第34話 飛竜たちとの戦い

 ペルシー、クリスタ、そしてレイランの三人は、東門の外にある広大な草原に来ていた。

 レイランが龍形態にスイッチして、ペルシーとクリスタの二人を龍王城まで運んでくれるからだ。


「シーラシアの町の人たちは復興で大忙しだから、今日はこの草原に来ることはないだろう。龍形態に切り替わるには好都合だ」

「龍神族が人の中に紛れ込むのも大変ですね」

「判ってくれるか、クリスタ」

「もちろんなのす。レイランさんは賢者の称号をお持ちとか。魔法学園で学んだということなのですよね?」

「ああ、そうだよ。あの時は魔法習得に集中するのが大変だった」

「それは何故でございますか?」

「人間のオスどころか、メスまでもが寄ってきたからだ」


 レイランは男装の麗人スタイルで魔法学園に通ったのだろう。

 人気が出ても不思議はない。


「それはレイランさんがかっこいいからでございます」

「そういうものか?」

「そういうものなのです」

「レイランさんが男装を止めたら女性は寄り付かなくなるかもしれないな」

「ペルシー様、それでも無理だと思うのです。内面から女性を惹きつける魅力が溢れているのです」

「そうか……。人間というのは不思議な生き物だな……」


 話しながら歩いているうちに、シーラシアの東門から十分に離れたところまで来た。


「この辺りでいいだろう」


 レイランは人間形態から、龍形態に体を切り替えた。


「うわ~、すげ~」

「かっこいいのでございます~」


 ペルシーたちは、漆黒の龍の美しさに思わず感嘆の声を上げた。


「エルザの龍形態よりも大きいみたいだな」

「一回りくらい大きいかもしれませんね」

「ところでレイランは龍の姿になると話ができないんじゃないか?」

「そうですね。それでは妖精通信を複数回線で繋ぐことにします」

「それはクリスタとパメラと俺で話をするときのあれか?」

「いえ、パメラはペルシー様の回線に割り込むことができるので、いつもは私とペルシー様の一対一の通信なんですよ」

『パメラはペルシーと一心同体だから』

「なるほどね」

「それでは回線を開きます」

『レイランさん、聞こえますか? クリスタです』

『おお、びっくりした。クリスタか。いきなり頭の中に入ってくるとは』

『驚かしてごめんなさいなのです』

『レイランさん、はじめまして。私はパメラドール』

『パメラドール……。ああ、魔法AIの?』

『そう。ペルシーの下僕の』

『それでパメラはどこにいるのだ?』

『ペルシーの体の中』

『パメラ、変なこと言うなよ。レイランさん、俺の被っているヘッドギアがパメラの本体なんだ』

『ヘッドギア? ああ、その頭部に被っているものか。それは魔法道具の一種か?』

『一般的な魔法道具とパメラを比較することはできない。ある意味、人間を超えているからね』

『ペルシー、パメラを褒めてくれたご褒美にクリスタの胸を揉んでもいい』

『バ、バカなことを言うのではありません! パメラちゃん!』

『ほお、聞き捨てならんな、ペルシー殿。どこぞの貴族でもあるまいし、召使いを性奴隷のように扱ってはいないだろうな』

『俺は貴族じゃないし、そんなことしない。それに、レイランさんの胸しか揉んだことないし』

『そ、そうなのか。私が初めての女なのだな……』

『えっ……それって、意味が違うだろ』

『ペルシー、責任をとらないでいいの?』

『みなさん! そろそろ出発するのです!?』


 何故か怒り出したクリスタの号令で、出発することになった。


 ペルシーたちはレイラン龍の首に縄を巻き付け、背中に乗った。

 ペウセウスがその縄を持ち、クリスタは必然的にペルシーを後ろから抱きしめる形になった。


『準備はいいか?』

『いつでもいいぞ、レイランさん』


 レイランは翼を動かすと、ゆっくりと上昇しはじめた。

 龍は翼の力だけで飛ぶのではない。

 浮遊するのはむしろ魔法の力である。

 上空の風を捉えた後は、翼を使って姿勢を制御するのだ。


 その後レイランはぐんぐん上昇していき、ついには雲を突き抜けた。

 普通の綿雲の上だから、高度は二千メートルには達していないはずだ。


『雲の上まで来たぞ。クリスタはこの高さまで飛んだことはあるのか?』

『滅多なことではこんなに高く飛びませんよ。風に逆らうだけの力がありませんから』

『レイランさん、もっと高く上がるのか?』

『いや、この辺にしておこう。これ以上高度をとると、気温の低下が激しくなるからな』


 シーラシアの町は既に視界の彼方で小さくなってしまった。

 もうすぐ龍神山脈の東側に差し掛かるはずである。

 眼下には広大な森が見えている。おそらく《はじまりの森》だろう。


『ペルシー様、前方から何か来るのです』

『あれは飛竜のようだな。奴らは龍神族に手を出すことはないから心配するな』


 ペルシーからは十五匹くらいの飛竜が数キロ先に確認できた。

 こちらに向かってくるような気がするが、本当に大丈夫なんだろうか?


『このままやり過ごすぞ』


 レイランは進路を飛竜の脇を通るコースに変更した。

 このまま上昇してもいいのだが、これ以上高くなると空気が薄くなるし、気温が下がるので、ペルシーたちには辛くなるからだ。


 そのまま飛竜たちが通り過ぎればよかったのだが、奴らは進路を変えてペルシーたちを追いかけてきた。


『このまま通り過ぎればいいものを』


 次の瞬間、飛竜たちは火の玉を放ちはじめた。

 飛竜のブレスはファイアーボールと同じ性質のものらしい。


『レイランさん攻撃してくるぞ。反撃してもいいか?』

『ああ、頼んだ。まったく、下等生物が』


 飛竜のブレスはこの高度だと空気が薄いので、かなり威力が落ちているし、そもそも旋回しながら飛んでいるレイランにはまったく当たりそうもない。


『パメラ、アイスニードルを大量に御見舞してやろう!』

『準備はできている』

『クリスタは残りを頼む』

『了解したのです』

『アイスニードル・バースト!』


 飛竜たちの前に、アイスニードルが壁のように出現したかと思うと、一気に加速した。

 放たれたアイスニードルは虹色に変化しながら飛竜たちを襲った。


 アイスニードルの威力は弱いが、大量のアイスニードルを受けた飛竜は、翼がぼろぼろになり、次々と落下していった。


 それでも後方にいた二匹の飛竜が生き残った。

 今度はクリスタの番である。


『光子キャノン!』


 クリスタは光る大砲を出現させ、二匹の飛竜に光子砲弾を発射した。

 光る砲弾は凄まじい速さで二匹の飛竜の頭部に直撃し、吹き飛ばした。

 いつもの光子ライフルと比べると、光子キャノンは相当威力が高そうだ。


『二人とも、見事な魔法だったな』

『パメラも褒めて』

『もちろんパメラもだ』

『むふ~』

『それにしても、飛竜が私を攻撃してくるとは妙だな……』

『今まではどうだった?』

『全く無かったわけではないが、集団で襲ってきたことはないと思う』


 その後、飛行は順調に続き、ペルシー達は龍王城の上空までやって来ることができた。

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