第52話 魔法学園へ出発することにしたよ

「うっ、頭が痛い……」


 ここは……ミルファクの俺の部屋だな。間違えようがない。

 それにしても俺は何でしょっちゅう気を失ってるんだろう?


 そうだ、俺はあの宇宙空間でペネローペさんと話をしていて、途中で意識を失ったのか。

 話した内容は……。彼女がこの世界の何処かにあるピラミッド神殿に封印されていること。そして、ピラミッド神殿を探せるのは俺だけだということだ。

 そしてクリスタ……。

 彼女は俺のことをどう思っているのだろう。ペネローペさんの話が本当ならば、クリスタは俺のことを……。


「く、苦しい……」


 俺の上に何か乗ってる。


「パメラだな。どいてくれ」

「あっ、お兄ちゃん、おはよう」

「おはよう。みんなはどうした?」


 あれっ?

 右手に何か柔らかくて、気持ちのいいものが……。

 デジャブー?


「あんっ」


 この感触はエルザでもない、レイランでもない……。

 エルザの胸は大きくて、しかも弾力性が抜群だ。俺にとっては至高の胸だ。

 レイランの胸はちょっと小ぶりだが、形がとても良い、いわゆる美乳だ。額縁に入れて鑑賞したいほどだ。

 だがこの感触はどちらでもない。

 柔らかくて揉みごたえのある……クリスタの……。

 なんでクリスタが? でも、気持ちいい、久しぶりだし……。


「ペルシーしゃま……、そんなことをしてはいけないのです……」

「あっ、ご、ごめん、クリスタ!」

「もっと……、ペルシーしゃま」


 どっちなんだよ?

 じゃなくて……、この状況は何だ?


「酒臭い。酔っ払っているのか?」

「酔ってなんかいませしぇんよ~、ペルシーしゃま。酷いこと言わないでくださいましぇ~。ぶちゅ~」

「こ、こらっ、舌を……」


 クリスタ……かなり酔ってるぞ。


「誰だ! クリスタに舌の使い方を……、じゃなくて、酒を飲ませたのは!」


 キスの仕方を教えたのは訊かなくても想像がつく。

 それはパメラ以外にいない。


「パメラ! クリスタに余計なことを教えたな~!」

「パ、パメラじゃないもん! ジュリアス様だもん」

「お前の奇行はみんなジュリアスさんが教えたとでも言うのか?」


 パメラが速攻で逃げた……。後でお仕置き確定な。


「ペルシーしゃま、クリスタとは一緒に飲んでいただけなんです~」

「私も一緒ですよ、ペルシーさまぁ」

「エルザ、レイラン……」


 彼女達もかなり酔っているけど、クリスタほどではないか。

 それにしても俺が気を失った時はいつの間にか添い寝されている気がするな。

 それに何で全裸?


「ちょっと、みんな少し離れてくれないか」

「嫌なのです~」

「クリスタは絡み酒か」

「私は抱きつき酒ですよ~」

「ちょっと……。あのね、男の事情があるんだから、お願いだから離れてくれ」


 君たちは自分自身のエロさに気がついていないのか?

 襲っちゃうぞ。


「男の事情でしゅか? 何でしゅかそれは……」

「クリスタ、そんなことも分からないのかよ」


 エルザとレイランは泥酔まではいってないようだな。服を着はじめている。

 二人とも、顔が真っ赤になってるぞ――。


 その後、クリスタには肝臓の働きを活性化させる回復魔法を使わせた。酔っていてもそれくらいはできるようだ。

 それが功を奏して、小一時間ほどで、三人の酔いは覚めた。

 危なく乱○になるところだったよ……。





    ◇ ◆ ◇





 みんなの酔いが冷めたところで、いつものラウンジに集まってもらった。

 パメラもいつの間にか戻ってきている。


「パメラ、後でお仕置きだからな」

「ごめんなさい、ごめんなさい。クリスタにちょっと性教育をしただけなの」

「そ、そうか。それじゃあ仕方ないか……」


 俺は何を言ってるんだ……。


 クリスタがいつものようにお茶を持ってきてくれた。

 酔いは完全に冷めたようで安心した。


「あ、あの……ペルシー様。先ほど醜態を晒してしまい……」

「気にしてないよ。というより、ちょっと刺激的だったね」

「あの、その……」


 うっ、クリスタの顔がどんどん紅潮していく……。

 可愛い……。


「クリスタには後で話があるんだ。時間をとってくれないか?」

「もっ、もちろんでございます。いつでもクリスタはペルシー様のお側にいますので」


「みんな聞いてくれ!」


 みんなの視線が俺に集中する。あんな事があったばかりだからちょっと恥ずかしいな。

 さっきの光景を思い出してしまう……。


「俺が気を失った原因は、聖女ペネローペからのコンタクトがあったからだ」

「「「ペネローペ様の……」」」


 みんな聖女を知っているようだな。それならば話が早い。


「彼女はどこかのピラミッド神殿に封印されている。それはみんな知っているよな」

「「「はい」」」

「封印が解けたということでしょうか?」

「いや、残念ながら違う。意識が戻っただけなんだ」

「それはいつ頃でしょうか?」


 エルザは長い間ピラミッド神殿の捜索にあたっていたから気になるんだろうな。


「ジュリアスさんと俺が入れ替わるちょっと前だと思う。だから二ヶ月ほど前になるね。彼女は意識が戻るとすぐに俺を捜し始めたらしい」

「結界を突破することができたんですね」

「彼女は結界を突破したのではなくて、綻びがあると言ってたな」

「聖女様がどこに封印されているのか分かりましたか?」

「残念ながら彼女自身にも分からないようだ」


 エルザが俯いている。かなり落胆しているようだ。


「私は今まで一つもピラミッド神殿を見つけることができませんでした。探す方法はあるのでしょうか?」

「俺の魔眼なら見つけることができるらしい」

「「えっ!」」


 エルザとレイランが驚愕の目で俺を見ている。


「それならばすぐに探しに行きましょう!」

「それはできない」

「なぜですか!?」

「敵がいるからだ」

「「「!」」」


 こういう時、なぜかパメラは驚かないな。肝が座っているのか?


「お兄ちゃん、それはギルティックじゃないの?」

「いや、ギルティックじゃないと思う。少なくともギルティックが直接的に絡んでいる証拠はない」


 ギルティックという秘密結社は、レイチェルを使ってゲルハルトを逃した組織だ。

 主犯格の黒蜘蛛の動向も気になるから、それも含めてレイチェルから詳細を聞き出す必要があるな。

 彼女が素直に情報を提供してくれればいいのだけれど……。


「そういえば、レイチェルはどこにいるんだ?」

「別室で休んでいます。だいぶ取り乱していましたから」

「一人で大丈夫か?」

「ペルシー様、報告が遅れましたが、私の独断でエドガーに彼女を見てもらっています」

「レイラン、ありがとう。それでいいと思う」


 レイランの弟のエドガーか……、龍王騎士団でもトップクラスのやつなら、任せても大丈夫だろう。


「話の続きだが、おおっぴらに聖女を捜索すると、俺たちの動きが察知されて妨害してくる可能性がある。だから、捜索は秘密裏に行わなければならない」

「その敵について詳しく教えてください」

「聖女ペネローペをピラミッド神殿に封印したのが誰だか知っているか?」

「大賢者ガロアでございます。ペルシー様」

「クリスタは知っていたのか。そのガロアが生きている可能性があると、聖女は言っていた」

「でも、人間の寿命はそんなに長くないのでございます」

「そうだよな。だからこの問題は思ったよりも複雑みたいだ」


 魔法に詳しいレイランがガロアの生存について仮説をたててくれた。


 一番ありそうなのは、自らを魔法で封印して千年後の現在に甦ったのではないかということだ。ただし、ガロアが大きなリスクを負って千年後に甦る意味が全く分からない。


 そしてもうひとつは、ガロアが人外になった可能性だ。

 俺が憑依転生という方法でこの世界に来たことを考えると、あり得ない話ではない。

 だが、もしそうだとしても、やはり目的が不明だ。


「ガロアが何をしようとしているのか……。目的については全くの手詰まりだな」

「これ以上の議論は仮定に仮定を重ねることになります」


 エルザの言う通りだと思う。

 あまりにも情報不足だ。

 たとえ聖女でも、封印されている状況ではガロアの動向を探ることはできないだろう。


「ゲルハルトの件で予定が遅れてしまったが、俺たちは旅に出るべきだろう」

「目的地は魔法学園ですね」

「そうだ。あそこには世界中の情報が集まるはずだ」


 魔法学園に行くことは以前から行くことになっていたし、入学試験の日程も迫っている。早速出発したいところだ。


「ペルシー様、私も入学して魔法を習いたいのですが……、いいですか?」

「もちろんいいよ。一緒に魔法を勉強しよう、エルザ」

「私も入学したいのでございます」

「クリスタが? 魔法教師としてならわかるけど」

「生徒として入学したいのです!」

「そ、そうか。いいよ、問題ないと思う」

「ワクワクするね。お兄ちゃん」

「まさかパメラも?」

「だって、面白そうなの」

「レイラン、俺たちはみんな入学できるものなのか?」


 おっ、レイランが何か企んでる顔だ。

 ニヤニヤしだしたぞ……。

 気になるな~。


「入学試験に合格すれば問題ないですよ、ペルシー様」


 相変わらずニヤニヤしているけど、まあいいか。

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