第36話 龍王 エルザ パメラ vs ペルセウス
ここは龍王の謁見の間。
最初はレイランが龍王に拝謁することになっていた。
拝謁の間にいるのは、龍王と側近のドロクスの二人だけだった。
レイランが型通りの挨拶を済ませると、龍王はレイランを労った。
「ご苦労だったなレイラン」
「はっ、恐れ入ります」
「それで首尾はどうであったか?」
「ペルセウス殿の監視は完璧とはいえませんでしたが、結論を出すことはできました」
「そうか、詳しく聞こう」
レイランが最初に話したのは、ペルシーが大賢者ジュリアス・フリードではないことだった。
それはペルシーを評価するための大前提になるからだ。
そして、ペルシーが何故ジュリアスの体と能力を有しているのかを説明した。
「ジュリアスは封印されながらもペルセウスを召喚したのか……。執念を感じるな」
「まったくです。ジュリアス様の目的は分かりませんが、千年間もペルセウス殿を探し続けていたようです」
「後継者がペルセウスでなくてはならない理由があったのだろう」
そしてレイランは、ペルシーを監視している最中、彼が絞首刑にされそうになったことを話した。
もし、ペルシーが人族の手先ならば、そのようなことにはならないはずである。
そして、決定的な出来事が起こった。
それは《魔物大戦》である。
ペルシーはその場を逃げることができたのに、逃げなかった。
しかも、そのような仕打ちを受けながらも魔物たちの大半を魔法で倒し、その偉業を誰にも悟られないように隠し続けたのだ。
もし、ペルシーが大魔法を放たなければ、シーラシアの町は滅んでいただろう。
「そこだけ聞くと、ペルセウスはまるで聖人のようではないか」
「はい、その所業だけから判断すると、まさに聖人のそれでございます」
「なんだその物言いは。歯切れが悪いな」
「はっ、ペルセウス殿は少しばかり性格に難があります」
レイランはまだ胸を揉まれた件について、
「わっはっはっ。完璧な者などこの世におらぬわ!」
「御意」
「よかろう。それは我が直接判断しよう。それで、レイランの結論は?」
「ペルセウス殿は時空魔法を使うことができますが、今のところ人族からは自由の身です。エルザ様を襲う理由はまったくありません」
「つまり、犯人ではないということか。それはそれで、さらに問題が難しくなったな」
「時空魔法の使い手を、一から捜さなくてはなりません」
「それはレイランに任せる。そちほど魔法に長けたものは龍神族にはおらんからな」
「はっ、お任せください」
「それともう一つ問題があるな。魔王大戦が勃発した原因については別途調査が必要だ」
はじまりの大陸に居を構える龍神族にとっても、魔物が
龍神族としては、いずれ対処する必要があるだろう。
「レイラン、下がってよい。いや待て……。そのまま同席するように」
「はっ!」
次に呼ばれたのはペルシーである。
緊張で顔が強張っているが、本人にその自覚はなさそうだった。
最初に口を開いたのは龍王ではなく側近のドロクスだった。
「ペルセウス殿。陛下の御前であるぞ。そのヘルムを外しなさい」
「これは申し訳ありません。しかし、これは呪いのヘルムでして、外すことができないのでございます」
その時ペルシーは「ブチッ」という、何かが切れる音を聞いた気がした。
『ペルシーはパメラを呪いのヘルムと言った。あとでお仕置きをする』
『パメラ、ごめん。許して……』
「呪いのヘルムとな!」
「ドロクス、構わぬ。そのままでよい」
ドロクスは敬々しく頭を下げると一歩下がった。
「龍王様、お初にお目にかかります。ペルセウス・ベータ・アルゴルでございます」
「ペルセウス、面を上げてよいぞ」
「はっ」
「お初と申したか。我とジュリアスは義兄弟の仲ではないか」
(なるほど、義兄弟だったのか……)
エルザがペルシーを『おじ様』と呼ぶ理由がやっと判った。
「あ、あの……。申し上げにくいのですが、俺はジュリアスではありません」
「くっくっくっ……。知っておるぞペルセウス。気に病むことはない。その場の勢いで嘘を吐いてしまったのであろう」
「お見通しでしたか……」
胸を撫で下ろすペルシーであった――。
「ところで御主は魔物たちの大半を屠ったそうだな」
「はい。幻想魔法で殲滅いたしました」
「レイラン、相違ないか?」
「はい、相違ありません。あれ程の魔法は見たことがありませんでした」
「レイランがいうのだからそうなのだろう。ところで、幻想魔法というとジュリアスの魔法だったな」
「俺は大賢者ジュリアスのすべての能力を継承しましたから、幻想魔法も使うことができます」
「当然だが、時空魔法も使えるわけだな」
「もちろんです」
「エルザを襲った犯人は時空魔法を使ったそうだが」
「時空魔法の使い手は、俺しか確認されていないようですね。でも、俺はエルザ様を襲ったりしてません」
「心当たりはないか?」
「ギルティックという犯罪秘密結社がございます。おそらくその中に時空魔法使いがいるのではないかと考えています」
「ほお、ギルティックとな。もし、エルザを襲った犯人を見つけた時は報せてくれぬか?」
「もちろん、お報せいたします」
ペルシーはこれで難関を突破したと思い一安心したが、忘れていることがあった。
「ドロクス。エルザをここへ」
「畏まりましてございます」
『あっ、どうしよう……。ひょっとして詰んだ?』
『ペルシー、爆死するがよい』
『パメラ、勘弁してよ』
ドロクスが退席するとすぐにエルザが現れた。
隣の部屋で待っていたようだ。
「エルザ、ペルセウスとは顔見知りだったな」
「もちろんでございます」
エルザは心配そうにペルシーを見つめている。
そんな仕草も愛おしく感じるほどヘルザは美少女なのである。
「ペルセウスよ。何か言いたいことがあるのだろう?」
(そういうことか……)
「エルザ様。俺は大賢者ジュリアス・フリードではありません」
ペルシーは自分がジュリアスに召喚された経緯をエルザに説明した。
その間、エルザは両手を胸の前で結んで、何かに耐えるように震えていた。
「……というわけで、ジュリアス様は既にこの世にいないのでございます」
ペルシーの話が終わると、エルザはペルシーに近寄り、抱きついた。
そして、泣き出した――。
『心が痛い……』
『ペルシー、抱きしめてあげて』
ペルシーが軽く抱きしめると、エルザは我に返り、ペルシーの元を離れた。
「ペルセウスとやら。ジュリアス様の願いは何だったのか?」
エルザはすでに泣いてはいなかった――。
それどころか毅然とした態度を示した。
「ジュリアス様の願いは、この世界の何処かに封印されている聖女ペネローペを救い出すことです」
「聖女ペネローペ……」
「なにか心当たりでもあるのでしょうか?」
「
ピラミッド神殿とは古代魔法文明の魔法研究所が各大陸に設置したという、マナを収集するための施設である。
その施設には結界が張られていて、見つけ出すことも、近寄ることも困難だったようだ。
だから、エルザはピラミッド神殿に封印されていたジュリアスを見つけ出すことができなかった。
近くまで来ていたのに――。
そこで、例の時空魔法使いに襲撃されたわけだ。
「ピラミッド神殿は大陸に必ず一つは存在しているはずである。その中のどれかに聖女ペネローペが封印されているという噂を聞いたことはある」
「ありがとうございます。今まで何の手がかりもなかったものですから」
「ジュリアス様は何故聖女ペネローペを助け出すためにそなたを召喚したのだ?」
「俺が召喚されたのは、俺しかジュリアスさんの波長に合わなかったからです。波長が合わないと能力の継承はできません。そして、彼の願いの理由は……」
空気を読めないペルシーでも、それを言うことは
しかし、今度は本当のことを言わなければならない――。
「聖女ペネローペのことを愛していたからです」
エルザには判っていたようだ。
「そうであったか」
エルザがその言葉を残して退席しようとした時である。
「エルザ様、お待ち下さい」
「なんですかレイラン?」
「ペルセウス殿の身柄はレイランが貰い受けてもよろしいでしょうか?」
「どうしてそのようなことを妾に聞くのだ?」
「ペルセウス殿には聖女様を探し出すという役割があります。その傍ら、私の魔法研究のパートナーになってもらうつもりでございます」
「レイラン、好きにするがよい」
「はっ」
レイランとしては言質が取れたので、エルザに気を使わずとも堂々とペルシーを使うことができる。
そういうことだろう。
「ペルセウスよ。今後はとはレイランと共に尽力してくれ」
「御意に」
何故か龍王の手下のようになってしまったペルシーであるが、後ろ盾ができたともいえる。
今後、ペルシーは孤立無援にはならないということだ。
「レイラン、ペルセウス。下がってよい」
「「はっ!」」
ペルシーは先程の応接室に戻り、クリスタと一緒にお茶を飲んでいた。
先程の緊張感から解き放たれて、ペルシーは呆けた顔をしている。
「ペルシー様、なんだかだらし無い顔になっているのです」
「まじで疲れたよ。精神的にね」
『ペルシーはパメラのことを呪いのヘルムだと言った。お仕置きをする』
「パメラ、まだ根に持っているのか? ああでも言わなければ、パメラを外さなくちゃならなかっただろう」
『もう少し、パメラにも気を使ってほしい』
「ごめんなさい。今後気をつけます……」
『よろしい。でも、お仕置きはする』
「何だよ、そのお仕置きって」
『今後一週間、クリスタの胸を揉んではいけない』
「な、何を言うのですか、パメラちゃん!」
『クリスタは揉んでほしいの?』
「あっ、いつもと逆ですね。問題ありません」
「それってお仕置きなのか? 今までクリスタの胸を揉んだことはないぞ」
『クリスタの胸の感触は、ペルシーの背中とか胸とか右腕とかが知っている』
「具体的だな」
『ペルシーはいつでもクリスタの胸を揉めると思っていた。パメラが勧めたし』
「そ、そんなこと思ってないぞ……」
『それが急に揉めなくなった……。その切なさを味わうがよい』
「パメラ、口調が可怪しいぞ。龍王の口調が伝染ったのか?」
この時は余裕だったペルシーであるが、毎日クリスタの揺れる胸を見ては悶々することになるのは言うまでもない。
パメラ、恐ろしい子――。
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