第33話 龍神城へ

 ペルシーとレイランの話が終わったので、龍王に会いに行くことになったのだが、その前に今後の打ち合わせをしなければならない人達がいる。

 その相手というのはレベッカたちだ。


 どやら冒険者ギルドにいるようなので、みんなで行くことになった。

 絞首刑にされそうになって醜態を晒してしまったペルシーとしては、冒険者たちと顔を合わせたくないところだ。


「なんだか憂鬱なんだけど……」

「ペルシー様は気にし過ぎなのでございます」

『あれはアスターテが全面的に悪い。ペルシーは堂々としていればいい』

「ありがとう、二人とも」

「ペルシー殿は何故あそこまで律儀に絞首刑を受け入れたのだろう?」


 レイランのような龍神族からすれば、人間は従わせる対象であって、従う対象ではない。

 わざわざ人間ごときの裁きを受け入れることなど、龍神族としての矜持が許さないだろう。


「いや、受け入れたわけじゃなんだが……」

「と言うと?」

「あの騒ぎに乗じて、死んだ振りして逃げ出そうと画策していたんだよ」

「他に方法はなかったのだろうか? 情けないぞ」

「面目ない……」

「そんなことではエルザ様を嫁がせる訳にはいかないな……。いや、ペルセウス殿はジュリアス様ではないのだから、その話はないか」

「も、もちろん、そうなるな」

「それもそうだな。その代わりと言っては何だが、私がペルセウス殿を婿にもらうことにしよう」

「えっ、どうしてそうなるの?」

「もう、深い中ではないか……」


 レイランは顔を赤くしてペルシーを見つめている。


(超絶美人に見つめられるとすごく緊張する……)


「いつ深い中になったっけ?」

「それを私から言わせるのか? 裸を見られたり、乳を……まさぐられたりした……」

『こうやって聞いてみると、ペルシーって鬼畜?』

『いや、最初のはレイランさんが大胆なだけだし、最後のは事故だろ……』

「ペルセウス殿、私のことは嫌いか?」

「そ、そうではないが……」


(蟻地獄に嵌った蟻のような気分だ……)


 痴話喧嘩? をしているうちに、冒険者ギルド本部のある町の中心部に到着した。

 すると、ギルド本部の前が騒がしいことがわかった。


「どうやら昨日の魔物大戦で怪我した人たちの臨時病院のようになっているようだな」

「おそらく、裏手にある訓練場に怪我人が収容されているのございましょう」

「レビィ―達は来てるだろうか?」


 ペルシーたちが冒険者ギルド本部に入ると、一斉に注目がペルシーに集まった。


「ペルシーさん! ご無事でしたか」


 冒険者ギルド職員のエステルさんだった。


「ああ、でも、危なく絞首刑になるところだった」

「無罪放免で、よかったですね」

「デラウェア卿のお陰だ」


 死刑執行の許可を出したのもデラウェア卿なんだが、ペルシーとしては大人の対応をした方がいいだろう。

 それに、デラウェア卿は自分の死を賭してシーラシアの町の未来を守ろうとしたのだ。


「そこでちょっと相談なんだけど」


 エステルはペルシーを隅に連れ出して小声でこう言った。


「あの約束なんだけど、そうする?」


 ペルシーは一瞬なんのことか分からなかったが、ペルシーが魔物大戦に参加すればエステルさんが大人の女性としていいことをしてくれると、ペルシーに約束したことを思いだした。


「俺は魔物大戦に参加できなかったから、律儀に約束を守る必要ないぞ」


 ちょっと残念なペルシーであったが、女難の相が出まくっているので、これ以上難題を抱え込みたくなかった。


「それもそうね……」


 エステルさんが微妙な表情をペルシーに向けたが、ペルシーはスルーするしかなかった。


「ところで、レビィ―達がどこにいるか知らないか?」

「私が呼んできます。話があるのならギルドの会議室を使ってください」


 どうやら怪我人の収容や治療は済んでいるらしく、忙しくはないらしい。

 ペルシーたちがギルドの会議室で待っていると、すぐにレベッカとエミリア姫がやって来た。

 ミゲルさんは騎士隊の仕事があるので、来ることはできないらしい。


「ペルシーさん、お待ちしてましたよ」

「ペルちゃん、元気~」


 魔物大戦の後だというのに、二人とも元気いっぱいだった。

 《はじまりの森》の強行軍でかなり体力がついたんだろう。


「これから俺たちはレビィ―達と別行動になるので、今後の予定を聞きに来た」

「私たちは三ヶ国同盟に今回の顛末を報告する必要があるから、たしかに別行動ね。それに私はガンダーラ王国に一旦帰国しなければならないので、ペルちゃんとはしばらく会えないわ」


 ガンダーラ王国はルーテシア大陸の東にあり、ペルシーが入学する予定の魔法学園があるロマニア法国は西側にある。

 一旦別れたら、次回会うにはそれなりの時間がかかることだろう。


「それは残念だな。でも、ガンダーラ王国には遊びに行くつもりだ」

「約束よ、ペルちゃん」

「ああ、もちろんだ」


 綺麗なお姉さんと別れるのは残念だが、エミリーは一国の姫なのだ。

 公務が控えているに違いない。

 立場も違うし、一旦別れたら暫くは会えないだろう。


「魔法学園の入学の話をしたいのですが……。いいですか?」

「そうだな。ロマニア法国のどこへ行けばいいのだろう?」

「首都のドワーナにある私の家に来てください。入学試験が一ヶ月後にあります」

「一ヶ月でたどり着けるものなのか?」

「ペルシーさん達なら楽勝です」


 ペルシーはこれから龍王のところへ行かなければならない。

 そこで時間を取られると、一ヶ月は余裕がなさ過ぎる気がする。


「入学の準備は? 試験もあると聞いているが?」

「入学の準備は私の方でしておきます。試験は自称魔法研究家のペルシーさんならば、問題ありませんよ」

「自称はよけいだけれど、まあ大丈夫だろう。ただし、一般常識は期待できないが……」

「えっ……。でも、魔法学園の入学試験は一般常識に関する問題はでないので、たぶん大丈夫だと思いますよ……」

「レビィ―は案外楽観的なんだな」

「そんなことありませんよ。ペルシーさんのことを信じているだけです」

「あまり期待しないほうがいいと思うぞ」

「すごく期待してます」

「……」


 レベッカ達との話も一通り済んだので、今度はギルド長に会いに行こうとしたら、別れ際にエミリア姫に抱きつかれた。

 その時エミリア姫は「充電しなくちゃ」と言っていたが、これもスルーするしかない。


「よお! ルーキー! 助かってよかったな」

「ギルド長! 元気そうだな」

「実はそうでもないんだよ」

「それはどうして?」

「魔物たちを半壊させた流星を見たか?」

「もちろん見たよ。絞首刑台の上からでもはっきりと見えたからな」

「あれが何なのか、誰がやったのかが分からなくてな」

「あれは人が放てる魔法ではないはずだ」

「というと?」

「龍神族の魔法ではないかと推測している。龍神山脈が近いしな」

「なるほど。断定はできないが、可能性としてはありそうだな」

「ああ、ありそうだ」


 ギルド長のディオンはペルシーのでまかせに納得したのか、喜々として事務所へ戻っていった。

 どこかへ報告しなければならないのだろう。

 あの魔法を発動した者を特定できないにしても可能性くらいは示さないと、報告書として形にならない――。


「ペルセウス殿」

「何かな? レイランさん」

「あれは龍神族の魔法ではないぞ」

「まあ、いいだろう。そう思い込ませておけば」

「そうかもしれないが、あれはもっと神に近い存在の魔法だと思う」

「何か心当たりでも?」

「たとえば、精霊王とか……」

「精霊王というと、ガンダーラ王国の守り神か」

「その精霊王だ。ただし、精霊王が積極的に人間界に働きかけたことはないんだ」


 レイランは、ペルシーが《ペルセウス座流星群》を放ったところを目撃していなかったことがはっきりとした。

 いずれバレるなら、今本当のことを言ったほうがいいだろうと、ペルシーは考えていた。


「レイランさん、あの魔法は俺が放った魔法なんだ」

「な、なんだって!」


 レイランは、あの魔法を龍神族以上の存在、もっと神に近い存在の魔法だと考えていた。驚くのも無理はないだろう。


「そ、それは本当か?」

「ああ、本当だ」

「レイランさん、あの魔法はたしかにペルシー様が放った魔法でございます」

「クリスタまで……。そうだったのか……」


 クリスタの発言で、やっと信じてもらえたようだった。


「ということは、あの魔法もジュリアス様の魔法ということなのか?」

「いや、あの魔法は俺のオリジナルだよ」

『ペルシーとパメラのオリジナルでしょ』


 パメラからクレームがあったのは当然だろう。

 幻想魔法のイメージを作り出しているのはペルシーだが、それを実現しているのはパメラドールなのだ。


「あっ、訂正。魔法AIのパメラドールと俺のオリジナルだ」

「魔法AIのパメラドール……」


 龍神族でありながら賢者の称号を持つレイランは、魔法に関してはかなり研究しているようだが、魔法AIのことについては知らないらしい。

 しきりに首を傾げている。


「いずれにせよ、魔法の創造もできるのか?」

「幻想魔法と言って、物事を理解すればイメージするだけでいろんな現象を起こせる。昨日魔物たちを半壊させた魔法は《ペルセウス座流星群》という幻想魔法だ」

「やはり……」

「えっ、なに?」

「わ、私のパートナーになって欲しい……ペルセウス殿」

「魔法の共同研究者ってこと? 断る理由はないが、その時間があるだろうか?」

「時間は充分にあるから大丈夫だ。そ、それに……」


 女性に好意を持たれることに慣れていないペルシーとしては、この気まずい雰囲気に耐えられない。

 しかし、彼できることは、情けないことだが、スルーだ……。


「話は変わるけど、龍王のところはどうやって行ったらいいんだろう?」

「わたしの背に乗っていけばいい。そうすれば一気に龍神城まで行ける」


「そいつは凄いな」


 レイランとの話は有耶無耶になったが、これから龍王城に行かななければならない。

 龍王に会えば、この世界の危機の性質やジュリアスの過去も分かるかもしれない。

 ペルシーとしては、その辺りの謎が解けることに期待するべきだろう。

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