第56話 精霊クロノス

「というわけで、レイチェルのことはエドガーに任せることにした」

「えっ? どういうこと?」

「エドガー、しくじったら殺すからね」

「姉ちゃん……」

「仕事ができてよかったな、エドガー」

「ああ、そうだよな。そうだとも……」


 エドガーが不満そうな顔をしているのは分からないではないが、レイチェルも不満そうだ。


「どうした? レイチェル」

「わたしはお兄様と一緒にいたい」

「もちろん俺がレイチェルの面倒をみるぞ。でも、エドガーにも手伝ってもらわなくちゃな」


 90%はエドガーだけどな。


「お兄ちゃんの悪党!」

「それはないだろう、パメラ」


 パメラは条件反射的に発言しているんじゃないか?

 こっち向いてないし、レイチェルの前でしゃがみこんでるし……何やってんだ?


「ペルシー様、それは上に立つものとしてはどうかと思うのでございます」

「お、重いな、クリスタ。冗談だよ、冗談」

「いや、愚弟にレイチェルを任せるのは賛成です」

「そうだろう。そうだよな」


 でも、愚弟と言うのは可哀想だろう……。


「お兄様……」

「あ~分かった、分かった、レイチェルは俺と一緒にいなさい」

「やったー!」

「はじめからそうすればいいのでございます」


 今日はやけにクリスタが突っ込むな……。

 それはそうと、さっきからパメラがレイチェルの前で何かしてる……。


「パメラ、何してるんだ?」

「ツンツンしてるの。ツンツン」

「ツンツン?」


 よく見てみると、パメラが何かを人差し指でツンツンしている……。

 小さくて可愛らしい生き物がレイチェルの前に居る……。

 大きさは十センチくらいで、人の形をしているが、妖精ではなさそう。

 胸には時計がぶら下がっている。いや、嵌っているのか?

 パメラがツンツンし続けているが、余り反応を示していない。


「ペルシー様、その子可愛いですわね。いつからここに居たのでしょうか?」

「エルザ様、それは確かに可愛いですが、底知れない魔力が感じられます。ご注意下さい! パメラちゃんもツンツンしない!」


 レイランは恐れているようだが、この小動物は一体?

 それからは何だか分からないがプレッシャーを感じる。


「ちょっと違うような……。魔力……なのか?」


 普通の生き物や魔物と比べてても種類が違うプレッシャーを感じるが……。


「お、俺には何も見えないぜ」


 エドガーにはこの子が見えないらしいが……とりあえず放って置こう。


「その子は精霊でございますね」

「「「「精霊?」」」」


「精霊って、精霊魔法の精霊だよな? 見えるものなのか?」

「見える人と見えない人がいるのでございます」


 俺は今まで見たことないぞ?


「精霊はとても希薄な存在なのです。だから通常は直接姿を見ようとしても見ることはできないのでございます」

「この子が見えるということは? どういうことだ?」

「その子は時空を司る精霊、クロノスでございます。他の精霊よりも強い事象干渉力を持っているのです」

「なんか凄いな。レイチェルはクロノスと話ができるのか?」

「もちろんできる。クロノスは私の友だちなの」


 精霊クロノスがレイチェルの友だち……。


「レイチェルが時空魔法を使える秘密が判ったな」

「そうでございますね。この世界に時空魔法を使える魔法使いが存在しなかったのは、精霊クロノス自体を召喚できなかったか、対話できる魔法使いがいなかったのかのどちらかでございますね」

「クリスタ……。それって、精霊魔法の本質に関わることを話してないか?」

「はい、その通りなのです」

「クリスタ……私はそのようなことを魔法学園で学んだことはないのだが」

「レイラン様、魔法学園で何を教えているのか知りませんが、教えていないということは、それが知られていないか、意図的に教えていないかのどちらかではございませんか?」

「たしかにそうだな……。私の推測ではあるが、知られていないと思う」

「ちょっとまて、みんな慌てるな。この件について議論するには時間が必要だ。タイミングをみてクリスタに教えてもらおう」

「承知しましたわ。ペルシー様。レイランもいいわね」

「はい、もちろんです。楽しみにしているぞ、クリスタ」

「お役に立てるよう務めさせて頂くのでございます」


 今まで俺は、精霊魔法についてあまり突っ込んで考えてこなかった。それは幻想魔法が使えれば困ることがなかったからだ。

 でも、精霊魔法は面白そうなのでクリスタに精霊魔法を教えてもらいたいが、今はそのときではない。一刻も早くルーテシア大陸に出発しないと魔法学園の入学試験に間に合わなくなる。


「お兄ちゃん。この子は面白い。パメラの友だちにしても?」

「この子はレイチェルの友だちなのよ」

「それならクロノスを二人の友だちにしたらどうだ?」

「「分かった」」


 聞き分けが良くて助かった。

 結局、パメラもレイチェルと仲良くできそうな雰囲気になってきて良かった。


 その後、暫くパメラがクロノスを抱っこしていたが、クロノスは突然消えてしまった。

 レイチェルの話によると、彼女が時空魔法を使う時にしか精霊クロノスは出現しないようだ。

 まったく、精霊魔法というものは良くわからない……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る