第31話 レイランの結論
ペルシーはさすがに疲れたので、魔物大戦があった夜はすぐに寝てしまった。
次の日に起きたのは日が真上に差し掛かろうとしてた時である。
「朝か……」
横向きに寝ていたペルシーの背中に何やら柔らかいものが……。
『この感触はクリスタだな。間違いない……』
最近ペルシーは、クリスタの胸の感触がわかるようになってきたようだ。
クリスタは、いつもはメイド部屋で寝るのだが、昨夜は疲れてペルシーのベッドに一緒に倒れ込んでしまったらしい。
だが、問題はそれではない。
ペルシーの右手には別の柔らかいものが……、揉み揉み……。
「いや~ん……。ぐ~」
『レ、レイランさんじゃないの!? やばい、殺される!』
昨夜はレイランが寝る部屋を決めないまま寝てしまったので、ペルシーのベッドに潜り込んだのかもしれない。
「レイランさんは意外と気にしない性格なんだな。まあ、大浴場でも大胆だったし」
『ペルシー、レイランの胸の揉み心地はどう?』
ペルシーは再び右手で……。
「でかいのに弾力があって……、気持ちいい」
『ペルシーのエッチ』
「パメラがやれって言ったんだろう?」
『パメラは聞いただけ。やれとは言っていない』
「た、たしかに……」
そのとき、レイランの目がぱっちりと開いた。
横で大騒ぎをしていたのだ。
起きて当然だろう――。
ペルシーはそ~と右手をレイランの胸から離した。
口論している間もペルシーはレイランの胸を触ったままだった。
「レイランさん……。これには訳が……」
訳などあろうはずはない。
レイランの顔は真っ赤になり、目から涙が一筋……。
「あの~」
『ペルシー、謝ったほうがいい』
「レイランさん、ごめん!」
レイランは起き上がると、脱兎の勢いでペルシーの部屋から飛び出していった。
『ペルシー、レイランを泣かした』
「これはやばいぞ……」
『レイランは、大胆に見えてとても純情。ペルシーは責任をとらなくてはならない』
「あれくらいで責任はないだろ」
ペルシーの横でムクッとクリスタが起き上がった。
「ペルシー様、レイランさんに何をしたのでしょうか?」
「いや、べつに何も……」
その後、ペルシーたちはレイランを捜したら、ラウンジの隅で蹲っていた。
「エルザ様に申し訳が立たない……。グスッ……」
「レイランさん。クリスタなどは毎日ペルシー様に触られています。そんなに気に病むことではありませんよ」
「本当に?」
「本当です。触られても減るものではありませんし」
「分かった……」
『分かったのかよ! それにクリスタ、毎日触ったりしてないぞ……』
『ペルシー、嘘も方便という。クリスタに任せたほうがいい』
あれほど凜とした男装の麗人が、こんなに純情だとは……。
ペルシーはその落差に驚くとともに、レイランを愛おしく思った瞬間だった。
「大浴場でも素っ裸だったのに……」
『素っ裸だなんて……、ペルシーは下品』
その後、クリスタがブランチを用意してくれたので、エミリアとレベッカも加わって、一緒に食事をした。
クリスタの料理が美味しいこともあり、皆は舌鼓を打ちながら食べたのだが、レイランだけは元気がなかった。
レイランの様子がおかしかったので、エミリアとレベッカは訝しんでいたが、ペルシーから言い出せることではないだろう。
「え~と、そもそもレイランはここに何をしに来たんだろう?」
「ペルシー殿、あなたはエルザ様が《はじまりの森》で冒険者らしき輩に襲われたことを覚えているか」
「もちろん、覚えているよ。傷口には強力な毒が拡がっていた」
「エルザ様は後ろから左肩を切りつけられた」
「たしかに、後ろからの攻撃だろう」
「エルザ様が冒険者ごときに後ろをとられると思うか?」
「う~ん……」
「ちょっと待って。エルザ様って、オーガジェネラルの一撃を槍で受け止めた、あのエルザちゃんよね?」
「そうだよ、エミリーさん。レイランさんはエルザの従者なんだ」
「そうだったの。話が見えてきたわ」
「それで、レイランさんはエルザを襲ったのは冒険者ではないと思っている?」
「冒険者かどうかは問題ではない」
「というと?」
「そいつは時空魔法を使った」
「「「「えっ!!!」」」」
その場にいた全員が絶句した。
この時代に、時空魔法が使えるものなどいるはずがなかったからだ。
「そんな……」
一番ショックを受けたのは、大賢者ガロア・セルダンの子孫にして賢者のレベッカ・セルダンだろう。
ロマニア法国に残されている古文書には、時空魔法を最後に使ったのはガロア・セルダンであると記されているのだ。
レベッカは時空魔法については散々調べたが、今現在、時空魔法を使ったという記録は世界中どこを探してもなかったのだ。
「時空魔法の使い手は一人だけ実存している」
実存している……、それは非常にまずい展開であった。
おそらくレイランは、時空魔法の天才だったジュリアス・フリードの名前を出す気だろう。
しかし、ジュリアス・フリードが活躍していたのは千年も前だし、姿を消す前は魔王と呼ばれていたのだ。
「ちょっと待って! レイランさん」
「心配するなペルセウス殿」
「しかし!」
「私はあなたをしばらく監視していた……。それは時空魔法の使い手であるペルセウス殿が、エルザ様を襲った犯人かも知れなかったからだ」
ジュリアス・フリードの名前が出されなかったことに、ペルシーとクリスタは胸を撫で下ろしたい気分だった。
「だが、ペルセウス殿は犯人ではない。そのような卑怯な真似をするような御仁ではないことがよく判ったからだ」
「レイランさん……。ありがとう」
「礼には及ばない」
レイランはペルシーを一瞥すると、話を続けた。
「それに、エルザ様のお相手として相応しいかどうかは別問題だしな」
「それか……」
ペルシーとしては、龍王の前に引きずり出されるのが一番最悪だった。
本物のジュリアス・フリードでないことがバレた時の、龍王の反応が想像できなからだ。
最悪、命を狙われる可能性も考慮しなければならない。
それに、エルザの悲しむ顔も見たくなかった。
どうしてあの時、ペルシーは嘘を言ってしまったのか……。
今更ながら後悔するのだった――。
「ペルセウス殿、二人で話をしたい」
「了解した」
『ペルシー』
『何だ、パメラ』
『レイランも嫁にするの?』
『するわけ無いだろ。それにまだ誰も嫁になっていない!』
『プチハーレムはまだ先の話し』
『何のことだ?』
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