第43話 レイランを賭けた決闘
その日の夜、パメラを除いた二人は自重してくれた。
明朝の決闘に備えて、十分な休養が取れるようにとの配慮からだ。
パメラの外見は十二歳くらいの少女なので、ペルシーとしてはベッドを伴にしても大して邪魔にはならない。
だが、決闘のことを考えると、ペルシーはなかなか寝付けなかった――
「ペルシー、眠れないの」
「ゲルハルト団長がどんな技を隠しているのか分からないからな」
「心配し過ぎだと思うの。ギュンターもゲルハルト団長もペルシー様の敵ではないのよ」
「うん、そうだといいんだけどな」
「なあ、パメラ」
「どうしたの?」
「俺はこの先、どうしたらいいんだろうな」
「ペルシーは自分の好きに生きればいいと思うの。パメラはペルシーにどこまでもついて行くだけだから」
パメラはそう言うと、ペルシーの頭を抱きしめた。
《少年よ。冒険の始まりだ……》
ペルシーの頭の中に、ジュリアスの言葉が木霊した……。
◇ ◆ ◇
次の朝の闘技場――
そこには二メーターを超える巨体の龍神族がいた。
「お前がペルシーか」
「いかにも。拙者がペルセウス・ベータ・アルゴルでござる」
なんで侍言葉なのだろうか?
外見からはよく判らないが、ペルシーはかなり緊張しているようだ。
「お前のような青二才がレイラン様に求婚するとは、片腹痛いぞ!」
「それがしを甘く見ないことだな、肉達磨殿」
「なんだと貴様!」
闘技場の大きさはサッカー場を一回り小さくしたくらいの大きさで、形状はコロッセオ風である。
この日、闘技場には騎士団だけでなく大勢の観客が押しかけていた。
どうやら、龍神族は決闘が好きらしい……。いや、娯楽に飢えているのかもしれない。
「二人共、舌戦はそこまでだ。もうすぐ龍王様がお見えになる。しばし待たれよ」
龍王よりも先に闘技場に来ていたドロクスが、二人の舌戦を止めた。
今にも決闘が始まりそうだったからである。
『レイランとクリスタはどこにいるかな?』
『王座の横にいる』
パメラはヘッドギア形態になって、ペルシーの頭に収まっている。
今日のレイランの服装は、今までの男装から一転して、お姫様のようなドレスに身を包んでいた。
『冗談抜きに、レイランは綺麗だ……』
『同意する。パメラの嫁にしたい』
またパメラが訳の分からないことを言い出したが、ペルシーはスルーした。
「待たせたな」
龍王は王妃とエルザを連れてやって来ると、玉座についてこう言った。
「この決闘は真剣勝負だ。勝った方にはレイランとの結婚を認める!」
王の言葉で「うぉーっ!」とギュンターが吠えた。
そして観客席全体から歓声が湧き上がった。
「龍王様! それはあまりにも無体ではないでしょうか」
すかさずレイランは抗議した。
「ギュンターは今まで余に尽くしてくれた。それくらいのチャンスを与えてもいいと思ってな。それともレイランはペルシーが負けると思っておるのか?」
「いえ、断じてそのようなことはございません!」
「それならば黙ってみているがよい」
謁見の間でも話されたことであるが、何故か再び繰り返された。
龍王の言葉を受けて、ドロクスが前に立った。
「それではこれより、騎士団第五位ギュンターとペルシー殿の決闘をとりおこなう。勝った方にはレイランとの婚姻を認める!」
再び歓声が沸き上がった。
やはり、龍神族は娯楽に飢えているようだ。
『なんだかやりにくいな……』
『ペルシーなら問題なく勝てるからの。心配する必要はないの』
闘技場の中央に十メートルほど離れてペルシーとギュンターは向かい合った。
「今宵の斬魔刀は血に飢えておる」
『ペルシー、今は夜じゃない』
『しまった……』
「何を巫山戯たこと言ってんだ!」
「いざ、尋常に勝負!」
二人を見て、ドロクスが合図を送った。
「はじめ!」
合図と同時に、ギュンターがその巨体に似合わないスピードでペルシーに接近すると、上段からバスターソードを振り下ろした。
ペルシーは難なくサイドステップでそれを躱す。
ところが、ギュンターのバスターソードは物理法則を無視したようにペルシーの横腹を襲った。
ペルシーは咄嗟に斬魔刀でそれを受けたが、次の瞬間彼の体は宙に浮き、二十メートルほど飛ばされていた。
「何ていうパワーだ!」
ペルシーは今までこれほどの力を受けたことはなかった。
そう、あの巨人族でさえもここまでのパワーはなかったはずだ。
「くそっ! 一発で仕留められなかったか」
ギュンターは先程の一撃で決めたかったらしい。かなり悔しがっている。
何か理由があるのかもしれない。
『ペルシー、あれはおそらくギュンターの隠し技。魔力で強引に剣の軌道を変えている』
『軌道を変えてもパワーが損なわれないのか……。厄介だな』
ギュンターは二撃目を放つべく、バスターソードを地面すれすれに構えながら、高速でペルシーに接近した。
「肉団子のクセに速いでござるな!」
「ほざけっ!」
ギュンターは再びバスターソードを上段からペルシーに振り下ろした。
今度はバックステップで逃げる。
しかし、それは悪手であった。
ギュンターのバスターソードがペルシーを追いかけて伸びてきたのである。
ペルシーは慌てて避けようとしたが、バスターソードの方が速かった。
バスターソードの先端がペルシーの左肩を掠めた。
ペルシーの左肩から血が滲んできたが、アドレナリンが出まくっているせいだろうか? 痛みはあまり感じていないようだった。
「ちっ!」
ギュンターは舌打ちすると、攻撃の手を休めず、連続で攻撃を試みてきた。
ペルシーは守勢一方になってしまったが、ギュンターの連撃は意外と長くは続かなかった。
『あのバスターソードは魔道具だよな』
『同意する。あれだけのパワーを発揮したからには、魔力がかなり消費されたはず。おそらくギュンターは魔力切れを起こしているはず』
『だから後の連撃は平凡だったのか』
『それは同意できない。ペルシーだから平凡に見えただけ』
『それじゃあ、ここから反撃だな』
レイランとクリスタは心配そうになペルシーを見つめている。
ペルシーとしては応援してほしいところだったが、まあ仕方ないだろう。
「連撃というものは、こうやるのでござる!」
ペルシーはギュンターに接近すると、エドガー仕込みの連続攻撃を放った!
エドガーの変則連続剣は、不器用なギュンターには受けきれない。
二十連撃ほどで、ペルシーの斬魔刀がギュンターを捉えだした。
そして三十連撃目で斬魔刀がギュンターの脇腹を直撃し、防具を切り裂き、血飛沫が舞った。
「ぐわぁーっ!」
ギュンターは十メートルほど飛ばされると、すぐに白旗を上げた。
「降参だ!」
ギュンターは慌ててバスターソードを捨てて両手を上げた。
なぜなら、ペルシーの斬魔刀がギュンターの頭部を捉えようとしていたからである。
「そこまでっ! ペルシーの勝利!」
ドロクスが宣言すると、一斉に歓声が上がった!
「ペルシー! よくやった!」
「ギュンターを倒してくれて、ありがとう! ペルシー!」
「ペルシー様! 私と結婚して!」
会場全体からのペルシーコールである。
ギュンターは救護隊に応急処置を施され、ペルシーと共に龍王の前に立った。
「二人共によく戦ったな。褒めて使わす」
ギュンターは頭をがっくりと下げた。
「レイランとペルシーの婚姻を認める!」
「はっ! レイランを貰い受けます!」
そこで再び歓声が湧き上がる。
ギュンターは立っていられなくなり、その場で膝をついた。
よほどレイランのことが好きだったのだろう。
こいつは意外と繊細なやつなのかもしれない。
レイランはドレスを着ているにも関わらず観客席から闘技場に飛び出し、ペルシーに抱きついてきた。
今までで一番の歓声が湧き上がる――
「レイラン、君は俺のものだ」
ペルシーは決闘の高揚感がまだ残っているのだろう。いつもは言いそうもない臭い台詞を吐いた。
「ペルシー様、ペルシー様、ペルシー様……」
レイランも願いがかなって、感無量なのか。自分の想いを言葉にできないでいた。
「レイラン! くっつき過ぎ!」
少女形態に戻ったパメラはレイランを引き剥がそうとするが、パメラの力ではどうにもならない。
「ペルシー様、立派な勝利なのです。おめでとうございます」
「クリスタ、ありがとう」
クリスタは満足げに頷くと、右手をペルシーの左肩に翳した。
「回復魔法をかけます」
クリスタはペルシーの左肩の傷を治すと、ペルシーの背中を抱きしめた。
この子はいつでもペルシーのことを案じてくれている。
クリスタは本当にいい子だ。
「ペルシーよ。決闘はまだ終わったわけではないぞ」
「龍王様、失礼いたしました」
第一関門は突破したが、次は騎士団団長のゲルハルトとの決闘が待っているのだ。
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