第53話 クリスタにプロポーズ
何故か俺は美少女と美女に幽閉されていた。
美少女の後ろでは美女が鋭い目で睨んでいる――。
口火を切ったのは龍王の姫君で美少女の方、エルザである。
「未だにお心が決まっていないようですね、ペルシー様」
「えっ、あの、何の話?」
「クリスタちゃんのことですわ」
「曖昧にするつもりはなかったんだけど、はっきりさせるタイミングが掴めなくてね」
「それは言い訳ですわね、ペルシー様」
はい、その通りです。
何よりもこの状況が怖くて言い出せませんでした。
先延ばしにしたツケが回ってきたというやつか。婚約者の二人からこの話を持ち出されるとは……。
「え~と、クリスタの気持ちは前から感づいていた。それに彼女のことはペネローペさんからも言われている」
「それで、どうしようと考えていらっしゃるのですか?」
二人を怒らせたらと考えると恐ろしい。
魔物の大群を相手にするほうが怖くないというこの事実……。
心臓がバクバクしてきたぞ。
でも言わなければならない……。
「エルザとレイランという婚約者がいながら、婚約者をもう一人増やすのはどうかと思ったんだけど……」
相変わらず二人の目線が痛い。心に突き刺さる。
つい目線が足元に行ってしまう、情けない俺……。
「ク、クリスタも妻に迎えたいと思っている」
そ~と、目線を二人の方に向けると……、満面の笑みが……。
「えっ!?」
「やっと、本心を言ってくださいましたね、ペルシー様」
「この時を待っていました。私たちはクリスタを喜んで迎え入れます」
エルザとレイランが抱き合って喜んでいる。
そ、そうだったのか……。二人ともそこまで考えていてくれたのか。
「婚約者が三人になっちゃったけど……」
そう、地球人の俺にとってはそこが一番気になるところ。
二人はどう考えているのだろう。
「ペルシー様……、何の問題があるのでしょうか?」
「正直言って、クリスタちゃんを見るたびに心苦しかったんですよ」
聖女ペネローペが、クリスタを妻に迎えることに何の障害ないということを言っていたっけ。それは本当だったんだな。
「早くクリスタちゃんに知らせないと」
「ちょっと待って。それは俺から言わなければならないことだ」
「もちろんですよ、ペルシー様。レイラン、クリスタちゃんを呼んできて」
「あっ、レイラン、行かなくても大丈夫。妖精通信で呼び出せるから」
「まあ、それは便利ですね。私たちにも教えてください」
「そうだね。やり方はクリスタに聞いてくれたほうがいいと思う」
光の妖精クリスタと俺はテレパシーのような魔法で交信することができる。
パメラのテレパシーとも違うのでややこしいが、妖精通信は魔法らしい。
地球人の俺にとってはテレパシーの方がイメージしやすいが、妖精通信はクリスタの言う通りにやったら発動できてしまった。
未だに魔法というやつは良く分からないけれど、俺でも魔法が使えるということが分かったのは嬉しい。
『クリスタ、聞こえるか?』
『はい、ペルシー様』
『一時間くらいしたら、俺の部屋まで来てくれないか?』
『はい、ご用件は何でしょうか?』
あれっ、いつもは何も聞かずに来てくれるんだけどな?
『クリスタに重要な話があるんだ』
『か、畏まりました。すぐに参ります』
それと、用意しなければならないものがある。
「エルザ、レイラン、ちょっと出かけてくる。すぐに戻るから」
「はい、分かりました。お待ちしています」
まずはミルファクから外に出なければならない。
目指すのは城下町にある装飾店だ。数日前に訪れた時に目を付けていたものがある。
昼間の時間帯なので、装飾店は閑散としていた。このような店に入りなれていない俺にとっては都合がいい。
「いらっしゃいませ~」
明るい声で出迎えてくれたのは二十歳前半のお嬢さんだ。もちろん、実年齢には千年を足さないといけない。
「あの~以前見かけたんですけど、魔晶石の指輪が欲しいのですが」
「はい、ありますよ。こちらでございます」
出されたのは様々な色の宝石が付いた指輪だった。
「魔晶石の指輪は女性へのプレゼントにとっても人気があるんですよ」
「そうなんですか。どんな効果があるんですか?」
魔晶石の指輪は、装着している人の魔力を吸収して、必要な時に魔法が発動できる。
紅いものは火属性魔法、藍色のものは水属性魔法、緑色のものは治癒魔法がそれぞれ発動できるようだ。
魔力さえ供給できれば、装着者がその魔法を使えなくても発動できるので、いざという時に役立つはずだ。
「それではその三つを下さい。指輪ケースもお願いします」
そのほかの色の指輪もあったが、見た目の綺麗さで紅、藍、緑の三つに決めた。
「お客さん、もてもてですね。三人と婚約ですか?」
「ははは、そうなんです」
「それと一緒に守りのネックレスはどうでしょうか?」
プラチナのチェーンに付けられた宝石は、ダイヤモンドのような輝きを放っていた。
「この魔晶石は装着者に対する魔法攻撃を緩和させる効果があります。普段から徐々に魔力を吸収するので、装着者の魔力が空の状態でも機能するすぐれものですよ」
「へぇ~、それは凄いね。それじゃそれも三つ下さい」
「ありがとうございます。すぐにご用意いたしますので、少々お待ちくださいませ」
商売上手な店員さんだな。
守りのネックレスは予定してなかったけど、いい買い物をしたと思う。
支払いは三ヶ国共通の通貨が使えるようだ。龍神族の社会にはかなり人間社会が浸透しているらしい。
もっとも、多くの人間が龍神族の社会で働いているので、それほど不思議はない。
それから、プロポーズには忘れてはいけないアイテムがある。
そう、花束だ。
城下町の花屋にはバラに似た赤い花が売ってたので、それも三束購入。
準備完了。
その後、龍王城の俺の部屋に転移し、そこからミルファクに入った。
自分の部屋に入ると、既にクリスタが来ていた。まだ一時間経っていないはずだが。
「ペルシー様、お待ちしていました」
クリスタが頬を赤らめて膝を曲げた。
エルザとレイランが何か言ったのだろうか?
「ク、クリスタ。今日は大事な話がある」
クリスタは何も応えずに軽く頷いた。
「クリスタ、俺と結婚してくれないか?」
俺は共次元空間から花束を取り出し、クリスタの前に……。
「……」
受け取ってくれない……。
クリスタが躊躇しているようだ。
ひょっとして、振られる?
「ペルシー様にはエルザ様とレイラン様という婚約者がいらっしゃいます。なぜ、クリスタと結婚しようと思うのでございますか?」
「正直に言おう。俺の一目惚れだ」
「えっ!?」
「俺が初めてこの世界に来た時……、そう、あれはピラミッド神殿の前だった。俺の板世界では、クリスタみたいな美少女には逢ったことがなかったんだ」
「そ、それでは同情とか哀れみで結婚を申し出たわけじゃないのですか?」
「どうしてそういう発想になるんだ? このタイミングになったのは俺の不甲斐なさ故だ。同情とか……、そんなことはあり得ない」
そこへパメラがクリスタの横に突然現れた。どうやらクリスタの後ろにいただけのようだ。
「クリスタ。それは本当のことなの。お兄ちゃんは嘘は言ってないの」
「た、たしかに。パメラに俺のプライバシーはない……」
パメラの趣味は俺の心を覗くことだ。俺の本心はとっくに知っていたはずだ。
「お兄ちゃんはいつもクリスタの胸を見てはドキドキしていたの」
「おっ、おい、パメラ。それじゃあクリスタの胸に惚れたみたいじゃないか!」
「ドキドキしてたよね? お兄ちゃん」
「それはまあ……、そうだけどな」
「ペルシー様……」
「今のは本当のことだけど、お兄ちゃんがクリスタのことを大好きなのも本当のことなの。クリスタ……、プロポーズを受けてあげてほしいの」
「はい、ペルシー様。お受けいたします。不束者ですが、末永くよろしくお願いいたします」
よ、よかった。
クリスタがようやく花束を受け取ってくれた。
「ありがとう! クリスタ!」
その後はみんなが歓迎してくれた。
もちろん、エルザとレイランにも花束を渡したら、とても感激された。
「「ペルシー様……、ありがとうございます」」
「三人にはプレゼントがあるんだ。受け取って欲しい」
まず、エルザには紅い指輪を左手の薬指に嵌めた。
「エルザの白銀の髪の毛には紅い指輪がとても似合うと思う」
「ペルシー様……」
エルザは感激して抱きついてきた。
微かに嗚咽している。
エルザ、可愛い……。
「この指輪には火属性の魔法を発動する力があるんだ。後で試して欲しい」
「私は魔法が使えませんが?」
「魔法が使えなくても魔力があるから大丈夫。発動できるよ」
「不思議な指輪ですね」
そして、レイランには藍の指輪を嵌めてもらった。
「藍色の指輪はレイランの凜とした雰囲気にとても合っていると思う」
「まあ、そうでしょうか? お世辞ではなくて?」
「お世辞じゃないよ。とても似合っている」
「レイラン、本当に似合ってますわ」
レイランはお洒落することに無頓着なところがあるので、エルザからの一言で納得したようだった。
満面の笑顔で指輪を眺めている。
「この指輪の効果は水属性の魔法を起動できることだ」
「でも、私は水魔法を使うことができますよ」
「そう言えばレイランは賢者だったね。ということは、この指輪は魔法が使える人にとっては余り意味が無いのか?」
「お兄ちゃん、そんなことないよ。その指輪を使えば魔法を強化できるの。今まで以上に強力な水魔法が発動できるの」
「そ、そうなのか。無駄にならないでよかった」
「ペルシー様、ありがとうございます。大切にします」
レイランは魔晶石の効果よりも、指輪として気に入ってくれたようだ。
「そして、クリスタにはこの指輪だ」
クリスタの指には緑の指輪を嵌めた。
「こんな綺麗な指輪は初めてみたのでございます」
「そう言えば、クリスタも指輪をしてないね」
「はい、メイドの仕事では、指輪をしていると邪魔になることがあるので、普段は付けておりません」
「なるほど。それじゃあ指輪じゃないほうが良かったのかな?」
「いえ、大丈夫です。むしろ指輪じゃないといやなのでございます!」
「そ、そうか、分かった」
クリスタの語気の強さに驚いたが、気に入ってくれたようで何よりだ。
「お兄ちゃんは女性の心が分からないのね」
「ひ、否定はできないな」
「これにはどんな効果があるのでございますか?」
「クリスタの能力と被ってしまうけど、これは治癒魔法が使える指輪だ」
「私の魔法は光魔法によろるものなので、正確には被ってないのでございます」
「怪我の具合によっては効果に違いがあるかもしれないの」
「なるほどね。いろいろと試してみたいな」
ひょっとしたら、切り傷とか火傷では効果に違いが出るのかもしれないな。
「それともう一つ、守りのネックレスがある」
守りのネックレスの魔晶石は大きなダイヤモンドのようなので、とても豪華に見える。
「まあ、素敵なネックレス……」
「このネックレスには敵からの攻撃魔法を緩和させる効果がある。これからは敵と戦うことも増えるかもしれないので、これを身に着けて欲しい」
俺はエルザ、レイラン、クリスタの首に守りのネックレスをつけた。
そして、三人とは誓いの接吻を交わした……。
なぜかパメラにも……。
ろころで、エドガーにレイチェルを任せているけど、大丈夫なのだろうか?
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