第54話 レイチェルの過去
さて、一段落したところで、レイチェルの件を片付ける必要があるな。
そして今夜は内々で婚約パーティーだ。
「お兄ちゃん、レイチェルを始末するの?」
「怖いこと言うな~」
「冗談なの。本気にしないでほしいの」
「冗談に聞こえないんだが……」
パメラはレイチェルのことをライバル認定しているようだが、始末するという発言はどうだろう?
ちょっと危険な香りがするぞ。
「彼女については詳しく調べる必要がある。なんせこの世界に存在しないはずの貴重な時空魔法使いだからな」
「それをいうならお兄ちゃんは、現在も生きているネアンデルタール人並みに貴重なの」
「ほ~、それじゃあパメラは生きている化石シーラカンス並みだな」
「む~。何で人間じゃないの?」
「ごめん、言い過ぎた。でも、何でネアンデルタール人とかシーラカンスを知っているんだ?」
「それはジュリアス様の頭の中を……」
「判った。それ以上言わなくていい」
ジュリアスはパメラに地球時代の記憶の殆どをコピーされたんじゃないのか?
俺も他人事ではないけどな。
「それで、一番簡単なのはパメラにレイチェルの心を読み取ってもらうことなんだけど、やってくれるか?」
なんとなく禁断の果実っぽいけど、背に腹は代えられない。
「気が進まないけれど、お兄ちゃんのためなら……」
「洗脳魔法を解除したばかりだけど、大丈夫か?」
「問題ないと思うの」
レイチェルを軟禁している部屋に行ってみると、なにやら楽しそうな会話が聞こえてきた。
エドガーがレイチェルを手懐けたのだろうか?
「お邪魔しま~す」
「おっ、兄貴! 待ってたよ」
「エドガー、レイチェルを任せっきりで悪かったな」
「お兄様、遅かったね(ハート)」
レイチェルが言い終わると、パメラが急接近して自分のおでこをレイチェルの頭にくっつけた。
精神感応は、相手が覚醒している場合、不意をつくのがいいらしい。
「兄貴……。これは一体……」
「後で説明するよ」
およそ二十分ほど経過したであろうか。ようやくパメラがレイチェルから離れた。
それと同時にレイチェルがベッドに倒れ込んだ。
「大丈夫か、パメラ? いつもより時間がかかったみたいだけど」
「パメラは大丈夫なの」
レイチェルはそのまま眠りについたようだ。
「それでどうだった?」
「彼女は幼いころギルティックに誘拐されたの」
「「何だって!」」
「どこから拐われたのか分からないけれど、本名はレイチェル・クロノフィールドなの」
「エドガー、分かるか?」
「いや、聞いたことないな~。人間社会に詳しい姉貴に聞けば分かるかもしれない」
「レイランを呼んでみよう」
『レイラン聞こえるか?』
エルザとレイランには妖精通信を習得してもらっていたのだ。
『聞こえますよ、ペルシー様。何用ですか?』
『レイチェルの部屋に来てもらえないか』
『はい、それではエルザ様と一緒に参ります』
「お兄ちゃん、それから彼女は時空魔法を使えるの。だからギルティックに拐われたの」
「それは予想通りだな。ギルティックに拐われてから何年くらい経つんだろう?」
「二年くらいなの。でも、ギルティックの言うことを聞かなかったから洗脳されたの」
「それって……、拷問されたかも知れないな」
「拷問は記憶の中にないの。むしろとても大切にされていたの」
「時空魔法はそれだけ貴重ということか」
「それもあるけど、ギルティックの首領の威光があったみたい」
「首領の正体は? 分からないよな。普通……」
「そうなの。でも、黒蜘蛛の正体は分かったの。やっぱり、黒蜘蛛のチームが私たちを砂漠で襲った犯人なの」
「レイチェルを使って?」
「私たちに近づいたのは時空魔法の転移を使ったみたいなの。逃げた時は空間魔法で異空間に逃げこんだの」
「そうか、転移じゃなかったんだ。だから俺とクリスタの探知魔法から逃れることができたのか」
「兄貴、それはどうして?」
「転移魔法ではそれほど遠くまで転移できないとはずなんだ」
「そうなの、お兄ちゃんの転移は星の裏側まで行けるけど、精霊魔法だと十キロくらいが限界なの」
「パメラちゃんはよく知ってるんだね。凄いな~」
「パメラは魔法文明の魔法については、誰よりも詳しいよ」
パメラは魔法文明の叡智が創り出した、魔法人工知能だ。
当時の情報もあるていどは学習している。
「えっ、魔法文明の? 龍神族は魔法文明とはあまり接点がなかったから……」
「それは初耳だな。そう言えば魔法文明は閉鎖社会だったらしいな」
「失われた大陸から、殆ど外には出てこなかった。だから、俺たち龍神族とも交流がなかったんだ」
魔法文明か……。いつか調査してみたいな――。
丁度そこに、エルザとレイランがやってきた。
「ペルシー様、お呼びですか?」
「ああ、早速だけれど、レイチェルの本名が分かった。クロノフィールド家を知っているか?」
「クロノフィールド家……。聞いたことはあります。たしか帝国側の貴族の家名だと記憶しています」
やはり、レイランは知っていたようだ。
「レイランは帝国のことについて詳しいのか?」
「魔法学園時代のパーティーで、帝国とも交流がありましたから。その程度のことならば多少の知識はあります」
「それは頼もしい。さすがレイランだ」
「ペルシー様、褒めても何も出ませんよ」
顔を赤らめているレイランをいただきました。
それだけで満足だよ――。
「レイチェルは二年くらい前にギルティックに拐われたらしい」
「「えっ!」」
エルザとレイランはかなり驚いているようだ。
「ギルティックのやつらは何がしたいんだろうな?」
「お兄ちゃん、レイチェルは最低限の情報しか与えられていないの。でも、ギルティックの根城はいくつか判ったの」
「よし、ルーテシア大陸に渡ったら、やつらを潰そう」
ルーテシア大陸にはアムール王国、ロマニア法国、そしてガンダーラ王国の三ヶ国と、ソロモン帝国が存在する。
これから俺たちが入学する魔法学園があるのは、ルーテシア大陸の西側に位置するロマニア法国だ。
その過程でギルティックのアジトが判ったら、潰しにかかろう。
三ヶ国合同調査隊の恨みもあるしな。
「レベッカとかエミリア姫はどうしてるかな?」
ついでにミゲル隊長も……。
そう言えば、レベッカには大賢者ガロアのことを聞き出す必要がある。
「ペルシー様、今、女性の名前が聞こえましたが?」
「あっ、いえ、気のせいです……」
エルザさん……。ちょっと怖いよ~。
レイランのほうは気にしてないみたい。
「ペルシー様、冗談ですよ」
「……」
「お兄ちゃんはデリカシーがないし、エッチなの」
「パメラ、お兄ちゃんはエッチなことは考えてないぞ」
ちょっとしか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます