第51話 いつか見た世界
――ここはどこだろう。
体が宙を漂っているようだ。
たくさんの星が見える。
ここは宇宙空間みたいだ。
ペルシーはこの世界にたどり着いた時のことを思い出していた。
それはまだ二ヶ月ほど前のことである。
――たしかあれはジュリアス・フリードと邂逅する前だった。
ミストガルの上空に漂っていた空間……。
「ペルセウスさん、お目覚めでしょうか?」
「……目が覚めたところです……。あなたは誰ですか?」
ペルシーの目の前にはいつの間にか金髪の美しい女性が立っていた。
「ようやく貴方とテレパシーのリンクを確立することができました。私の名前はペネローペ。初めてお会いしますわ、ペルセウスさん」
――テレパシーだって? 精神感応……、パメラと同じ能力だよな?
「ペネローペさんですか? はじめまして。俺の名前はペルセウス、最近はみんなにペルシーと呼ばれています。なので、ペルシーでいいです」
「それではペルシーさん、早速ですが本題に入ります。私は千年前、ジュリアス・フリードの恋人でした」
「あっ、思い出した。聖女ペネローペさんですね。ジュリアスさんから話は聞いています」
ペルシーが
「ジュリアス様のことはとても残念です。彼は最後まで私を守ろうとしてくれました……、本当に残念です……」
「それではジュリアスさんと話はできていたんですか?」
「はい、最後に少しだけ話ができました。その時に貴方のことを知りました……」
「そうだったんですか。未だに助けに行けなくて……、ごめんなさい」
ペルシーは、ジュリアスから冒険のついでに聖女を助けてくれというニュアンスできいていたので、聖女を助けることが後回しになっていたのは否めない事実である。
「いえ、謝る必要はありません。私は自分自身がどこに幽閉されているのかも分からないのですから」
「ジュリアスさんは、理由は分かりませんが、冒険しながら捜せと言ってました」
「ジュリアス様らしいですね。でも、それが正解なのかもしれません。手がかりはどこかのピラミッド神殿だということくらいですから」
「そう言えば、俺の婚約者がピラミッド神殿の場所を探そうとしていました。でも、特殊な結界が張ってあるらしくて、千年がかりで一つも見つけることができなかったそうです」
エルザが言うには、大陸には一つだけピラミッド神殿が設置されているらしい。
しかも結界まで施されている。探索は根気のいる作業だったはずだ。
「特殊な結界ですか……。でも、それは完璧な結界ではありませんね」
「完璧ではない? それはどういういみですか?」
「今だって私は貴方と会話してますよ。つまり、その結界には綻びがあるということです」
「なるほど……。ということはペネローペさんからは俺のいる場所が分かるということですか?」
「残念ながら分かりません。でも、綻びがある以上、何か方法があると思います。
そう言えば、ペルシーさんの魔眼ならば結界の影響を受けずにピラミッド神殿を見つけることができるはずです」
「この魔眼にそんな力が……」
「もちろんです。魔眼は神の如き能力を持っているのです」
「分かりました。できるだけ早くペネローペさんを救い出します」
「お願いします。でも、まだ敵がいるかもしれないので、警戒は怠らないでくださいね。そういう意味ではジュリアス様が言う通り、冒険をしながら捜すというのが一番自然かもしれません」
「ジュリアスさんは詳しく説明をしてくれませんでしたが……、直接的に探そうとすると感づかれるか……」
「その敵なんですが……」
ペネローペが言うには、ジュリアスやペネローペを封印した大賢者ガロア自身が生きている可能性があるそうだ。
大賢者ガロアは人間だ。それがどうやって千年以上生存できているのか、それは聖女でも分からないらしい。
たしかに、封印されていたとはいえ聖女自身も千年以上生存しているのだから、ガロアが生存していても不思議ではない。
「俺はガロアの子孫の女性と出会ったことがあります。でも、彼女はガロアを先祖だと思っています。生存しているとは言ってませんでした」
「そうですか……。でも、私はガロアの生存を感じるのです。説明はできませんが……」
「復讐……したいですか?」
「それは自分でも分かりません。でも、何故こんなことになったのか……、真相が知りたいです」
彼女が封印されて千年以上過ぎているし、ジュリアスは既にこの世にいない。
復讐する意味が無いのか? それとも、聖女とはそういうものなのか?
ペルシーには知りようがなかった……。
「ガロアが邪魔してくるでしょうか?」
「分かりません。でも、彼は大賢者です。油断は禁物です。ペルシーさんと私の繋がりは極力知られないようにしてください」
「それは今のところ大丈夫です」
ペルシーがジュリアスの代わりにミストガルに転生したことを知っているものは、自分の仲間しかいない。
「この世界の異変についてもっと話をしたいところですが、時間がかかりそうなので、それは次回にしましょう」
「すぐに世界が滅びるということではないのならば、同意します」
「それはないと思います……。たぶん」
――自身なさそうだな。ミストガルは大丈夫なのか?
「ところで、パメラとクリスタは元気にしていますか?」
「ええ、元気ですよ。パメラは俺の妹になりました」
「妹に? ということは人間態になったのですか?」
「はい、十二歳くらいの少女になりましたよ」
「その可能性は前から分かってたことなんですが、驚きました。さすが魔法文明が残したアーティファクトですね」
「俺は彼女をアーティファクトだと思っていませんよ。今は人間そのものだと思っています」
「それは失礼しました。貴方がそのように接したからこそ、人間態に成れたのですね。私も考えを改めます」
「あっ、いえ、責めているわけではありません。俺自身も最近までパメラのことを人間として見ていませんでしたから」
――パメラのことで他人を咎めることはできない。
俺自身がパメラを苦しめいていたのだから……。
「早くパメラに逢ってみたいです。それと、クリスタは?」
「クリスタは俺のメイドをしてくれています。実際にはメイドというよりも仲間ですけど」
「婚約者というのはクリスタのことではないのですか?」
「いえ、違います。龍神族の二人の女性です」
「龍神族の女性……そうですか……。クリスタは頑ななところがありますから……」
「クリスタがどうかしました?」
「彼女はジュリアス様のことが大好きでした。でも、私の存在を知り、自ら身を引いたのです。そして、メイドとして仕えることになりました」
「そんな事があったのか……」
「貴方はクリスタのことが好きではないんですか?」
ペルシーがこの世界に来てはじめて見た女性はクリスタだった。
彼女のように美しい女性を間近で見たことがないペルシーは一目惚れをした。
だが、そのような経験のないペルシーは自分の気持を保留にして誤魔化し続けていたのだ。
ペネローペにクリスタに対する気持ちを問われて、それが覚醒した。
「正直に言います。クリスタのことは大好きです」
「それは良かった。それならばクリスタとの婚姻も考えていただけませんか?」
「俺には婚約者がいますし、俺の一存だけで決められない」
「婚約者がいるから? それが障害になるとは思えませんが?」
――あっ、そうか。この世界では複数の妻を娶っても問題にならないのか。
「今の状況はあの時とそっくりです。もう二度と彼女にあの時な悲しみを味わってほしくないんです」
ペネローペは両手で顔を覆い、嗚咽した。
「私は愚かでした。彼女と共にジュリアス様を支えるべきだった……」
「そ、それは俺には分かりませんが、クリスタが俺と結婚したいと思っているのか疑問です」
「それでは何故彼女がメイドをしていると思いますか?」
「え~と、俺がジュリアスの後継者だから……かな?」
「いいえ、それは違います。妖精が人に仕える理由は大昔から一つしかありません」
――なんだって……。
そこでペルシーの意識は途切れた。
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