第30話 リディアの決意と嫁候補
デラウェア邸の食堂に置かれているテーブルや椅子はヨーロッパのゴシック調を思い出すような様式だった。
ロココ調ほど派手ではなくシックなデザインは、とても気分を落ち着かせてくれる。
ミストガルは次元を異にした地球との並行世界である。
ひょっとしたら文化さえも、お互いに影響されている可能性もある――。
まさか夕食にまで招待されるとは思っていなかったペルシーたちだったが、それどころか祝勝会ムードだった。
というのは、はじまりの森調査隊のミゲル、エミリア、レベッカも招待されていたからである。
この三人は魔物大戦の功労者でもあるので、祝勝会ならば呼ばれて当然だろう。
これでギルド長がいれば魔物大戦のメンツは揃うわけだが、大怪我をしたので今宵は遠慮したようだ。
ペルシーにとってはアスターテが招待されていないのが朗報である。
テーブルには上座の左側にデラウェア卿が、右側には奥方のコリンヌさんが座った。
コリンヌさん側のテーブルには、リディア、エミリア、レベッカの三人が座り、
デラウェア卿側は、ミゲル、ペルシー、レイラン、そしてクリスタが座った。
食事の用意ができると、全員で乾杯をすることになった。
乾杯の準備ができると、ジョルダンが話しはじめた。
「皆さん、本日はお集まり下さり、ありがとうございます。今宵は皆さん労うために、ささやかながら会食のご用意をいたしました。リスナール様、どうぞ」
「うむ、堅苦しい挨拶はやめよう。それでは皆さん、乾杯!」
さすがにデラウェア卿が用意したすぶどう酒は素晴らしい味わいだったらしい。
ミゲルの満足げな表情からよくわかる。
ペルシーは地球人としては未成年だが、この世界では身体的には大人である。
酒を嗜んでも何の問題もないのだ。
だから飲む――。
そして食べる――。
コリンヌさんはとても話し好きで、会食は
これだけのメンバーが揃ったのだ、話は尽きることがないかのようだった。
そこまで静かに話を聞いていたデラウェア卿が突然話しだした。
「今日の戦いは妙なことが多かったな。ミゲル殿、そうは思わないか?」
ミゲルは一瞬躊躇したが、さすがに誤魔化すわけにはいかなかった。
「妙と言えば、あの大魔法のことでしょうか?」
「それ以外に何があるというのだろう。いや、グリフォンたちが突然全滅したのも妙であるな」
「あの大魔法は普通の人間が発動できるような代物ではないと思うのです」
「人ではないと」
「龍神族か、あるいは神の類に違いありません」
「エミリア姫もそう思うのだろうか?」
「さあ、どうでしょうか? 案外人間だったりするかも知れませんね」
エミリア姫はペルシーの方をちらっと見て微笑んだ……。
(エミリーさんの裏切り者!)
「人外のことをいくら話しても、想像の域を出ないし意味がない。もし、あの大魔法を放ったのが人だとしたら……、誰だと思う?」
それは全員に対する問いかけだった。
「デラウェア卿、それは賢者に聞くべきでしょう」
ミゲルが逃げた。
この場で賢者はレベッカしかいない。
「私はあのような大魔法を寡聞にして聞き及んでいません。ですが、もしかしたら冒険者の中にはいるかもしれません」
「いや、冒険者の中にはいるとは思えん」
「それは何故でしょうか?」
「冒険者は実力を示して対価をもらう商売と言える。そのような大魔法を放てることを黙っている道理はないからだ」
デラウェア卿の言うことは最もなことだった。
冒険者は自分の力を示してなんぼの商売なのだ。それを黙っているのは不自然だ。
「横から失礼します。私も賢者なので、多少なりとも知識があります」
今まで話に参加しなかったレイランさんが、はじめて口を開いた。
「あの隕石群を降らす魔法は途方もない威力でした。魔物たちが全滅するのは頷けます」
「私は直接見ることができなかったが、レイラン殿は見たということか」
「はい、しっかりと見ました」
レイランはペルシーを監視しているだけではなかったようだ。
ということは、あの時南門の周辺にいたのだろうか?
「あの威力は高位の龍が放つブレスと同等以上のものがありました」
「ほお、レイラン殿は何がいいたいのだ?」
「高位の龍のブレスと同等以上の魔法を放てる人間など、この世にいません」
一瞬その場が静まり返った――。
レイランはあの魔法を放ったのがペルシーであることを知らないのかもしれない。
「何を言うのですか!」
リディアだった――。
「私は見たのです。ペルシー様があの魔法を放つところを!」
(まずい……、酔っ払っているんじゃやないか?)
「娘がああ言っているが、ペルセウス殿」
「さあ? 何のことでしょう。私は龍神族ではありませんよ」
「それはそうだろう。リディア、いい加減にしなさい」
「だって、だって……」
リディアは自分の言ってしまったことの重大さに気がついた。
もう少しで、ペルシーとの約束を破ってしまうところだったのだ。
それを受けたのは他ならないコリンヌさんだった。
「私はリディアの母親として、ペルセウスさんに言って置かなければならないことがあります」
リディアは酔って紅い顔を更に紅くした。
「リディアはペルセウスさんにぞっこんで……、いえ、恋をしているのです」
「お母様、何も今それを言わなくても……」
(ま、まさか……)
「ペルセウスさん、責任を取ってもらえるのでしょうね」
「せ、責任と言いますと?」
「男の責任といったら決まっておろう」
こんどはデラウェア卿が口を挟んだ。
「だがな、ペルセウス殿はまだブロンズ級の冒険者だぞ、コリンヌ。責任を取れと言っても地位も名誉もないのだぞ」
「待ってください!」
リディアが大声で叫んだ。
「私はペルシー様と結婚などできません!」
『複雑な気分だ……。まだ何も始まっていないのにふられた気分……』
『ペルシー、可哀想……』
「今の私はペルシー様にふさわしくないのです!」
『えっ!?』
「私はロマニア法国の魔法学園で魔法を学び、賢者になります!」
「リディア、お前……」
デラウェア卿が呆気にとられている。
「そしていつか、ペルシー様に相応しい女性になって、その時こそ……」
「リディア、分かった! それ以上言うでない。お前の気持ちは理解したぞ」
『リディアさん、かっこいい惚れちゃいそう……』
『ペルシー様、勘違いなさらぬよう……。勘違いじゃない?』
「ペルちゃんは、私がアムール王国にお持ち帰りする予定なんですけれど……」
「エミリア姫、何ですと」
『冗談じゃなかったのかよ!』
「レビィ―ちゃんも狙っているかもしれないし」
「エミリーさん!」
「ライバルが多いですわね。リディアさん」
クリスタも何か言いたそうにしていたが、言える雰囲気ではない。
『ペルシー、クリスタはパメラの嫁だけど、ペルシーになら上げてもいい』
『な、な、な、何を言ってるのですか、パメラちゃん!』
『ついでに、パメラも嫁候補にしてほしい』
突然のモテ期に、ペルシーの頭はオーバーフローしていた。
「わっはっはっ! 面白い! 面白いぞペルセウス殿」
「何が面白いんですか? デラウェア卿」
「全部まとめて面倒を見てくれてもいいのだぞ、ペルセウス殿!」
「そんな無茶な……」
「ペルセウス殿の将来に期待だな!」
デラウェア卿が上機嫌のうちに、会食は終了したのだった。
ペルシーたちはその夜、デラウェア卿邸をお暇すると、適当なところで異次元屋敷ミルファクに入った。
魔物大戦もあってさすがに疲れたので、大浴場で疲れをとることにしたのだ。
『ペルシー、お持ち帰りされるの?』
「そんなわけないだろ」
『クリスタが怒ってたみたい』
「何でクリスタが怒るんだ?」
『ペルシーの鈍感! ラノベ主人公!』
「私は怒ってなどいません!」
いつの間にかクリスタが右隣にいた。
相変わらず気配を絶つのが上手なクリスタである。
もちろん湯船なので素っ裸である。
『ペルシー、クリスタの巨乳がお湯に浮いている』
「え、マジ」
クリスタはペルシーの視線を感じて手で胸を隠した。
「ペルシー様のエッチ!」
「ペルちゃん、こっちなら見てもいいのよ」
「エミリーさん、いつの間に……。デジャブー?」
いつの間にか反対側にエミリアもいた。もちろん湯船なので素っ裸である。
それにしてもこの世界の女性たちは、男と一緒に風呂に入る時、体を隠さないのが普通なのだろうか?
「このお風呂が忘れられないのよね~。レビィ―ちゃんもそうでしょ」
「ここに住みたくなってきました……」
「あのね……」
「たしかに、大浴場というのもいいものだな」
「レイランさんまで……」
『ペルシー、パメラの言ったこと本当だったでしょ』
『なんのこと?』
『レイランは脱いだら凄い』
この後、ペルシーが風呂から出られない状態になったのは言うまでもない――。
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