第32話 時空魔法の使い手が存在する可能性
ペルシーとレイランのふたりは、他の三人をラウンジに残してペルシーの部屋にやって来た。
ペルシー、クリスタ、そしてパメラは、妖精通信が使えるので、この程度の距離なら会話することができる。
つまり、三人は一緒にいるのと同じなのだ。
「レイランさん、お茶はどう?」
「そうだな。いただこう」
ペルシーはお茶の用意をしながら考えていた。
(ジュリアス・フリードのことはどうやって説明しようか……)
「今日はエルザとこの町で落ち合う約束の日なんだけど、予定通り来るのかな?」
「いや、エルザ様は来ない。ペルセウス殿がエルザ様を襲った犯人かもしれなかったからだ」
「なるほど、エルザは命を狙われていた可能性もあるからね」
「おそらく、エルザ様は拉致されそうになったのだと思う」
「どうしてそう思うんだ?」
「時空魔法を駆使すれば、エルザ様を殺害することは可能だったろう」
あの時、その犯人が猛毒を塗ったナイフをエルザの肩ではなく首筋に突き立てていたら……。
たしかに、そのタイミングならエルザを殺すことは可能だったかもしれない。
「時空魔法か……。その犯人なら心当たりがあるぞ。と言っても、直接見たわけじゃないけどね」
「説明してくれ」
それは《はじまりの森》を出たすぐのことだった。
ペルシーとクリスタは、三ヶ国合同調査隊のミゲル、エミリア、レベッカの三人と一緒にいた時、その犯人らしき者たちに襲われたのだ。
「戦ったのか?」
「そうだ。俺は雷魔法で三人を仕留めたが、何人かは逃げたようだった」
「追跡はできなかったのか?」
「その時、情けないことに砂漠の地下にある洞窟に落ちてね。すぐに脱出したんだけれど、探知できなかった」
「ペルセウス殿の探知範囲はどのくらいだ?」
「俺もクリスタも数十キロ以上の広範囲で探知が可能だ。それに二人の探知魔法は種類が違うので、どちらかの魔法で探知できても良さそうなものなのに」
「時空魔法で異次元に逃げたか、あるいは転移したかのどちらかだな」
「あの時は土魔法で地下に潜ったのだと……。時空魔法のことなどまったく考えていなかったよ。でも、本当に時空魔法なのか?」
「今のところ状況証拠しかないが、それ以外では説明がつかない」
ペルシーはレベッカの話を聞いて、この世界には自分以外に時空魔法を使える人間はいないはずだと思いこんでいたのだ。
「もし俺以外に時空魔法を使う者がいて、しかもそいつが敵だったら、厄介な事この上ないな」
「人間同士が殺し合う分には高みの見物なんだが、今回はエルザ様が襲われたのだ。我々龍神族としては看過するわけにはいかない」
ペルシーとしては、クリスタやパメラと一緒なら、この世界の旅はお気楽なものだと思っていた。
しかし、思わぬ強敵が存在する可能性が出てきた。
これからの旅は慎重に行動する必要があるだろう
「それで我々は、その件については協力し合うということでいいのか?」
「その前に、確かめなくてはいけないことがある」
ペルシーが心配していたことがついに来た……。
「あなたは、ジュリアス・フリード様ではないな」
「どうしてそう思うんだ?」
「いくら記憶を失っているからと言って、その人の醸し出す雰囲気まで変わるとは思えな
いからだ」
「それに対する反論はあるけど、たしかに俺はジュリアス・フリードではない」
「その姿形はどうしたのだ」
「おれはジュリアスに地球という世界から呼び寄せられて、ジュリアスの体に
「なんだと!」
「ジュリアスは千年間も俺を捜し続けたらしい。そして、ジュリアスの能力のすべてを俺が譲り受けた」
「そうか……。それならば納得がいく。それでペルセウス殿がジュリアス様と同等の能力を持っていたのか……」
「エルザにはつい嘘をついてしまった。悪かったと思っているよ」
ペルシーはあの時、エルザの一途な目を見て本当のことが言えなかったのだ。
しかし、今となってはエルザを余計に傷つけることになるかもしれない――。
「龍王様のところへ行こう」
「えっ!?」
「当然だろう。そしてエルザ様に心から謝罪することだ」
「もちろん、謝罪はするけど……。殺されたりしないかな?」
「さあ、それはどうだろう?」
『ペルシー、短い付き合いだった』
『パメラ、冗談にならないぞ!』
『ペルシー様、可哀想でございます』
『クリスタまで……』
ペルシーはレベッカと魔法学園に入学する約束をしている。
その件について今後どうするのか打ち合わせをする必要がある。
そして、シーラシアの町を出て行くにしても、デラウェア卿に挨拶をした方がいいだろう。
龍王のところへ行くのは、その後だとペルシーは考えていた。
しかし、それはただ単に嫌なことを後回しにしたいという無意識のあらわれでもあったのだ――。
『ペルシー、お別れする前にクリスタを好きにしてもいい』
『パメラ! 何を言うのですか!』
『でも、ペルシーとは最後のお別れになるかもしれない。クリスタはそれでもいいの?』
『そ、それは……』
『クリスタ、悩まなくてもいいぞ。俺はお前を残して死んだりしない』
『ペルシー様!』
クリスタはいつの間にかペルシーの部屋にやって来ていた。
そして、ペルシーの胸に飛び込んだ――。
「ペルシー様! 死んじゃいや!」
「クリスタ……」
ペルシーはクリスタを抱きしめながら、経験したことのない幸福感を味わっていた。
今まで、こんなに人から想われたことがあっただろうか?
「死にたくない……」
そこでレイランが高らかに笑いはじめた。
「はっはっはっ! ペルセウス殿。心配無用! 龍王様はそんなに心の狭い方ではない!」
レイランにしてやられたようだった……。
「ペルセウス殿には少しだけ仕返しをしたくてな。申し訳ない、悪ふざけが過ぎた」
「レイランさん、一時はどうなるかと思ったよ……」
「それで、いつまでクリスタを抱きしめているのだ?」
『ペルシーのエッチ!』
『おいっ!』
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