第28話 魔物大戦(9)終局と男装の麗人
シーラシア防衛隊は残った魔物たちを二時間ほどかかって殲滅した。
ペルシーたちの影の活躍があったにせよ、結果としてシーラシア防衛隊は約八百匹の魔物による侵攻を食い止め、シーラシアの町を守ることができた。
デラウェア卿は玉砕を前提として今回の作戦に臨んだのだから、それを覆した功績は大きい。
アムール王国騎士隊とシーラシア冒険者ギルドは大いに讃えられるべきだろう。
それにしても今回の魔物の侵攻には謎が多い。
それは、いくら他の大陸とは魔物の性質が異なる≪はじまりの大陸≫とはいえ、魔物たちがあまりにも組織的に動いたことである。
特に、最終段階での襲撃タイミングは絶妙であったといえよう。
冒険者ギルドの見立てでは、昼頃に到達する速度だったのが、四時間ほど早く南門に達したのだ。これは誰にも予想できなかったことだ。
真相の究明には情報が足りな過ぎるし、デラウェア領の人材だけでは解明できないだろう。
デラウェア卿にとって、直近の厄介事は――いや、些細な厄介事ではあるが――アスターテが生き残っていることだった。
なにせ、アスターテは捨て駒だったのだ――。
それはデラウェア卿の自業自得というものなのだが、実害はペルシーとリディアに及ぶ。
まず、ペルシーの問題に関してだが、デラウェア卿がペルシーの罪を不問に処すと宣言すればよい。
だだそれだけで済むことだ。
しかし、問題はリディアのほうだ。
アスターテはリディアに粘着するだろう。間違いなく――。
デラウェア卿の対処方法としては、アスターテの参謀の任を解き、アムール王国騎士隊に引き取ってもらう。
それが一番シンプルな解決策だ。
まあ、相当ゴネるだろうが、致し方ないことである。
ミゲル隊長にも一肌脱いでもらうしかないだろう。
そして、影の功労者であるペルシーたちはデラウェア卿の屋敷に呼ばれていた。
ただし、ペルシーのことを知っているのは、リディアとジョルダン、そしてミゲルとレベッカとエミリアだけである。
それでは何故ペルシーたちが呼ばれているのか?
それはリディアがペルシーにベタ惚れしているからである。
デラウェア卿がペルシーという人材を値踏みする魂胆で呼びつけているのである。
◇ ◆ ◇
そして、ここは異次元屋敷ミルファクのラウンジ――。
ペルシーとクリスタはお茶を飲みながら、今回の件について話していた。
「《ペルセウス座流星群》の威力はやばかったな」
「大雨が降ったら、南門の向こう側は沼地にでもなりそうでございます」
『ペルシーの魔力が強過ぎて、加減ができなかった。ごめんなさいペルシー』
「いや、謝る必要はないよ、パメラ。シンクロしが深過ぎたのかもしれないな」
『深過ぎるだなんて……ペルシーのエッチ』
「この小説は少年も読んで……いや、何でもない」
ペルシーは当初、町の中に中型の魔物が入りこんだときのために《ペルセウス座流星群》を使おうと考えていた。
町中であの魔法を使ったら、町の半分はは壊滅状態になっていただろう。
「まあ、結果オーライだよな」
「それもそうですが、ペルシー様が無罪放免になりそうなで安心したのでございます」
『クリスタ、それも結果オーライ』
「そうだな」
すべてが丸く収まったわけではない。
これからデラウェア卿との面会があるのだ。
『ペルシー、デラウェア卿に気に入られて、リディアと婚姻を結ぶことになったらどうするの?』
「そんなバカな」
「いえ、ありそうな話ですよ。ペルシー様」
「いや、本当にそれはないと思うよ。だって貴族の社会は、身分とか財力で人の価値を判断する世界だろ。今の俺には何もないぞ」
「貴族社会的には……そうでございますね」
ペルシーが貴族の令嬢と結婚することなど、万が一にもないだろう。
今のペルシーにはこの世界での地位や名誉など何もないのだから――。
『でも、ペルシーにはパメラもいるし、クリスタもいる』
パメラドールはヘッドギアに組み込まれた魔法AIだ。
だが、今回の旅で魔法に関することはもちろん、ペルシーの相談相手としてとても役に立ってくれた。
ペルシーの認識としては、パメラドールはすでに人間である。
できれば自由に動ける体を用意してあげたいと、ペルシーは心底思うのだった。
ただ、ちょっとエッチなところは改めてもらいたい……。
いや、エロをなくしたらパメラらしくないか――。
光の妖精クリスタには、今回の戦闘や隠密行動で本当に助けてもらった。
光の妖精だから光属性魔法は詠唱しなくてもいいし、光学迷彩とか光子ライフルとか、普通はチート魔法だろう。
ひょっとしたらクリスタはこの世界で最強の戦闘メイドかもしれない。マジな話し――
それにクリスタは召使というよりは、ペルシーのパートナーと言ってもいい存在ではないだろうか。
「それに、ペルシー様には異次元屋敷ミルファクもありますし、金銀財宝が宝物庫に眠っているのでございます」
クリスタは大きな胸を張って、自慢げに言うのだった。
『クリスタの言うとおり。ペルシーは大富豪』
「なんか、実感がないな……」
そうこうしているうちに、デラウェア卿の屋敷を訪問する時間になった。
と言っても、ミルファクの外は既に屋敷の前なのだが――。
ペルシーたちが外に出ると、すっかりと日が暮れていて、空には星が瞬いていた。
「日本の空と違って夜空が綺麗だな~」
「ニッポンとは、国の名前でございますか?」
「地球にある小さな島国でね。俺の生まれ育った国なんだ」
『ペルシーの国……。パメラも行ってみたい』
「いつか皆で行けるといいな」
「その前に、魔法学園に入学しないといけませんね。レベッカ様との約束ですし」
「聖女ペネローペを捜すほうが優先順位は高いだろ?」
『大丈夫。どれも両立できる。まだそのくらいの時間は残されているはず』
その時、突然ペルシーたちの頭の上を大きなものが影を落とした――。
「な、なんだ!」
ペルシーたちの前に、大きな龍が舞い降りた――。
「エルザじゃないな!」
エルザは白銀色の龍である。この龍の色は漆黒と言っていい。
その漆黒の龍は突然人間に姿を替えた。変えたのではなく替えたのだ。
それは千年以上生きた龍神族だからこそできる、共次元空間を使った、龍の体と人間の体の切り替えである。
そして、そこに立っていたのは男装の麗人であった。
「ペルセウス様。はじめてお目にかかります。私の名前はレイラン。エルザ様の使いの者のでございます」
その麗人の名前はレイランといい、エルザの使いの者だという。
これからペルシーたちは、龍王の下へ連れて行かれるのだろうか――。
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