第38話 パメラドール120%
お風呂といえば、異次元屋敷ミルファクの大浴場のことだろう。
ペルシー達は勝手にそう思い込み、ミルファクの大浴場に向った。
パメラが何を考えて『お風呂』と言ったのか、まったくか想像もつかない。
だが、せっかく風呂に来たのだから入っていこうと考えているペルシーであった。
もちろん、クリスタと一緒に風呂に入ることはない。
それは、クリスタの胸を揉んではいけないという禁止令が、パメラから出されているからである。
それに、もしペルシーが彼女の裸を見たら、パメラの術中に嵌まるだろう。
そうならないように、ペルシーは意識的にクリスタを避けていたのだ。
それに、意外なことだがペルシーは、紳士なのだ。
ペルシーは断固として、その約束を守るだろう――おそらく――
ペルシーは、広い浴槽に浸かりながらパメラに呼びかかけてみた。
『パメラちゃん! 聞こえるかな?』
パメラは機嫌をそこねて出てこないわけでもないだろうに――
『今、ミルファクの大浴場に入ってるよ。分かるだろう?』
『……』
パメラからの答えはなかった。
ペルシーの目線がキョロキョロと不自然に動く。
本格的に心配になってきたのかもしれない。
ペルシーは湯船に入ったり出たりしながら、およそ一時間ほど時間を潰したが、パメラからの反応はなかった。
ここでクリスタに妖精通信――
『ちょっと、安易に考えすぎていたかもしれない……』
『何の反応もありませんか?』
『まったく……』
ペルシーとクリスタが
『レ、レイランさん……』
『えっ、レイランさんが? 今しがた、ここにいらしたのに』
レイランの体型はスーパーモデルとは違い、男心をそそるような、出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる体型だ。
昔、彼女は男子の制服を着て魔法学園に通っていたのである。
少年少女にとっては犯罪的な行為だったことは想像に難くない。
本人も言っていたが、人間のオスやメスが群れてくるのは間違いないだろう。
レイランは形が良くて大きな胸を揺らしながら、ペルシーの方に近づいてきた。
(一緒に風呂にはいる時は
もっとも、薄衣を纏えば妖艶さが軽減すると思ったら大間違いである。
さらに扇情的になるのは目に見えているが、女性経験のないペルシーには知る由もなかった。
この世界の女性達は――レイランは龍神族だが――他人に裸を見られる事自体はあまり
しかし、そんな訳はないのだ。
恥ずかしいけれど好きな人には裸を見てほしいという女心を、ペルシーはまったく理解していなかった。
『ク、クリスタが接近禁止みたいだからな。私が代わりに来た。嫌か?』
『嫌だなんてとんでもない。で、でも、俺の野生が目を覚ますかも……』
『そ、そうか。それもいいだろう』
『えっ……』
意外なことだがペルシーは、紳士なのだ――
レイランはペルシーの左隣に来ると、例によって胸を押し付けてきた。
『あの~』
『どうした、ペルセウス殿。私の胸ならば触ってもいいのだぞ』
『と言われても……』
ペルシーの感情が高ぶってくると、それにつれて魔法AIのヘッドギアが熱くなってくるのが分かった。
『あれっ、ヘッドギアが熱くなってきたぞ?』
この時、パメラが再び起動した。
『ペ、ペルシー。ここではない』
『パメラ! どういう意味だ? パメラ!』
『……』
パメラは再び沈黙した。
『ここではないと言ったら、龍王城の大浴場しかないのでございます!』
『レイランさん、先に上がってください』
『そ、そうか。悪いな……』
いや、悪いはずはない。
ペルシーにはすぐに浴槽を出られない事情があるのだ――
レイランは、形のいいお尻をフリフリさせながら浴室を出ていった。
「あ、危なかった~。レイランさんは色っぽ過ぎるだろ……」
因みに、レイランは今まで研究一筋で生きてきたため、男心が解っていない。
それはペルシーも似たようなものであるが。
ペルシー、レイラン、クリスタの三人は異次元屋敷ミルファクから出ると、龍王城にある大浴場へと向った。
ここの大浴場はミルファクのものとは違い、一日中お湯で満たされているわけではない。
王族が入るときだけ、ドラゴニア山から湧き出す温泉を流し込むことになっている。
レイランは龍王の側近であるドロクスに大浴場を使用する許可を取りに行った。
許可を取ってからお湯を流し込むと、それなりに時間はかかるだろう。
ところが、すでに大浴場はお湯で満たされていたのだ。
おそろらく王族の誰かが湯浴みをする予定が入っていたのだろう。
その湯浴みが終わるのを待つとしたら、さらに時間がかかりそうだ。
『ペルシー殿! 許可が下りたぞ!』
『待たされる覚悟をしていたんだけど、早かったね』
『エルザ様が入浴する時間だったらしいのだが、譲ってくれたのだ』
『エルザ様が……』
ペルシーは龍王との謁見以来、エルザと顔を合わせていない。
完全に嫌われていると思ったし、ペルシーとしても合わせる顔がないのである。
むしろ、憎まれているのではないかと、
龍王との謁見の後、ペルシーはエルザと直接対話してみるべきだったのだ――
ペルシーはエルザを傷つけてしまったという想いが凝り固まり、柔軟性のある発想ができなくなっていた。
エルザは龍王の娘である。
そんなに弱い精神の持ち主ではない。
だからこそ、千年間も地道にジュリアスの封印されたピラミッド神殿を探し続けることができたのだ。
『ペルシー様、時間をかけてはエルザ様に申し訳ないです。早速入りましょう』
『そうだな』
ペルシーはすぐに服を脱ぎ、大浴場に浸かった。
『さすがに、温泉だな~。日本の草津温泉を思い出すよ』
『クサツ温泉ですか?』
『ああ、泉質が似ててね。ちょっと硫化水素の臭がする。ドラゴニア山というのは火山なんだろうな』
『そう言えば、百年ほど前にドラゴニア山の西側が噴火したと聞いたことがある』
ペルシーが温泉を満喫していると、レイランとクリスタが入ってきて、いつもの位置を陣取った。
レイランが左側でクリスタが右側である。
湯浴み用の薄衣を来てほしいのだが、頼みを聞いてくれない……。
『クリスタとの接触は禁止されているんだけど……』
クリスタは湯船に入ると早速ペルシーの右腕に絡みついた。
久しぶりの感触に、ペルシーの血圧は上がるばかりだった。
やはり、ペルシーにはパメラのお仕置きはかなり聞いていたようである。
今度はクリスタを見てレイランが左腕に絡みついてきた。
ペルシーの血圧が更に上る。
(頭がプッツンしないだろうな。ちょっと心配になってきた……)
『パメラ! 聞こえるか? 龍王城の大浴場に来たぞ!』
『ペルシー、もう少し……』
『何がもう少しなんだよ?』
『……』
『まただんまりかよ!』
『でも、パメラの状態は深刻ではなさそうですね』
その時、ペルシーの鼻から血がたら~と流れ出した。
『ペルシー様、どうしたのでございますか?』
レイランの左の胸にペルシーの手の平があてがわれていた――
『殿方はこのようなことをすると喜ぶのだろう。私の胸ならば揉んでもいいのだぞ』
レイランは頬を赤めながらペルシーの顔を見つめた。
しかも、その瞳は潤んでいる。
『レイラン様、何故そのようなことをするのでございますか!』
クリスタは怒ると言葉が普段より丁寧になる……。
『パメラとペルシー殿のシンクロには、このようなことが必要なのではと思いついてな。これは研究者の
『それなら私も!』
今度はクリスタがペルシーの右腕を取り、クリスタの右の胸に押し付けた。
『ど、どうでございますか? ペルシー様』
『ふ、二人とも。冷静になろうよ。今はパメラを復活させることが最優先だろう』
『だからこそ、試しているのではないか』
『そうでございます』
ペルシーの興奮は最高潮に達しつつあるが、パメラからの応答はなかった。
『おかしいな。美女と美少女が二人してペルシー殿を攻めているのに、パメラの反応がない』
『いや、反応はあるよ』
『『えっ!?』』
ヘッドギアが熱くなってきたのだ――
その時、脱衣所が騒がしくなってきた。
どうやら、エルザが浴室に入ろうとしているらしい。
浴室に入ってきたのは、豊満な胸を隠しもせず、下半身にだけ薄衣を纏った四人の女性召使いだった。
この世界の美女率が高すぎるのはどうしたことだろうか?
いずれにせよ、その美女四人は龍神族のようにオーラを纏っていないので、おそらく人間であろう。
その四人の後から、エルザが颯爽と浴室に入ってきた。
もちろん、一糸纏わぬ姿である。
ペルシーは、初めてエルザに逢った時の事を思い出していた。
あの時のエルザは、
それはまるで天使が降臨したかのではないかと、ペルシーは錯覚した。
「……天使?」
『ここは天国か?』
『ペルシー様はまだ死んでおりませんよ。お気を確かに!』
その天使の裸体が目の前にある。
今までなら、このような状況で興奮するだけのペルシーであった……。
ところが、ペルシーの心からは理解できない何かが湧き立ち、それとは裏腹に精神は冷静さを取り戻していった。
「ρσΘ●Λτ◇υφχω」
『エルザ様の回線を開きます』
『どうしたのじゃ? ペルシー殿は言葉が話せなくなったのか?』
『エルザ様。ペルセウス殿の魔法道具が不調なのです。言語変換ができておりません』
『ほう~』
エルザは湯船にゆっくりと浸かると、ペルシーの前に来た。
『それは難儀であるな。ペルセウス殿』
『申し訳ありません』
『謝る必要はないぞよ。それよりも美女を二人も侍らせて、ペルシー殿はいい身分じゃのう』
二人は慌ててペルシーの腕を離し、少しだけ離れた。
今更遅い気もするが――
『エルザ様。あの後、謝罪にも行かず、礼を欠いていたようです』
『それはもうよい。ペルセウス殿の気持ちは分からなくもないからな』
『ありがとうございます』
『ときにペルセウス殿、ジュリアス様は最後になんと言ってたのじゃ。それだけが気がかりなのだ』
そしてエルザはすっと立ち上がり、ペルシーもそれにつられて立ち上がった。
『はい、こう言ってました』
――少年よ。冒険の始まりだ……。
――願わくば女神エレノアの加護があらんことを……。
そしてエルザはこう言った――
『ペルセウス殿は……、誠にジュリアス様の後継者なのだな――』
エルザの瞳からは止め処もなく涙が溢れ出してきた――
『エルザ様……』
ペルシーはエルザを抱きしめられずにはいられなかった。
『俺ではジュリアスさんの代わりになれませんか?』
『ペルセウス殿。あなたはジュリアス様の代わりにはなれなません』
『やっぱり、俺じゃ駄目か……』
エルザは泣きじゃくるばかりで、何も応えなかった。
『ペルセウス様……』
『ペルセウス殿、辛いと思うが……、あなたには私とクリスタがいるぞ』
そして、エルザはやっと応えてくれた。
『私はジュリアス様には愛してもらえませんでした……』
『言葉が浮かびません……』
残念なことに、ペルシーには女性の失恋を慰めるだけの人生経験はなかったのだ。
『ペルセウス様、あなたは……あなた以外には成れません』
エルザはペルシーの目をじっと見つめてこう言った。
『ペルセウス殿は私を……エルザを愛してくれますか?』
『エルザ様……』
『エルザとお呼びくださいませ』
『エルザ……、俺はあなたのことが好きです』
二人は自然に唇を合わせて、抱きしめあった――
そして、レイランとクリスタも一緒になって、四人はお互いの愛と信頼を確かめ合うのだった――
そして、事件が起こった――
『シンクロ率120%!!!』
突然ペルシーのヘッドギアが消えて、四人の前の空間が光か輝き出した。
そして、紅い魔法使いのローブを着た十二歳くらいの美少女が現れたのだ。
「ペルシー様、みなさん。はじめまして、パメラドールなの!」
その少女の髪の毛は水色のセミロングで、瞳は碧色、肌は白く、とてつもないオーラを纏っていた。
「まあ……、もう子供ができてしまいましわ、あなた」
「えっ? エルザ様、そんなに早く子供は生まれないのでは?」
この二人はいったいどんな性教育を受けてきたのだろうか?
「エルザ、レイランさん、キスじゃ子供は生まれないから……」
何れにせよ、問題はそこではない。
パメラドールが人間形態になって復活したことである。
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