第27話 魔物大戦(8)掃討戦
シーラシア防衛隊は、隊列も整わないまま南門に侵入した小型の魔物たちと接触した。
「門の周りを包囲しろ―!」
アムール王国騎士隊の隊長であるミゲルが大声を上げて周囲の隊員に命じた。
本来命令を下すはずのデラウェア卿や参謀のアスターテがこの場にいないのだ。
ミゲルが代わりに指揮するしかない。
南門は巨人族によって破壊されたものの、小型から中型の魔物たちが殺到して、詰まっている状態だ。
門に入ってきたところを叩くという好循環に持ち込めれば、ゴブリンやオークならば殲滅できるかもしれない。
「盾部隊はゴブリン共を押し返せ! 槍を持ったものは盾の後ろに回れ! 剣士は両脇に別れてゴブリンたちが漏れ出てこないように応戦しろ! 魔法使いと弓士は後方から援護!」
ミゲルの号令で、徐々にシーラシア防衛隊は落ち着きを取り戻してきた。
巨人族やオーガやミノタウロスとの直接対決を避けることができたのだ。考えようによっては門の外で乱戦になるよりも遥かにましな状況である。
レベッカとエミリアの魔法使い部隊も、必死になって魔法を放った。
狙いは門の中心である。
「ファイアーバレット!」
「アイスニードル!」
「ウインドカッター!」
魔法使い部隊が放つ属性魔法の共演で、魔物たちの勢いが止まりはじめた。
迂闊に門に近づけなくなったからだ。
しかし、敵もさるもので、巨人族が門の両側の防護壁に体当たりしはじめた。
「まずいな。これでは防護壁は数分も持たないぞ」
ミゲルが思案していると、作戦参謀のアスターテが現れた。
指揮官のデラウェア卿が不在なので、参謀であるアスターテが指揮をするのが筋である。
「貴様ら! 何をやっている! 早く魔物共を押し返せ!」
シーラシア防衛部隊は、その場凌ぎで編成された混成部隊なのだ。
具体性のない指示はただの雑音に過ぎない。
まったく、指揮になっていなかった。
すると、巨人族によって防護壁が破壊される前に、盾部隊の隊列に亀裂が入りはじめた。
ミゲルは急いでサポートに入る。
「紅蓮剣!」
ミゲルの魔法剣は盾部隊から漏れ出てきたゴブリンたちを、一振りで数匹両断した。
味方が密集しているので、最大火力では応戦できないのが辛いところだ。
その時である。
大気を
その後すぐ、数十の光球が門の向こう側に突き刺さった。
『ヒューン……ドッカーン!!!』
光球の着弾とほぼ同時に、衝撃波が南門と壁を破壊して、防衛隊をも吹き飛ばした。
百五十人いた防衛隊はすべて吹き飛ばされ、気絶したり、壁の破片で怪我をした者もいるようだ。
副指揮官のアスターテは近くの建物に叩きつけられて気絶している。
魔物たちは門に近かったので、防衛隊よりも被害は甚大である。
「なんだよ今のは……」
幸い、防衛隊の半数以上がすぐに立ち上がり、応戦する体制に入った。
「魔物たちは弱っている! 五人一組になって各個撃破だ!」
しかし、今の衝撃波のせいで、防衛隊のほとんどはミゲルの号令が聞こえていないようだった。
「仕方ない。レベッカ! エミリア! 一緒に来てくれ!」
ミゲルはレベッカとエミリアを引き連れて、ふらついている魔物たちに切りつけていった。
ペルシーによってミスリルの刃を付けられたミゲルのバスターソードは切れ味が抜群である。
ゴブリンやオークたちを瞬く間に切り捨てていった。
その両脇からレベッカとエミリアの魔法が放たれる。
しかし、そこに生き残ったオーガやミノタウロスが侵入してきた。
「ちくしょう! 生きていやがったか!」
生きている以上仕方がない。戦うしかないのだ。
「オーガに対しては十人一組でかかれ!」
三人にとって、オーガはトラウマになるほど苦戦した。
もし、あの時、ペルシーが来てくれなかったら今のミゲルたちは存在しない。
ミゲルは《はじまりの森》のことを思い出しながら、オーガたちに突進していった。
ミゲル、レベッカ、エミリアによるデルタアタックで、オーガやミノタウロスたちを数体倒したが、疲れが見え始めていた。なかなか、次の一体が倒せない……。
ゴブリンやオークの数が多過ぎて邪魔なのだ。オーガに集中できない。
「しまった。乱戦になって来たぞ。一旦引いて体制を立て直すか」
ミゲルが指示を出そうとしたその時である。
防衛部隊の後方から光る刃と光の弾丸飛んできた。
光に刃は虹色の光跡を残し、光の弾丸は光の粒子を撒き散らし、次々とオーガたちに突き刺さっていった。
「ミゲルさん! 今の魔法は!」
「ああ、ペルセウス殿だ! 間違いない」
「さすがペルちゃん! 私の王子様! 私がピンチの時に現れてくれるのね」
「エミリーさん。
「二人とも! 前の魔物に集中しろ!」
「「はい!」」
中型の魔物たちが倒された後の掃討戦は、シーラシア防衛隊が混成部隊だとしても、それほど困難なことではなかったが、時間にして一時間ほどかかった。
ただし、状態異常を引き起こすバジリスクや、すばしっこいケルベルスがいたので、多少手こずってしまった。
それに、なぜかグリフォンが一匹も現れなかった。
もし、あの場にグリフォンたちが現れたら状況は一変したかもしれない。
「グリフォンを討伐したのは、おそらくペルセウス殿だな」
「間違いありませんね」
「さすがペルちゃん。私のために……」
「
「二人とも! その話しは後にしてくれ! これから怪我人を救護するぞ!」
「「了解!」」
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