第57話 魔法学園の入学試験に間に合わない?
現在俺達がいるのはルーシーズ大陸の西側にある龍神山脈の龍王城だ。
龍王城の周囲には城下町があり、一大都市を形成している。
俺たちは龍王上から二つのグループに分かれて魔法学園があるロマニア法国に向かうことになった。
エルザとレイランの二人は空路――ようするに飛んでいく――で直接ロマニア法国に向かう。彼女達は先に乗り込んで、俺たちの受け入れ準備をしてくれるらしい。
でも、俺たちには異次元屋敷ミルファクあるので住む場所の心配はいらないし、それ以外に受け入れ準備って何だろう? 彼女達が何か企んでいるのは間違いない。それが何なのか、今から楽しみだ。
そして残りのパメラ、クリスタ、エドガー、レイチェル、そして俺の五人は大所帯ながら三週間かけて陸路を行く。
何故俺を含む五人が陸路を行くかというと、ただ単位冒険したいからに過ぎない。
俺はまだシーラシアの町しか見てないんだ。異世界を観光気分で味わってみたって、バチは当たらないだろう。
そこで俺は全員がルーシーズ大陸の最北端にあるシーラシアの町に転移することを提案した。
「ペルシー様、それは素人考えですわよ」
珍しくエルザが得意そうに反論してきた。
「龍神山脈から上昇気流に乗って、できるだけ高度を稼ぎ、そこから北北東を目指したほうが楽なのですわよ」
「なるほどね。龍神山脈から高度をとった方が体力的に楽なのか。シーラシアの方が距離的には近いけど、海抜がゼロに近いからな」
「ペルシー様も龍神族なのですから、空のことも詳しくならないといけませんわ」
「それは同意するけど、俺は龍になれないからな」
俺は龍神族の端くれだが、龍形態に切り替われない半端者……。
つまり、飛ばねぇ龍人はただの龍人だ――
「そこは俺がサポートするぜ、兄貴。心配するなって」
「それは有り難いが、心配になってきた」
「信用してくれよな!」
「冗談だよエドガー。頼りにしてるぞ」
「エドガー、分かっているだろうな!」
「姉ちゃん、少しは弟のことを信頼しろよ……」
エドガーは姉貴であるレイランには弱いが、実はしっかりものだし剣の達人だ。頼りにしないほうが可怪しい。
「レイランは心配症だな」
「そんなことないのです。ペルシー様はレイラン様に大事にされているのでございます」
「そうなのか……」
「エルザ様、レイラン様、パメラちゃんと私がペルシー様をお守りしますので、ご安心下さいませ」
「クリスタさん、ペルシー様を任せましたよ」
「はいなのです」
「大丈夫、パメラも頑張るの」
「エルザ様、レイラン様、私がお兄様をお守りします」
元社畜の俺は、心配されることに慣れてないので、素直になれないが……。でも、みんなが俺を大事に思ってくれていることは心に響いた。
「みんな! ありがとう!」
その後、エルザとレイランは龍王城から空高く飛び立っていった。
彼女達を見送り、俺たちはシーラシアの町に転移した。
◇ ◆ ◇
「兄貴! 転移って便利だな。時間と距離の概念が崩壊しそうだ」
「たしかにな。正しく認識してメリットを活かさないとな」
日本に居た時、これが使えたら通勤が楽だったのに……。あっ、いかんいかん、また社畜根性が出てしまった――。
それにしてのシーラシアには長いこと来ていなかった気がする。実際は十日ぶりくらいなのに。
「よかった、南門はすっかり修復されているのです」
「でも、門外の地形はかなり荒れているな」
「それは誰かが《ペルセウス座流星群》とかいう大魔法で大地を抉ったせいなの」
「悪いやつがいるのですね、お兄様」
「まったくだ。酷いことをするな……」
南門の門番をしていたのは、ミゲル騎士隊の一員だった。
彼は俺のことを覚えていたらしく、全員難なく町に入ることができた。顔パスというやつだ。俺も有名人になったものだ。
彼等は本来ならアムール王国に帰還しているはずだが、人手不足なのだろう。
「ペルシー様は危うく絞首刑にされそうになったので、有名人なのではありませんか?」
「そ、そうかもしれないな。俺が魔物軍団を全滅させたことを知っている者は少ないはずだ……」
「それどころか、魔物大戦に参加してないことになってるのです」
「あっ、そうだった……」
なんか急に恥ずかしくなってきたぞ。
あの時は恥はかき捨てとばかりに、魔物大戦に乗じて逃げ出そうとしてたしな……。
「とりあえず、冒険者ギルドに顔を出してこよう。何か新しい情報があるかもしれない」
「賛成なのでございます」
冒険者ギルドはこの街の中央付近にある。
町が復興中のためか、人の往来が激しいので歩きにくい。
「あの~、ペルシー様」
「どうしたクリスタ?」
「ペルシー様、人通りが激しいので手を繋いでもよろしいでしょうか?」
既に左手にはレイチェル、背中はパメラで専有されている。
俺は右手をクリスタに差し出す。
「もちろんだ」
彼女は満面の笑みを湛えて手を繋いだ。
俺と手を繋ぐことがそんなに嬉しいのか……クリスタ。
そんなにいい男じゃないのにな。
「クリスタは俺の婚約者だ。もう手の繋ぐのに俺の許可を取る必要ないぞ」
「はい! ペルシー様!」
「お兄ちゃんは女ったらしなの……むにゃむにゃ……」
パメラはヘッドギア形態の時は寝ることがなかったのに、人間形態の時は眠たくなるようだ。やはりパメラには謎が多いと、改めて思う。
シーラシアは小さな町だ。南門から二十分くらい歩くとすぐに冒険者ギルドについ着いてしまう。
「ところでエドガーは冒険者なのか?」
「いや、まだ冒険者じゃないぜ」
「まだ……ということは冒険者になる予定はあったんだな?」
「もちろんだぜ、兄貴。俺は政界や経済界で活動できるタイプじゃないからな。人間社会に溶け込むには冒険者が最適だと思ってたんだ」
「そうか、それなら……。いや、エドガーはギルトンで冒険者になってもらう」
「ギルトンって、海の向こうの港町だよな。それは何でだ?」
「このギルドは復興で忙しいし、ギルトンの冒険者試験を見てみたいんだ」
「俺はどこで冒険者の試験を受けてもかまわないぜ」
ここの冒険者のレベルは既に知っているし、同じ戦いをみても面白くないので、エドガーには別のギルドで試験を受けてもらう。もっとも、エドガーに対抗できる人間などいないから、彼にとってはどこで試験をうけておも同じだろう。
俺は冒険者ギルドの建物に入った。
「おお~、すごい人だな」
復興のための依頼がたくさん来ているのだろう。ギルドの中は大賑わいだ。
そう言えば、俺がこの町に来たときよりも人が多い気がする。いや、気のせいじゃないだろう。きっと、ギルトンから人手が集まっているのだと思う。
「知っている人は居なさそうだな……。とりあえず、ギルトンまで行けるかどうか聞いてみるか」
「ペルセウスさん!」
「あっ、エステルさん! 久しぶりだね」
エステルさんは俺の担当の受付嬢だ。
「まだこの町に居たのですか! 魔法学園の入学式まで二十日もないですよ!」
「そうだね。間に合うと思うんだけど?」
「無理です。どんなに頑張ってもウエスティアまで一ヶ月はかかります」
魔法学園がある都市はウエスティアというのか、それも知らなかった。
それはそうと、魔物大戦が終わってからすぐに出発しなければ間に合わないという計算になるな。普通は……。
「とりあえずルーテシア大陸に渡りたいんだけど」
「それならばギルトンまで船で渡るしかありません。それだけで一週間かかりますよ」
「ギルトンからウエスティアまでどのくらいかかるんだろう?」
「最短はボスコニア山脈を越えてドワーナの町に出ます。そこまで三週間かかります」
「三週間も?」
「はい、ドワーナからウエスティアまで陸路で向かうこともできますが、三週間かかりますから、普通は海路を使います。それでも一週間近くかかりますよ」
「一番時間がかかるのはボスコニア山脈越えか……」
「あそこは山賊が多いし、とても険しいので、海沿いを一ヶ月以上かけてドワーナまで行くのが普通です」
「え~と、ようするにどんなに頑張っても一ヶ月かかるわけか」
「はじめからそう言ってるじゃないですか!」
「そんなに怒らなくてもいいじゃない」
「魔法学園はどうするんですか? 後二十日で入学試験ですよ?」
「単純に計算して十日足りない……」
「普通に計算しても十日足りません!」
「それじゃあ……普通じゃない方法で行くことにしよう」
「えっ! どうするんですか?」
「早速だけど、お暇します。エステルさんも忙しそうだしね」
俺たちはその場を逃げるように冒険者ギルドを飛び出した。
エステルさんが何か叫んでいるが、無視しよう。
「ペルシー様、あまりにも無計画なのです」
「お兄ちゃん、面白いの」
「お兄様、かっこ悪いです」
「まあ、いいじゃないかエドガーがいるし」
困ったときのエドガーだ。タクシー代わりに使わせてもらおう。
「とりあえず、ギルトンまで頼むぞ、エドガー」
「もちろん、それは構わないけど、人目につかないところへ行かないと」
「お兄様、お腹が空きましたわ」
「おっと、そうだったな。美味しい食事を出してくれる店を知っているんだ。そこへ行ってみよう」
俺たちはとりあえず港のにかくにある白鯨亭へと向かうことにした。
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