第35話 仲間になったレイラン

 龍王城はドラゴニア山の龍神家の谷にある。

 その入り口は谷の中腹にあるため、見つけるのは容易ではない。


 ペルシーたちを乗せたレイランは、その発着場に降り立った。


「すごく険しい谷だな。人間がここに来るのは至難の業だだろうな」


 レイランはペルシーたちを下ろすと、すぐに人間形態に切り替わった。


「未だかつて人間が龍神家の谷に到達したことはない」


 レイランは誇らしげに応えた。


 そもそも人間は龍神族を恐れてドラゴニア山には近づかない。人間が近づくのは、龍神山脈の最北にある鉱山だけだ。

 その鉱山を発見した人間はかなりの勇者だと言えよう。


「ペルセウス殿、応接室に案内しよう」

「お願いする」


 応接室へ向かう通路の一部は、中型の龍がそのまま通れるほどの広さがあった。

 しかし、城の中はほとんどが人間サイズに造られていた。


 通路の装飾は質素でありながら、洗練された美しさを持っていた。まるで、一流の芸術家がしつらえてたようだ。


「この城を造ったのは龍神族なのか?」

「おそらく、人間の城塞建築家を連れてきて造ったのではないでしょうか?」

「人間が単独でドラゴニア山に来ることはできないが、建築家や大工を連れてくることはできるからな」

「でも、そんな話は聞いたことがないのでございます」

『城を作った後に食べられたのかも知れない』

「パメラちゃん、怖いことは言わないで……」

「レイランさん、この城を造ったのは誰?」

「この城はドワーフの職人たちに頼んで造ってもらったものだ。およそ百年ほど前のことだ」

「ドワーフなのですか。その職人たちはどうなったのでございますか?」

「報酬を渡して帰ってもらったが……、どうかしたか?」

「いえ、なんでもございません」


 城を造ったのはドワーフだったようだ。

 この世界にドワーフがいることをペルシーは初めて知った。


「この世界にはドワーフがいるのか! 会ってみたいな~」

「ペルシー様、ドワーフなら普通にいるのですよ」

「それじゃあ、エルフもいるのか?」

「私が言うのもなんですが、エルフもいますよ」


 たしかに、光の妖精がいるくらいだから、エルフがいても不思議はないだろう。

 さすが異世界だ――。


 そうこうしている間に、長い通路は終わって、応接間に入った。

 レイランに促されてソファに座ると、メイドたちがお茶を用意してくれた。


「メイドさんも龍神族なんだよな?」

「龍神族もいるし、人間のメイドいるぞ」

「龍神族って、人間に恐れられているんじゃないのか?」

「ほとんどの人間に恐れられている。それは意図して噂を流しているからだ」

「よくバレないものだな」

「ここで働く人間の召使いたちは、身寄りのない人間を勧誘して来てもらっている。守秘義務を課しているが、それに見合った高給も出しているぞ」

「龍神族って、けっこう人間界に馴染んでるんだな。龍神族は侮れない」

「ペルセウス殿もここで働くとよい。私が雇うことにしよう」

「それは魅力的な提案だが、俺は旅をしてみたいし、やるべきことがあるからな……」

「そうなのか。事情を聞かせてくれないか?」


 ペルシーがやるべき優先事項は、この世界のどこかに封印されている聖女ペネローペを救い出すことだ。彼女しかペルシーを地球へ帰還させる方法を知らないからだ。

 途中で魔法学園に入学するという約束をさせられてしまったが、何年かかってもやり遂げなければならない。


 その目的を達成するためには、レイランのような研究思考の賢者が、ペルシーにとっては好都合なのである。


『レイランさんには仲間になってもらうか?』

『事情を話してみては如何でございましょうか?』

『ペルシー、パメラもレイランに話したほうがいいと思う』

『そうだな。そうしよう……』


(よし、ダメ元だ!)


「レイランさん。俺が抱えている問題について話すよ」


 レイランはペルシーがジュリアスの体に憑依していることを知っている。

 しかし、ジュリアスの、そしてペルシーの願いを知らない。

 ペルシーは、そのすべてをレイランに話した。


「なるほど……。ジュリアス様の恋人が聖女ペネローペで、今でもどこかに封印されているのか。そして、ジュリアス様に彼女を救い出すように頼まれていると」


 レイランは考え込んいる様子だった。


「それならば私が協力できることもありそうだ」


 このような超絶美人のレイランに仲間になってくれと頼むのは、社畜歴の長いペルシーにとってはかなりハードルが高いことなのだ。

 だが、ペルシーは意を決してその言葉を発した――。


「もしよければ、俺たちの仲間になってくれないか?」


 もし断られたら、女性に振られたような錯覚に陥るかもしれない……。


「……そうだな」

「レイランさん?」

「私がペルセウス殿の頼みを断るはずないだろう」


 ペルシーは心の中でガッツポーズをしたのは言うまでもない。


『ペルシー、可愛い』

『だから俺の心の中を覗くなって』


 そしてレイランは何故か顔を赤らめながらボソッと言った。


「深い仲だしな……」

「あの……レイランさん……」

「ペルセウス殿、こちらからも頼みがある」


 レイランは切れ長の目を見開いてペルシーを睨んだ。


「この世界が得体の知れない危機に巻き込まれていることは知っているだろうか?」

「それは千年前に起こった異次元との衝突のことか?」

「異次元との衝突? それが何のことかさっぱりわからないが、一緒に原因を探求してくれないか」

「いずれにせよ、俺は聖女を救い出した後、その原因を探るつもりだった。もちろん協力するよ」

「良かった。異次元との衝突のことを詳しく教えてほしい」

「ああ、旅は長いからな。時間はいくらでもあるさ」

「そうだな……」


 レイランは改めてペルシーに向き直った。


「ペルセウス殿、これからの人生を一緒に歩もう――」

「それはちょっと、勘違いしそうだな……」

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