間ほど前に第二皇女は毒殺されたそうだ。

 その事件は毒殺であるということ以外、証拠らしい証拠はまったくないらしい。しかし、第一皇子と第一皇女が手を組んで実行したことに間違いないとミリアムは言っている。


 そして今回の赤竜討伐事件だ――


 ミリアムは頭部の耳を一瞬だけ後ろに向けてから、俺のほうに耳を向けた。

 おそらく、ベッドで寝ているソフィアを気にしたのだろう。

 それにしても、獣人の耳は面白い。


「その日、我々の小隊は農村を襲った赤竜の討伐に向っていた」

「カーデシア族か?」

「そうだ。カーデシア山脈に棲む赤竜だ」

「小隊を出すというからには、討伐する赤竜は一頭なんだろ? 人数が足りない気がするぞ。よほどの防御力とか攻撃力を持っているということか?」

「我々の小隊は二十人だ。それでも帝国では最強の小隊だといわれている」

「二十人……」

「エド、どう思う? 赤竜一頭を二十人の騎士隊が倒せるものなのか?」

「無理じゃねぇかな。兄貴の言ったとおり、攻防力が極端に強くない限り不可能だろう」

「ということだが、ミリアムさん」

「我々の小隊に、あと2つの小隊が合流することになっていた。だが、来なかった」

「残りの小隊が合流するまで待つか、出直すべきだったな」

「そうしたいところだったのだが、赤竜たちに見つかってしまったのだ」

「いま、赤竜たちといったか?」

「そうだ。四頭の赤竜と一頭の黄金竜だった」

「うそだろ……。それじゃあ全滅は必至だな」

「それでも我々の小隊は四頭の赤竜を倒した」

「ちょっと待って。どうやって四頭の赤竜を倒したんだ? 俺の知っている騎士とか冒険者の実力だと、二十人がかりでも赤竜を一頭倒すことは絶対にできないと断言できる。おそらくオーガの一、二頭が精一杯だろう」

「我々の小隊は帝国最強であると言ったではないか。それにソフィア様の召喚魔法で四頭まで倒せた……。あの黄金竜さえいなければ、全員助かったのに。悔しい……」


 ミリアムは残った右手の拳を握って震わせている。

 俺には彼女たちの無念さを本当の意味で理解することはできない。ただただ同情することだけしかできない。


「兄貴、その黄金竜はカーデシア族の王族だと思うぜ。なぜか知らないけど、黄金色の竜はとびきり強いブレスを吐くんだ」

「エドガー殿はカーデシア族に詳しいのだな。実際、あの炎のブレスは強力だった」

「赤竜とはちょっとだけ関わりがあっただけだ。詳しいわけじゃないよ」


 エドのやつ、カーデシア族と戦ったことがありそうだな。

 後で詳しく聞いてみよう。


「それで、その黄金竜はどうしたんだ?」

「ああ、話を戻そう。ソフィア様はその黄金竜と対決をされたのだ」

「そこでまた召喚魔法が出てくるわけだな」

「フェニックスだ」

「フェニックス?」


 不死鳥とも火の鳥ともいわれている神話の世界に登場する鳥。

 この世界でも存在するのか――


「しかし、フェニックスを召喚するには大量にマナを消費するのだ。その時点で、ソフィア様のマナは既に底を突いていた……」

「やるだけやってみたが、結果は……、ということか」

「そのとおりだ。三人が生き残れたのは魔道具のお陰だと思う」

「鎧の魔道具か……」


 魔道具というものはこの世界には大量にあるのだろうか?

 魔法文明でなければ生産ないと思っていたのだけれど……。


「召喚したフェニックスがマナ不足で黄金竜に負けてしまった。その反動のせいでまだソフィアさんは目覚めないということなんだね?」

「確証はないが、そうだと思う。それしか考えられない」

「火傷は治っているし、体力もかなり回復しているはずだ。まあ、手足はなくなったままだけどね」


 目を覚まさないのは精神的な問題かもしれないな。だとしたらやりようがあるか。


「パメラ、エリシアさんの尻尾にまとわりつくのはもう止めなさい」

「は~い、お兄ちゃん……」


 何故かエリシアさんがホッとした表情をした。ひょっとしたら、尻尾を触られるのは嫌なのかもしれない。


「今日は素直だな。こっちに来なさい」


 パメラはいつものように俺の膝の上に当然であるかのように座った。

 気のせいだろうか? 彼女は以前よりも感情が豊かになってきたように思う。

 おそらく、自分の体を手に入れたことが精神的に影響しているのではないだろうか?


「それで……、君たちはこれからどうしたい?」

「どうするも何も……、できればソフィア様の目が覚めるまで、ここに置いてもらえないだろうか? 命を救っていただいた上に図々しい願いだと分かっているが……」


 ミリアムとエリシアは深々と頭を下げた。

 俺としてははじめからそのつもりだが、こちらの秘密が知られてしまうことが問題かもしれない。


「それは構わないよ。ただし、この屋敷のことは口外しないでほしい」

「ペルセウス殿の秘密を他人に話すことは絶対しない。もちろん、この屋敷がアジュール山にあることもだ。約束する」


 あっ、勘違いしている。

 まあ、あとで知ることになるから今は説明しなくてもいいか。


「それにしても……、ペルセウス殿の治療魔法は我々が経験した中でも最高峰ではないかと思う。それなのにお名前を耳にしたことがないのだが」

「ん? それは不思議なことなのかな?」

「治療魔法師は知名度が大切と聞く。その知名度によって治療費を高額にできるからだ。あっ、失礼した。ペルセウス殿を卑下している訳ではないのだが」

「ふ~ん、治療魔法師ね~。なるほど……」

「お気を悪くしないで欲しい」

「いや、全然大丈夫。俺は治療魔法で人から金を巻き上げたことなんてないしね」

「そ、それは本当なのか……」

「エリシア様、本当でございます。ペルシー様はそのような金儲けなどしたことはございません」

「金儲けといえば……よく考えてみると魔物の討伐でちょっと貰ったくらいかな?」

「魔物の討伐までされるのか。多彩な御仁だな、ペルセウス殿は……」

「いや、俺はエドガーとクリスタの後ろで、縮こまっているだけだよ。治療魔法師だからね」

「ペルセウス様?」

「兄貴?」

「エドガー殿が強いのは判るが、クリスタさんも強いのか」

「こう見えてもクリスタは冒険者だよ。エドガーはまだフリーの剣士だけどね」

「それはいいことを聞いた。エドガー殿とは機会があればお手合わせを願いたいものだが……」


 それはできない話なのだ。エリシアの左腕と左足はないのだから……。


「ミリアムさん、エリシアさん、夕食の時間が来たら呼びに来るよ。しばらく待っていてくれないか。それから、ソフィアさんが目を覚ましたら報せてほしい。俺たちはラウンジにいる」


 二人にラウンジまでの行き方を教えてから、俺たちはラウンジに向った。

 みんなと話しておきたいことがるからだ。


【後書き】

 治療魔法師として異世界を旅するというのも面白いかもしれませんね。

 もちろん、戦う時はエドガーを全面に出します……、人前ではね。

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