第55話 魔法学園への旅について
レイチェルというイレギューラーが発生したけれど、俺のファミリーが全員集まったし、レイランの弟のエドガーもいる。ここで今後の話でもしておこう。
そこで、みんなにはラウンジに集まってもらった。
レイチェルは目覚めたとしてもミルファクから脱出できないし、無茶なことはしないだろう。みんなでラウンジに集まっても大丈夫たと思う。
「ゲルハルトの脱走というアクシデントが起こったが、俺たちはこれからルーテシア大陸に向かう。そこで確認しておきたいことが一つある」
「それは何ですの? ペルシー様」
「エドガーに聞きたい。君は俺たちとルーテシア大陸に渡る意志はあるか?」
もちろん、エドガーが俺たちについてくるという意思があったとしても、龍王騎士団の務めがあるから簡単に決められることではないだろう。
それに、ゲルハルトが抜けた穴を――団長を――どうするか決めなくてはならない重要なタイミングだからな。
「ついていくぜ、兄貴。龍王様からもお達しがあったんだ」
「おい、それなら早く言ってくれ」
「ごめん……」
「ペルシー様、申し訳ない弟がバカで……」
「あっ、いや、大したことではないし、レイランが謝る必要もないぞ」
俺は未だに剣技が安定しない。
エドガーに勝ったのは身体能力と、幻想魔法に頼ったからだ。
俺の剣技を向上させるためにも、前衛を強化する上でも、エドガーが俺たちと同行してくれることはありがたいのだ。
「エドガー、俺たちの前衛を頼むぞ。そして、俺に剣技を教えてくれないか」
「もちろんいいぜ。それから剣技を教えるのは一向にかまわないけど、兄貴の武器は刀だよな」
「そうだな。でも、刀に拘っているわけではないから、剣に持ち替えようと思う」
「それならば問題ない」
おそらく、これからの戦いでは日本刀の軽さや切れ味よりも、魔法を纏わせることが重要になるだろう。それならば強靭な剣のほうが向いているはずだ。
「エドガーの同行は決まりだな。レイランは何か言うことはないか?」
「龍王様の決定でもありますから、反対はしません」
「何か問題でも?」
「エドガー、私たちの邪魔はするなよ。もしバカなことをしでかしたら殺すぞ」
レイランの切れ長の目でエドガーが睨まれた。
エドガーがビビっている……、面白い……。
「まあ、そういうことだ。エドガー、よろしくな」
「よ、よろしくお願いします……」
レイランの厳しさにも困ったものだ。エドガーのやる気が削がれなければいいのだが。
「相談したいことがあります、ペルシー様」
「何かなエルザ」
「レイランと私は一足先にロマニア法国へ旅立とうと考えています」
「えっ、それは何でだ?」
「魔法学園入学前に、生活の環境を整えておきたいと思いまして」
「生活の環境? でも、ミルファクがあるから、住む家には困らないしな」
「はい、それでも入学する際、住所不定では困りますし、入学試験の手続きもあります」
「なるほどね。そこまで気がつかなかった。ありがとう、エルザ」
「いえ、当然のことです」
「それでは、俺たちはルーテシア大陸の南の街からロマニア法国に向かうよ」
「結構距離があるから、陸路だと三週間はかかるぜ。それで大丈夫かな?」
「そうだな、間に合わなそうだったら空を使うか。エドガーに乗って」
「それなら問題ないぜ」
ということで、エルザとレイランの二人は明日からロマニア法国に向かうことになった。そして、エドガー、パメラ、クリスタ、そして俺の四人は陸路でロマニア法国に向かう。
「残った問題はレイチェルをどうするかだな」
「お兄様、私もついて行く」
「えっ!」
レイチェル……。
この娘は客室で寝ていたはずだよな。
「私もついていく……」
それにしても、いつの間にここへ来たんだ。
「レイチェル……、転移魔法をつかったな?」
彼女は転移魔法を使ってもミルファクから脱出することはできない。しかし、ミルファクの中ならば転移可能だ。
「誰もいなかったから……」
「そうか、気分は大丈夫か?」
「気分は大丈夫よ。でも、怖くて、寂しくて……」
「レイチェルちゃん、もう寂しくないですよ」
クリスタがレイチェルのところへ行き、抱きしめてあげた。
彼女はほんとうに優しいな。
今更ながら、彼女が婚約者になってくれて嬉しいよ。
「うん」
「レイチェル、お前は俺たちの仲間だ」
「分かったわ。お兄様」
正直言って、レイチェルが今後も俺たちと行動を伴にしてくれるか分からない。
洗脳されていたとはいえ、場合によっては的になる可能性も捨てきれない。
でも、俺はレイチェルを信じることにした。
それの根拠が俺の第六感によるものだとしても。
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